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魔神ノ輪廻 前編  作者: 優しい(らしい)ソシオパス
魔神の力を宿す青年 レオネス編
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第17話 不死の少女との出会い


ホピラ村 宿屋にて


(…暖かい…?)


 包まれるような柔らかい感触。きっと既に朝なのだろうけど、視界か暗い。状況を確認しようとするけれど肩の辺りに腕を組まれており上手く動けない。


(…これはもしや)


 顔を挟まれるような暖かさ。昨日はシャルと一緒に寝たという事実から導かれる答えは一つだけだった。僕は今、シャルの胸で顔を挟まれている。


(…どうする? これはさすがに…怒られるか…?)


「むにゃむにゃ…」


 かといって下手に動いたら起こしてしまう。心地よいだとか、気持ちが良いなどという雑念は一旦排除しなければいけないと思った矢先だった。


『起きたか、宿主よ』


(!? って、魔神か…おはよう)


 …いきなり話しかけられて驚いた。もしもジーノとかに見つかったら何を言われるか分からないからそれだけは避けなければ。


『昨日は話す機会がなかったからな、おそらく今しかないと思いこちらから持ちかけた』


(あ、ああ…もしかして昨日のあれかい?)


『そうだ。単刀直入に言おう、あの現象は引き起こした張本人がいる』


(なんだって? それじゃああれは誰かが意図的に?)


『意図的かと言われると難しいが…おそらく宿主は巻き込まれたのだろう。向こうにもこちらは認識されていないはずだ』


(認識されていない…? じゃあ僕はその誰かが止めた時に巻き込まれただけで、攻撃という訳じゃないんだね)


『その通りだ。だが気を付けろ。あの()()は我を宿した宿主だからこそ無効に出来るが、その情報は向こうも知っている』


(つまり…時を止まっている最中に、その人物に出会ったら僕が魔神を宿しているとバレてしまう?)


『そうだ。おそらくその姿は紫髪の少女で間違いないはずだ』


(紫髪の少女? 知っているということは君は昔に…)


「な、ななななな……!」


「…ん?」


 魔神と会話している最中に上から声が聞こえてきた。見上げてみると、シャルが顔を真っ赤にしながらわなわな震えている。それもそうだ、魔神と話している最中でも頭の動きはある。つまりそれを悪い方向に捉えられてしまった訳で。


「………お、おはよう」


「何ちゃっかり堪能してるのよ、レオのバカーー!!!」


「あ、ちょっとこれは誤解でグハァ!」


 朝から思い切りベッドから放り投げられる。誤解とはいえ女性の胸に顔を埋めながら、さらには起きていながらとなるとこうなるのは当たり前だった…




しばらくして


「………」


「…えっと、ごめんシャル。悪気は無かったんだ」


「…すけべ。むっつり」


「うっ…ごめん」


 まるでジーノを見るような目でこちらを見てくる。色々と弁明しようとしたけれどこれは…厳しそうだ。


「……昨日はあんなに誠実だったのに…」


「え?」


「…何でもない!」


「…本当にごめん」


 気まずい雰囲気の中で身支度を整える。これは外に出たら色々と質問されてややこしくなってしまうかもしれないと思っていた矢先、シャルから話しかけてくる。


「…えっと、さっきは私もごめんね。考えてみれば私、寝相悪いからその…事故の可能性もあるよね」


「ああ、ええと…確かに。起きたらああなっていたというかなんというか…」


「だ、だよね…でも、でもだよ?えっと…レオ、起きてたよね…?」


 そう、ここだ。いくら言い訳を並べてもこの事実は覆らない。寝ている女性の胸に顔を埋め、起きていながら堪能していた。まさに確信犯そのものだった。おまけにリーゼラルからの想いも知られているので余計に難しい。


「………」


「そ、そんなに…その…好きだったの?」


(…どうする!? 今までで一番難しいぞ…! どう答えるのが正解なんだ!?)


 肯定すればジーノの仲間入り。否定すれば説得力皆無。魔神と話していた事を伝えるのはもっての他だ。


「じー……」


 視線が痛い。沈黙が最も悪手だなんて分かりきっている。これはもう…腹を括るしかなかった。


「…心地よかったです」


 折れた。おそらくこれしか道はないだろう。確かに少しは思ってしまったのだけれど、なんだかお父さんとお母さんに申し訳なくなってきた。


「そ、そっか…心地よかったんだ…」


「…本当に、ごめん」


「い、いいよ! 正直に話してくれてありがとう! でも、えっと…リーゼラルさんを悲しませちゃだめだよ…?」


「…はい」


 リーゼラルはスレンダーな方だ。だからこその忠告なのだろうけれど…心が痛い。どうしてこうなったのだろうか…


『…すまない宿主。我が事をややこしくしてしまったようだ』


(はは…いいよ。うん、僕は大丈夫さ…)


 魔神からのフォローが心に染みる。信頼がゼロになるよりはましだと思いながら他の皆と合流するのだった…



宿前


「皆おっはよー! 今日はとうとうフェイル王国だね!」


「朝から元気いっぱいなこったな、カレン。こちとら男二人で狭かったぜ…おまけに勝負にも負けたから床で寝る羽目になるしよ」


「はっはっは、この前は拙者の負けだったがここ一番で上回ったのはこちらだったな!」


「うむうむ、なんだかんだ元気そうじゃないか。二人もよく眠れたかい?」


「はい、ぐっすり眠れたからもう大丈夫です!」


「僕も大丈夫だよ…うん」


 返事をする僕の様子を見てジーノが肩に手を置いてくる。まさか知られてはいないと思うけども…


「…俺たちは仲間だぜ、レオネス」


「あ…そうだね」


 …おそらく床で寝た仲間という意味合いだろう。そう信じたい。他の人達はそういう意味合いだと捉えているようで、各々出発の最終確認に入っていた。


(…よし、気を取り直そう。ここからはフェイル王国に向かうんだ、信託官や賢者にも気を付けないといけないな。それに、時を止めた張本人や勇者アゼルにもだ)


 そう、ここが大事な場面だ。失敗は許されないが、この世界を知るまたとないチャンスでもある。その事を再確認しながら、僕達はホピラ村を出立したのだった。





フェイル王国 正門前


 歩き続けて数時間後、ようやく王国へとたどり着く。道中に何回か魔物の襲撃はあったが、たいした脅威にはならなかった。


(しかしまあ…大きい塔だな)


 遠くからでも見えていた王国にそびえ立つ巨大な塔。近くに来てみるとその高さに衝撃を受けるほどだ。


「ここがフェイル王国…! なんだか建物の雰囲気も違うし、あそこに見える塔とか雲に届きそうじゃない?」


「そうだね。色々と見識が広がりそうだ」


 話している間にショゼフさんが手続きを済ませてくれたらしく、すんなりと中に入れた。町並みは帝国とは異なり石造りが多い印象だろうか。所々に立っている光っているモニュメントも特徴的だ。


「さて、私達は大神殿へと向かい薬の件を伝えてくるが君達はどうする?」


「んー、俺は付いていくってガラじゃねえかな。その辺をぶらぶらしながら適当なとこで宿に戻ってくるわ」


「では拙者は買い出しに向かわせてもらおう。少々欲しい素材があってな」


「じゃあ私達も見回ろうか? せっかくのフェイル王国だし!」


「うん、いいよ。とはいえ羽目は外しすぎないようにね。それじゃあ皆、また宿で合流しよう」


 集合場所を決め、各々が行動を開始する。なんだかんださっきの件は水に流してくれたらしく、シャルもいつも通りになっていて助かった。

 二人で散策しながら歩いて分かったが、生活様式はこちらとはだいぶ違うみたいだった。技術でエレメントを操っているのが帝国だが、こちらは生まれながらにして身近にあるような古き良き伝統だと…そのように感じ取れる。


「すごいね、こっちじゃ皆魔法を扱えるみたいだよ。ほら、子供が魔法で遊んでる」


「男女の差もあんまりないみたいだね。これが神様の恩恵ってやつなのかな?」


「…そこの人達、お待ちください」


 二人で会話中、後ろから話しかけられる。振り向くとそこにいたのは自分達よりも背が低い、ローブ姿の女性だった。


「あ、えっと…何かご用ですか?」


「あなたたち、帝国から来ましたね」


 隠れていた鋭い目がこちらを睨み付けるように現れる。その様子から警戒されている事は明白だった。


「こちらの状況は帝国にも伝わっているはずです。それなのにどうしてここにいるんですか? 関所も閉鎖されているはずですから正規の道で来た訳ではないですよね。場合によっては大神殿へと同行してもら…あいたぁ!」


 なかなか迫力のある口調で捲し立てられていたら、後ろから男性がその頭を思い切りひっぱたく。


「何をするんですか! 私はただここに入り込んだ不審な者達を…!」


「ちっと落ち着け、この人達はさっき手続きして門潜ってきてたろ? どう考えても怪しくはないから」


「それは…確かにそうかもしれませんが! ちょっと強くぶちすぎです! 女性に手を上げるなんて最低です!」


「うるせー、濡れ衣常習犯。それならもうちょっと考えてから行動しろよな」


 そのまま僕たちを置いておいて口論を始めてしまう二人。とりあえずシャルと目を合わせたけれど、向こうも考えている事は同じだったようで。先に動いたのは彼女の方だった。


「ええと、あの!」


「なんですか? 私は今この失礼な男に…」


「とりあえず喧嘩は止めましょ? ほら、他の人も見てますし…」


「おっと…確かにあんたの言う通りだ。ほらフィーラ、ちゃんとこの人達にごめんなさいしろ」


「何がごめんなさいしろですか! 私は子供じゃありませんしあなたと年も少ししか…って無言で手を上げないでください! 暴力反対ー!」


 そのやり取りの後にやれやれといった様子で男性がこちらに向き直る。

 グレーの髪に緑の帽子を被っており、その下から見えるのはやや鋭い目。だが物腰は柔らかくて取っ付きにくい訳ではない、そんな人だった。


「いや、ごめんなさいねやかましくて。とりあえず不快な思いをさせたなら俺が代わりに謝りますので」


「いえ、大丈夫ですよ。僕たちが帝国から来たというのも間違いではありませんし、不安にさせてしまったのなら申し訳ありません」


「そんなそんな、気にしないでくださいって。あの荷物を見れば大切な事情がある事は分かりますからね。おっと、自己紹介がまだでした。俺はロベルト、風霊狩人です。で、このちんちくりんが神官のフィーラね」


*風霊狩人

 王国に存在する『狩人組合』に所属する狩人。名前の通り風元素を用いた戦い方が得意。


「僕はレオネスといいます。帝国で冒険者をしている者でこっちが…」


「シャルネです、レオと同じく冒険者をしてます!」


 ちんちくりんという言葉を聞いて何か抗議の目を向けているのが気になったけれど、渋々といった様子でフィーラも自己紹介をしてくれた。


「…フィーラです。先程は申し訳ございませんでした」


 謝罪をしながらローブを取ったその下に隠れていたのは、薄紫色の髪の少女。髪の片側にリボンを止めており、大きめの黒目が印象的な人物なのだが…魔神に言われた事を思い出して少しだけ警戒してしまう。


「大丈夫だよ、フィーラちゃん。間違いは誰にでもあるから気にしないで!」


「…あのシャルネさん、私はフィーラちゃんと呼ばれるほど幼くないです。大人です」


「え!? あ、そうなの? ご、ごめんね。その…可愛い子だなって思っちゃって」


「むう…」


「ま、ちんちくりんなんだから諦めろ。ほら、早く行くぞ。さすがのあいつも待ちくたびれちまう」


「何処かに向かう途中でしたか?」


「まあそんなとこです。観光の邪魔をして申し訳ありませんでしたね。でもま、こんな奴はそうそういないから安心して大丈夫ですから。ほら行くぞ」


「…黙っていればさっきからなんなんですかあなたは! 人の事を馬鹿にして! シャルネさんも間違いは誰にでもあると…ってあいたた! だから引っ張らないでくださいー!」


 ロベルトが猫の首根っこを掴むようにフードを掴んで彼女を連れ去っていく。神官という事で正体を探られないかヒヤヒヤしたが、どうやら大丈夫そうだ。


(…あの人が時を止めた張本人とは考えにくいかな)


 魔神からの話だと薄紫色ではなく紫色だと言っていたはずだ。それに、時も止まる事はなかったからおそらくは大丈夫だろう。


「な、仲が良い…のかな?あの二人」


「悪くはなさそうだけれども…まあ気を取り直して行こうか」


 それからしばらく王国内を観光していく。とはいえあまり大きな催し物は行っておらず、ぶらぶらと歩いていただけだが…それでも新しい場所は楽しいもので、あっという間に時間が過ぎてしまう。気がつけば日が暮れようとしていたのだった。


「ふぅ、結構見て回ったねー」


「だね。王国の中心部は入れなくても、外側だけで結構な距離を歩いた気がするよ」


「ね! おしゃれな小物も見つかったし成果は上々だね!」


 新鮮な王国観光にシャルも満足している様子だ。彼女は途中でトラブルに巻き込まれる事も無かったからだろうが…こちらの事情は違っていた。


「さーて、後はジーノさん達の所に―――」


 …シャルと歩いている最中に度々起こった現象、それはまるで自分以外の時間が止まってしまったように動かなくなる光景。既に何度か経験した後なのでそこまで驚きはしないが。


「…またか。近くにいるのか?」


 どうやら本当に時間が止まっているらしく、あまり動くと自分自身が瞬間移動したように見えてしまうようでなかなか行動が制限される。幸いにもシャルがこちらを向いていないから場所さえ変えなければ問題無いのだが。


「―――帰るだけだね! 確かこっちの宿で合ってたっけ?」


「あ…ああ。そこで合ってると思うよ」


 時間にして六秒ほどだろうか。長くはないが頻繁に起こると結構鬱陶しいものだった。


「じゃあ、あと少しだね。明日にはもう戻るのかな? その辺りもショゼフさんに聞いて…」


「おにーさん!おねーさん!ちょっといーい?」


 二人で話ながら歩いている最中、ふと話しかけてきたフードの女の子。それはフィーラよりも深く被られており、背丈の小ささも相まってこちらからは表情が読み取れなかった。


「ん? どうしたの、何かご用?」


「二人って帝国から来た人? なんだかかっこいいし綺麗だなーって思って話しかけちゃった!」


「あら、嬉しい! そうだよ私達は帝国から来たんだー。あ、とは言ってもこっちの事情は聞いたからあんまり羽目は外しすぎてないよ」


「へぇ、そうなんだ…」


 次の瞬間、再び時が止まる。今回は少女の視線がこちらを向いていたから今の場所から動くのは得策ではないだろう。何度か経験した状況に対して、軽くそう思っていた。

 だが、この場所に起きている別の異常を認識するのは…すぐだった。


「…ふふ、みぃつけた」


「なっ…!?」


 動いていた。この異常な空間で、言葉を発していた。咄嗟の出来事に身構えるが、それを許さないと言わんばかりに歩みよって来る。


「あんまり動くと怪しまれちゃうよ、時間が無いから…はいどーぞ」


 差し出されたのは一枚の手紙。一瞬受け取るかどうか考えたが、彼女の左手を見てすぐに手に取る。彼女はその手にナイフをちらつかせていたからだ。


「ふふ、察しがいいね。素直な()()は好きだよ」


 こちらが手紙をしまうのを確認してから定位置へと戻っていく。そしてちょうど六秒ほどが経過して、彼女はとびきりの作り笑いをしていた。そう、時が動き出したのだ。


「…帝国の人ってしっかりしてるね! おにーさんも彼女さんを大切にね? こんなに素敵な人を逃したら勿体無いよ~」


「あ、ああ…ええと…」


「や、やだ! 私達はその、そういうのではなくてね?」


「あ、私用事があるんだった! じゃあね、おにーさんにおねーさん! ばいばーい!」


「え、あ、ちょっと!? もう、自由な子…ばいばーい!」


「………」


 あまりの急変振りに驚かされたけれど、シャルが気が付いていないのはさすがというべきだろうか。ともあれあの子が時を止めていた張本人で間違いないのだろう。


「あれ、どうかしたのレオ? なんだかぼうっとしてるけど…」


「いや、なんでもない…と言いたいけど、ちょっと疲れたのかもしれないかな」


「あ、なるほど。お昼から歩きっぱなしだもんね。宿に戻ったらゆっくり休まないと」


「うん。心配してくれてありがとう」


 気を取り直して動揺を悟られないように宿へと向かう。ひとまずは手紙の確認が最優先だろう、おそらくは自分がその内容に反した行動をしたら…


(…人質か? あの能力は僕には効かないらしいけど、他の皆はそうはいかないみたいだし…)


 宿に入った後、少し体調が優れないと言ってシャルと別れ、部屋へと戻る。そしてすぐに身支度を下ろさずに座り、手紙を開く。

 そこに書かれていた内容は…




『名も知らぬ誰かさんへ。深夜、ウィーデリッヒ広場にてお待ちしています。どのように判断をするかはご自由にしてもらって構いません。ですが…どうか、ワタシのナイフが血に塗れないようご注意くださいませ』

裏話

シャルネの朝


(ん…もう朝…?)


(胸の辺りが暖かくて気持ちいい…そっか、昨日はレオと一緒に…)


 その時だった。胸の辺りに違和感を覚える。というか腕も誰かの体を抱き止めるようになっている。


(…!?わ、私…もしかして…?)


 恐る恐る下を向くと、レオがおもいっきり胸の中にいた。がっつりと、遠慮なく。


(…こ、ここここ、これは!?まずい、これはさすがに一線を!一線を越えちゃう!!いや、越えさせちゃう!!)


『おっぱいっていうのはよ、言わば鍵さ。男の理性という錠前を外す…な』


 心の中のジーノさんが無駄にかっこよく言い放ってくる。それを隅に吹っ飛ばしながら状況を整理する。


(確かに昨日はちょっと攻めすぎたと思ったけど、これは確実にヤバイよね!?あ、あんな事しておいて朝っぱらからこれは…まずいよね!?さ、誘ってる感じになってるよね!?)


 落ち着け私。落ち着けシャルネ。

 まだレオは寝ている。まだリーゼラルさんに謝らなくても大丈夫。昨日確かめて決心したんだから、二人の仲を応援しようって。

 だからこそゆっくりと、起こさないように離れようとする…いや、したのだけど。


(………え?)


 目が、開いていた。何処か虚空を見つめるような眼差しでレオは起きていた。


(起きてるーーー!?!?)


 頭の中がパニックになる。状況が分からない。起きてるならなんでされるがままなのか。それほどまでに夢中なのか。しかもちょっと離れたというのにまだこちらには気がついていないし。


(と、とりあえず離れないと…!)


 しかし離れようとした瞬間、レオの頭が動く。驚いて動きが止まってしまったけれど、その動きは頷くようなゆっくりとした動きで。枕の柔らかさを堪能するような動きで。


(っーーー!!!)


『おっぱいっていうのはよ、言わば鍵さ。男の理性という錠前を外す…な』


 繰り返しジーノさんの言葉が反復してくる。その時にはもう既に、私の頭は許容量を遥かに越えていたのだった…

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