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魔神ノ輪廻 前編  作者: 優しい(らしい)ソシオパス
魔神の力を宿す青年 レオネス編
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第13話 謎のドラゴン見参

水晶洞への道中にて


 水晶洞への道を進んでしばらく、魔物の襲撃などはなく順調に歩を進めていく。普通ならありがたい状況だが…


「…なーんか魔物…というか生き物が少ねぇな」


 ふとジーノが呟く。それはまさに自分も思っていた事だった。


「だよね。ここの道に来たことがないから断定は出来ないけれど…」


「なんだか静まり返っていて怖いね…」


 魔物の出没情報が出ている中で静まり返っている道。嫌な予感はするけれども、ここで立ち止まるのも危険だと判断して足早に水晶洞に向かおうとしていた、その時だった。


「………ガラァァァァハッハッハァ……!」


「…!」


 どこか遠くから響くような笑い声。明らかに人間のものではないその声に、一気に緊張が高まる。


「なんだ、この声は…!」


「………ちょっと待ってろ、そこのニンゲン……!!今そっちに行くゼェェェェ………!!」


「おいおいおい、冗談だと言ってくれよ。絶対めんどくさい輩だぜ、これは…」


 その言葉が聞こえてきた後、遠くからこちらに凄まじい速さで走ってくる何かが見えた。

 待ってろと言われたがとても動くような時間は無く、やがて自分達の目の前に現れたのは……『黒い鱗のリザードマン』だった。

 新手の奇襲かと思い即座に武器を構えるが、相手の次の行動はまたまた予想外のものだった。


「ヨォ、面白そうなニンゲン!俺の名前はリューガンってんだ、よろしくナ!」


「え?あ、はい…よろしくお願いします?」


 何故か普通に挨拶をされてしまった。リザードマンはこちらと同じく武器を用いて戦闘をするはずだが、よく見たら武器も持っていない。


「…普通に挨拶して終わりではないだろうな?何が目的だ?」


「目的は単純、お前らに戦いを挑みに来たんだヨォ!さあ、戦おうゼェェェェ!!」


「う、うるさい…」


 爆音ともいえるような大声にシャルが思わず言葉を漏らす。とはいえ戦い好きの魔物という事は分かったからそれに乗るかどうかなのだが…


「…どうする、ジーノ?」


 確認しようと振り返ると、彼は一人だけ険しい顔をしていた。


「…ジーノ?」


「………あの眼、鱗…まさか…」


「…?」


「……逃げるぞ、戦おうなんて考えるな」


 彼からいつもとは違う雰囲気を感じとる。呟きから、奴は普通のリザードマンではない事は分かったのだが…


「逃げるって…さっきの村まで?」


「ああ、そこまでいけば何とかはなるはずだ」


「それほどまで危険な…」


「オイ、何コソコソ話してんダァ!?そっちにヤル気がないならこっちから……ン?」


 背中に手を伸ばした後に振り替える魔物。そして何かに気がついたらしく突如笑い始める。


「…ガラァハッハッハ!枕に使ってたら武器を忘れちまった!」


「取りに戻ったらどうだ、それじゃ満足に戦えないだろ?」


「ンー……いや、このままでいい。戻ったらどうせ逃げちまうだろ?という訳でいくゼェ!!!」


 そのまま有無を言わせずに戦闘態勢に入る。武器を取りに戻れば逃げる時間が出来たかもしれないが、あの速度を見るに振り切るのは厳しいだろう。


「くそっ…お前ら、無理はするな!ああ見えてかなり強いぞ!」


「ガラアァァァァァァ!!!」


 勢いよくこちらに突進した後に拳を振り下ろしてくる。狙いは大雑把に自分を狙ってきたようだが、すぐにジーノの言葉の意味を理解する。


(…!?こいつ、なんて瞬発力だ…!)


 距離があったはずなのに避けられたのは間一髪だった。先ほどの脚力もそうだが、拳を振り抜くスピードも尋常ではない。殴った地面は抉れ、砂煙が周囲に舞う。


「くそっ…!だぁぁぁ!!」


 圧倒的な力を垣間見たがそれに圧倒される事なくカウンターを叩き込む。だが、その一撃は奴の腕に弾かれてしまう。


(鱗のせいで届かないか…!)


「どうしタ、そんなもんかヨォ!!!!」


「退け、レオネス!雷風遁……雷轟旋風脚!!」


 再び攻撃の態勢に入られようとした瞬間、シシゴウの援護が入る。その攻撃も、片腕でガードはされてはいたが大きく後退したその様子から奴に効いているはずだった…だが。


「…ガラァァハァーハッハッハッ!おもしれぇ技を使うじゃねえか!風と雷の元素の複合技、なかなか痺れたゼェ!!!」


「なるほどな、これは厄介だ!無理に戦闘には参加するなよ、シャルネ殿!」


「は、はい!」


「間髪入れずに次いくゼェェェェ!!!」


 圧倒的な力量差。いくら実力は確認したとはいってもシャルが戦うには危険な相手だ。そもそも、自分ですら相手になるか怪しい。

 作戦を考える暇もなく、二回目の攻撃が来る。まずは反撃よりも隙を見つけなければ勝ち目はないと判断して守りに徹する。


「ガラァ!!」


(…!動きが変わった!)


 大振りな攻撃から一変して、隙の少ない最小限の攻撃になる。何とか対応は出来たがこれでは動きを見極めるのは難しい。


「どうしタどうしタァ!!守ってばかりじゃ終わらねぇゾォ!!」


(…来る!)


 しばらく攻撃を避けていると、大振りな攻撃を繰り出してくる。身を捩らせながら放たれた裏拳を屈んで避けた瞬間、その動きに既視感を覚える。


(この動き…まだ終わっていない!)


 攻撃を避けた後に素早く跳躍すると、先ほどまでいた場所に奴の尻尾が勢いよく通過する。相手も避けられるとは思っていなかったのか、そこには確かな隙があった。


「はあぁぁ!!!」


「グオ…!?」


「シシゴウ、今だ!」


「承知!火風遁…煉獄発破!」


 一瞬だけ怯ませた隙に至近距離でシシゴウの攻撃が炸裂する。引き起こされた爆発により敵もガードが間に合わずに大きく吹き飛ばされるが、それでも無理矢理体勢を整えて着地してくる。


「ナンの、これしきって、もんだゼェェ!!」


「おまけだ、食らいな!」


「そんな棒きれなんぞオレには…イヤ、これハ…!?」


 完全に着地する前にすぐさまジーノの弓による追撃が入る。奴も腕で防ごうとしたが矢には先端に爆発物を取り付けており、当たった瞬間に爆発する。

 連携攻撃が入った事により多少はダメージを与えたと思ったが、敵の眼からはまだ闘志が消えていなかった。


「……ガラァーーーーハッハッハアァァァ!!!おもしれぇ、おもしれぇじゃねえカ!最近のニンゲンはヨォ!!!!」


「ちっ…まだまだ奴さんは元気かよ!」


「ダガ…そうだな。『今』じゃねぇナ」


「…え?」


「そこの銀髪!!オマエ、名前は?」


 その問いはシシゴウでも後ろの二人でもなく、明らかに自分に対してだった。見知らぬ魔物に名前を名乗るのは少し抵抗があったが…その時の自分は何故か名乗っても大丈夫だと、そう思えた。


「…レオネス」


「レオネス!なるほど…覚えたぜその名前!さて、なかなか楽しめたから今日はこの辺で退却するカ!」


 まだ戦闘を続けてくるかと思いきや、まさかの相手から戦いを止めてきた。さすがに他の三人もその傍若無人な態度に呆気にとられていた。


「じゃあな、ニンゲン!また戦おうナァ!」


「いや、待て待て待て!結局お前の目的は何なんだ!?」


「ン?そりゃお前らみたいな面白いニンゲンと戦う事ダ!だからよ、変な所でくたばるんじゃねぇゾォ!!」


「あ、まだ話は終わって…!」


 そのままこちらの話を最後まで聞かずに走り去っていく。とりあえず一難は去った…と思ってよいのだろうか。


「だ、大丈夫かい皆!?なんだかすごい魔物だったが…」


「拙者達なら大丈夫だ、ショゼフ殿。それにしても…何とも妙な魔物だったな」


「全く、訳わかんねぇなほんと…シシゴウも後で魔操忍具の補充をしとけよ。いつまた襲って来るか分からないからな」


 シシゴウにそう話した後、ジーノがまっすぐこちらに向かって来る。なんとなくだが何を言われるかの予想は付いていた。


「それとレオネス、何であんな奴に名乗っちまったんだ?ぜってー目をつけられたぞ、おい…」


「あはは…ごめん。つい…」


「まあ落ち着け。それで一旦退いたから良しとしようではないか」


「そうかもしれねぇけどよ…」


 納得のいっていない様子のジーノ。そこで流れを変えようとカナンが別の話題を振ってくる。


「でもシシゴウさんの技凄かったね!こう、手から火が出たり、足から雷が流れたり!」


「ああ、カナンは拙者の戦闘を見るのは初めてだったか。そう、これこそが拙者の求めた魔操忍具!北の大地に…」


「あー、長くなるから早く行くぞ」


 シシゴウのスイッチが入りかけたところで背中を引っ張られていく。その様子に苦笑いを浮かべながら付いていこうとした時、シャルの表情が目に入ってしまった。


「………」


「…シャル?」


「ん?あ…何でもない!再出発だよね、いこ!」


「うん、行こうか」


 見てしまったのは、少し難しそうな横顔。おそらくだが先ほどの戦いで役に立てなかった事に対してだろうか。


(…初戦の相手があれなのは予想外だったな)


 ここで仕方がなかったと伝えてもよいが、ゆっくり夜に話をした方が良さそうだろうか。すぐに済ますよりじっくり話を聞いた方が気持ちも楽になるだろう。


 その後は静かな道を進んでいき、夕方には水晶洞の前へと辿り着いた。前と同じようにテントを張り、食事を取る際に先ほどの戦闘で気になっていた事をジーノに聞いてみる。


「そういえばジーノ、さっきの魔物に対して何か知っているようだったけど…」


「あー…まあ断定は出来ないんだがな。だがあの強さからみて、あいつはドラゴニュートだと考えてる」


「ドラゴニュート?」


 あまり聞いたことのない種族だ。ドラゴンやリザードマンとは違うのだろうか。


「簡単に説明するなら絶滅だが何だかで、この大陸から姿を消したと伝えられている魔物の種類だ」


「え!?じゃああのリューガンって魔物は最後の…?」


「かもな、だから逃げるのが優先だった。ドラゴンに負けない屈強な体、それに加えて高い知能を持つ化け物と戦うなんてリスクが高すぎるからな」


「うむ…確かに攻撃を当てても体力を削っている感覚が無かったな。なら尚更、退いてくれて助かったのか」


「また襲ってきたら怖いけど…その時はまたフトーフクツの皆が何とかしてくれるよね!」


「うむ、任せてくれ」


「俺は真っ向から戦いたくないから任せたぜ、お前ら!」


「それはリーダーとしてどうなの?」


「うっせ。ほら、そろそろ日が暮れるから見張りの時間だぜ」


「…まあいっか、その時は援護を頼りにしてるよ。行こっか、シャル」


「うん、分かった」


 こうして再び見張りの時間がやってくる。今日は自分達が始めの見張り番だ。


「寒くない?」


「私は大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」


「ならよかった」


 短い会話の後、沈黙が流れる。自分からあの話を切り出してよいものか考えていた時、先に静寂を破ったのはシャルの方だった。


「…さっきの戦い、凄かったね」


「…そうだね。強敵との戦いにはシシゴウの魔操忍具はとても頼りになるよ」


「ね。その…火風遁?とか。さっきの話によると最初に言った属性を後の属性で補助する形になってるとは話してくれたけど…風火遁なら効果が変わるって事かな?」


 テントを張る際に何やらシシゴウとシャルが話していたのは魔操忍具のことだったらしい。タイミング的にもちょうどよかったのだろう。


「確かそのはずだったと思うよ。風火遁だと確か…炎の竜巻での遠距離攻撃だったかな。その代わりそれぞれの部位に付けてある反応物質が失くなると機能しなくなっちゃうみたいだけど…」


「なんで両手両足にあんな重そうなの付けているんだろうって思ってたけど、それぞれがそれぞれの属性に対応してるなんて驚いちゃった。でも…」


「でも?」


「…レオも、凄かったよ」


 ぽつりと言った一言。いつものような自信が無い、彼女の珍しい姿だった。


「…私ね、強くなったつもりだった。レオに守られるだけじゃなくて、その…守ってあげたかったから」


「……」


「でも…やっぱりまだまだだね。いざ対峙してみたら…怖かった。確かに格上の魔物だったのかもしれないけど…それでも動けなかった。レオのピンチにだって…」


「…大事な時に動けない悔しさは分かる。きっと、動いたとしても状況が良くなるとは思えない無力感も」


「……」


「でも、人は強くなれる。時間はかかるけれど…色んな人に会って、色んな悩みを抱いて…そして自分を知って」


 世界を知って、己を理解する。それが魔神を宿す自分に出来る事だと考えてきた。そうすればきっと、道を間違えないと信じて。


「レオ…」


「…悩み一つは人の一歩。臆せず戦えるのも強さかもしれないけれど、悩む事もまた強さだと思うんだ」


 言葉を紡ぐ前にシャルの方を向き、しっかりと向き合いながら自分の結論を伝える。


「だから一緒に強くなろう。僕達なら、きっとなれる」


「……一緒に」


「もちろん、シャルさえよければだけどね」


「…ふふ、ありがとう」


 この言葉を聞いて優しく微笑むシャル。その表情から、先ほどの悩みは感じられなかった。


「…よし!なんだか話を聞いて貰ってすっきり出来たかも。それにしても悩み一つは人の一歩、かぁ。素敵な言葉だね」


「うん。とはいえ、僕の言葉ではないんだけどね。どちらかといえば僕もこの言葉に助けられた側なんだ」


「そうなの?」


「ああ、リーゼラルからの言葉だよ。なんでも家の教訓で教えてもらった言葉なんだってさ」


「リーゼラルさんから…でもさ、前から気になってたんだけど二人はどういう関係なのかな?」


「え?うーんと…訓練仲間、かな。こっちに来てからはよく二人で鍛練を積んでたんだ」


「…なるほど」


 少し考える素振りするシャル。しばらくしてからこう言葉を続けてくる。


「…頑張って!お姉ちゃん応援してるよ!」


「へ?いや、僕達は別にそういう関係では…」


「えー、つまんないのー」


「そう言われてもね…シャルの方こそ、そろそろ相手を見つけた方がいいんじゃないの?」


「ぐはっ。痛いところを突いてくるなぁ」


「少し子供っぽいところは直しておかないとね」


「姉に向かって子供っぽいってなによ、もー」


 会話の後、懐の剣を手に取るシャル。それはお師匠さんから貰ったと言っていた方だった。


「……実はね、まだ私はこの剣を使えないんだ」


「剣を使えない?」


 僕がそう返したら彼女は鞘から剣を抜く。すると、そこにあったのは刀身の無い剣。とても武器としては使えそうにない物だった。


「その剣、刀身が…」


「うん、無いんだ。でも師匠は言ってたの、この剣の刀身を創るのは自分自身だって。初めはよく分からなかったけれど…今は少しだけ理解出来た気がする」


「そっか…なら良かった」


 雑談を交わしながら見張りを続ける。退屈をしない時間を過ごしながら、もうすぐ交代の時間になろうとしていたその時。何者かの影がこちらに近づいてくるのが見えた。


「…ん?あれは…」


「こっちに近づいてきてる…でもあの影って…」


 よろよろと歩くその姿に驚く。それはこの道外れにいるはずのない、自分達以外の人間の姿だった。


「…人だ!」


「ど、どうしよう!?とりあえずすぐに助けた方が…!」


 シャルが行動する前にライトストーンに光を灯して影を照らす。すると、そこにいたのは怪我をしている男性の姿。それと同時に周囲の確認も行うが、見える範囲には何もいなかった。


「…そうだね、助けよう!」


 掛け声と共に男性の元へと駆けつける。目立った外傷はないが、その様子から右腕と左足を負傷しているようだった。


「大丈夫ですか?」


「ありがとう…だが、まだ仲間が…」


「仲間…分かりました、一旦自分達のテントに案内します。そこで話をしましょう」


「わ、分かった…恩にきるよ…」


 肩を貸しながらテントへと誘導する。だが、その時に触れた手から少し奇妙な感覚がした。


(…?体が…冷たい?)


 触れただけで冷たいと感じる体温。血の跡は見当たらないけれど、詳しく聞いてみた方が良さそうだと思いながら三人でテントへと戻るのであった。

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