第十話 スキル
テッテテーン
ビックベアを倒した後、脳内に謎の音が鳴った。
なんだこれ? と首を傾げるとシルバーが「あぁ」と何か気づいたように声を漏らした。
「レベルが上がったみたいだな」
「……これが、レベルが上がった音か」
「そうだよ、多分今のでレベルが3くらいにはなったんじゃないかな? ステータス画面見てみれば」
言われた通りにメニューを開いてレベルを見る。確かに名前の横にLv3という数字が並んでいた。
「それで、ステータス画面を開くとステータスポイントがあるからそれでステータスを上げる事が出来るぞ」
「……えぇと?」
一遍に言われても正直よく分からない。なんだっけ? ステータスを開いてステータスを上げる?
ゲーム用語を並べられても、これまでポケ〇ンやマ〇カーしかやってきていないんだから分かる訳がない。
「はは、ごめん。まずはステータス画面を開いてみて」
「……うん」
シルバーの言葉に従いメニュー画面からステータスの項目を選ぶ。すると、そこからアルファベットの文字とその横には10の数字と+-のボタンがあった。
「STRは物理攻撃の上昇、INTは魔法攻撃の上昇、VITはHPや物理、魔法攻撃の耐性の上昇、AGIは攻撃速度や行動速度が上がり、DEXは命中率や生産の成功率の上昇する。これは、主に遠距離から攻撃する人たちに重要のかな。LUKはアイテムドロップ率の上昇、TECは生産の質が上がるし、MIDは異常状態の耐性がつき、CHRは調教系のスキルの成功率が上がるらしい。基本は自分のプレイスタイルに合わせて振り分けるんだけど、ファングは初心者だしそう構えずに自由にやっていいと思うよ」
「……よく分からないけど、とりあえずこの数字をどんどん増やしていけば強くなるのか?」
「そういう事」
へぇ、不思議な仕組みだな。レベルを上げるだけじゃダメなのか。
現在のオレのステータスポイントは13。多いのか少ないのかはよく分からないけどとりあえず増やさない事には始まらない。
えぇと、今のステータスが……
アバター名『ファング』 所持金10500E
レベル:3 HP:500 MP:300
STR:10 INT:10 VIT:10 AGI:10 DEX:10 LUK:10 TEC:10 MID:10 CHR:10
装備:ナイフ 冒険者の服
しかし、プレイスタイルと言われても始めたばかりだしよく分からないなぁ。シルバーは自由にしていいと言っていたがその自由が分からないんだよな。う~ん、どうしたものかな。
まぁ、均等に割り振ってみるか。
アバター名『ファング』 所持金10500E
レベル:3 HP:800 MP:320
STR:30 INT:30 VIT:30 AGI:30 DEX:20 LUK:20 TEC:20 MID:20 CHR:20
装備:ナイフ 冒険者の服
「出来た?」
「……ああ、こんな感じになった」
「どれどれ?」
振り分けが終わった所に、シルバーが気になったようで画面を見たそうにしていたので画面を見せる。シルバーも興味津々といった様子で覗いてきた。
「……おぃ、これは見事に均等に振り分けたな」
「……何か間違ったか?」
「いや、別に悪くはないけど……」
オレの画面を覗きながら難しい顔をするシルバー。どうやら、あまりよろしくないようだ。う~ん、難しいな。
「……お前は、どういう感じなんだ?」
「えっ、俺? 俺はこういう感じかな」
参考までにシルバーのステータスがどうなっているのか訊ねる。彼は見た感じゲームに詳しいようだし、いい見本になるのではないだろうか。
シルバーは軽く頷くとささっとメニューを操作してオレに見せた。
アバター名『シルバー』 所持金15000E
レベル:13 HP:1100 MP:300
STR:80 INT:10 VIT:60 AGI:60 DEX:10 LUK:10 TEC:10 MID:20 CHR:10
装備:片手剣 冒険者の服
ふむ、こうなっているのか。オレとは違い、STRとAGI、それからVITを中心に振り分けている。
確かSTRは筋力、つまり物理攻撃力を上げる。そしてAGIは素早さを上げ、VITは体力を上げるつまり死ににくくなるという事。なるほど、確かにちゃんと考えられている。
「まぁ、俺の場合は基本剣士を意識したプレイスタイルだからこういう風になっているけど。まぁ、ファングはこれから自分がどういう風にプレイしていくか考えていけばいいんじゃないかな?」
「……どういう風に、か。意外と考えるものなんだな」
「それがRPGの醍醐味というやつだからな」
そういって笑うシルバーは、凄く楽しそうに見えた。その顔で彼が本当にゲームが好きなのが分かる。
それが、オレには羨ましい思えてしまった。オレには、彼ほど好きなものがない。だからだろう、余計に彼の笑顔が眩しく見えた。
と、感慨に浸っているとオレの視界に文字が浮かび上がっていた。
『【体術】スキルが習得可能になりました』
おぉ、なんかまたよく分からないものが出てきた。
とりあえず、シルバーに相談するか。
「……シルバー」
「ん? どうした?」
「……なんか、スキルというのが出てきた」
「あぁ、スキルね。それは、まぁ、なんというか必殺技みたいなものだよ。スキルポイントを消費してスキルを習得するんだよ」
「……ふむ」
「スキルはまず、そのスキルに当てはまる行動を取る、今回の場合はファングが素手でモンスターを倒したのからスキルが発生したんだと思う。あとは、特定のクエストをこなせば習得できるスキルもある」
「……へぇ」
「習得しておいて損はないから習得しておけば?」
ふむ、必殺技か。イメージとしては父さんのみたいな感じかな。父さんもいくつか持ってるし。
【体術】というのもオレと相性がいいように思える。なら、取らない理由もない。
「……どうすれば習得出来る?」
「スキルの欄のイエスボタンを押せば習得できるぞ」
言われた通りに操作してイエスボタンを押す。すると、『習得しました』の文字が浮かび上がった。
「これで、ファングもスキルが使う事が出来るぞ。スキルはMPを消費して使うからMPが空になれば使えない。そこら辺のことを考えて使うのがコツかな」
「……なるほど」
シルバーの説明を受けて、試してみることにする。えぇと、どうすればいいのかな。
「メニューからどういうスキルがあるのか調べられるぞ。あとは技を唱えれば自動的に体が動くようになっている」
という事なので、メニューから【体術】スキルの説明を読んでみる。
一番最初にあったのは【スマッシュパンチ】。MPは30消費するらしい。威力はSTRに依存すると書いてある。
スキルの説明を読んだ所で近くにあった木で試す。
拳を握りしめ、狙いを定める。後ろでは、シルバーが眺めていた。
「【スマッシュパンチ】」
瞬間、オレの右手が光り体が意思とは関係なく動く。右腕を引き、固められた拳が木の幹に直撃する。
ドゴンッ、という音と衝撃が鳴り、木が揺れて数枚の葉っぱが落ちてきた。
「……おぉ」
自然と声が漏れる。これが、スキル。拳から伝わる衝撃は、その威力を物語っていた。凄いなぁ、体が勝手に動くので格闘経験がない人でも簡単に出来る。これは、なかなか面白い。
「どうだった?」
背後から聞える声に振り返れば、シルバーがニコニコ、と微笑んでいた。
「……凄かった」
「そう、気に入ったならそのスキルはファングと相性がいいって事だな」
「……相性?」
「あぁ、スキルは確かに強力であるが、その反面自分に合う合わないがあるんだよ。なんというか、体にしっくりこない感じかな」
「……そういうものか」
確かに、父さんと稽古している時父さんの対戦相手のプレイを参考にしたりするがしっくり来ないものがある。シルバーが言っている事はそれと同じ事なのだろう。
ゲームなのに、自分に合わない技がある。それは一見してゲームとしてどうなんだと首を傾げる事であるが、言い換えればそれほど現実に近いと言う事になる。
このゲーム、中々奥が深そうである。
「まぁ、とりあえず一通り説明も終わった所でどんどん行こう! レベルが上がれば出来る事も増えるしその分もっと楽しい事があるぞ!!」
そう言ってシルバーは一気にテンションを上げ、森の奥の方を指差す。その顔は早く早くと急かしているようだった。いや、実際に急かしていた。
まぁ、時間もまだあるし、問題ないのでオレたちはさらに森の奥を目指して歩き出した。




