8話 恐怖の順位と根性
蒼天に浮かぶ白い雲。平和の象徴のような綺麗な空を見ながらその人物は、ため息をついていた。
「厄介事がこうも次々と……よりによって勇者なんてものが現れるとはな」
自身が仕える主人の行動を思い出しながら、目の前に舞い込んできた厄介事に目を向ける。
手には一枚の指令書が握られていた。
今の自分の地位は高い。その俺に指示を出せるのはこの世で2人だけ。
ーー魔王か魔族総司令官だ。
「気は進まないが、これも仕事か。魔天の名を冠するものの1人として役目は引き受けよう」
引き受けるという言葉が受諾したことになったのだろう。指令書は手の中で灰になり消えていった。
「今の位置はダンジョンの中だったな」
とある人間領の旅館の中からダンジョンの中にいる勇者達を探知した。
そして、コートを羽織り旅館を出ようとした。
「あら? お出かけかい?」
「ええ仕事ですよ。この旅館に泊まるためのお金を稼いで来ます」
「そうかいそうかい。もりもり頑張ってくるんだよ」
「了解です。行ってきます……美咲」
「? 行ってらっしゃい」
壮年の老婆に見送ってもらって今度こそ旅館を後にした。
勇者抹殺の命令。
彼らの不幸には同情するし、心は痛む。それでも守るものがある今、天秤にかけるまでもない。
非情な魔族は不幸な少年少女抹殺のため、急ぎ足でダンジョンに向かう。
☆
ダンジョン調査2日目。
1層の調査を終え、2層へと向かった。
結局、1層ではデビルアイ、2層ではエンジェルアイしか出現しなかった。
経験値としては悪くないらしいが、ドロップ品は涙の雫。闇と光のバージョンがある。
涙の雫は目薬などに混ぜるらしいが、特別高価なものでもない。
2日で2層を調査できた。悪くないペースだった。
ダンジョン調査3日目。
俺達は3層に来ていた。しかし、そこで少し問題が起こった。
「まさか、このモンスターは!?」
どうやら、害悪モンスターとして有名な魔物らしい。
その名も『汚物生産野郎』。ドロップ品が汚物という最悪のスライム系魔物だ。
「肥料としての効果は高いが、それだけ。好き好んで買う人もいない!」
「スパイラルフリーズ」
なっ! この威力の魔法って!?
「さっさとマッピングを済ませましょう? ほら、早く働いて」
「は、はい!」
案の定、魔法の使用者は花梨だった。
調査班の人もビビるほどの、ゴミ虫を見る目で汚物生産機を睨んでいた。
勇者でも女子。容赦のない攻撃だった。
攻撃と言っても完全にフリーズさせただけだから倒してないけど。
「3層終了です! このまま4層におりましょう!」
ものすごいスピードで3層の調査を終えた。
半日も経ってないぞ。
このダンジョンは1層ごとに1種類の魔物しか出現していない。
だから、調査も予定より早く進んでいる。このままのペースなら2日後には帰れるかもしれない。
「ここが4層か、広いな」
これまでは分岐が多く、一つ一つの空間は小さめだった。
しかし、目の前には大ホールのような空間があって、向こう側には道が分かれているのが分かる。
「これは中ボス系の魔物が出現するはずだ。来るぞ! 気をつけろ!」
光と共に随分と図体のでかい魔物がポップした。
ジャイアントゴブリン。
刃の大きいナタを片手に持ち、天井に向かって吠えた。女を見つけて興奮しているのだ。
下衆な笑みが顔に浮かんでいた。
不思議と殺意と嫌悪感がせり上がってきて、萎縮することも無く前に出た。
自分から前に出たのは初めてかもしれない。
「避けろ!」
直ぐに目の前にナタが迫ってくる。速度は想定よりも速いが、反応できないほどの速度ではない。
片手に【ブレイブショット】×3と【ショットレンジ特攻】を発動させた。
迫ってくるナタに狙いを定めて……はじき飛ばした。
その反動で大きく仰け反ったジャイアントゴブリン目掛けてもう1発放とうと準備する。
「フレイムカーズ! っ逃げて!!」
後ろから悲鳴のような叫び声が聞こえ、背後を確認する。
悪魔がいた。
地面には巨大な炎の剣が突き刺さっているが、花梨の魔法が外れたのだろう。
今にも殴りかかってくる勢いでその悪魔を拳を引いた。
(やばいやばいやばいやばい! こいつはなんかヤバい!!)
すぐさま標的を悪魔の拳ひとつに定め直す。
「くっそぉー!!」
両手に準備した光の玉をそのままぶつけた。
視界が反転した。
錐揉み回転で吹き飛ばされたのだ。
ゴキャ
鈍い音と共に首が捻れ、胴体との接続が切れた。
多分だが、首だけをねじ切られたのだろう。
「えーっとここに勇者がいるはずだ。ほかの者を殺されたくなければ前に出てこい」
「お前は誰だっ!!」
腰が抜けて立てなくなっている者もいる。
当たり前だ。いきなり目の前の人が首をねじ切られて死んでしまったのだからな。
そう死んでしまった。
「俺は魔王配下の魔天の1人クーリア。まずお前達は俺には勝てない。さっさと投降して死んでくれ」
「俺が勇者だ!」
魔天とかいかにも強そうな名前だし。初めて出会った魔王軍がこいつってほんとクソゲー使用だな。
そろそろ使い時だな。
そうでなければ翔斗が死んでしまう。
【エターナルデッドヒール】
「待てよ」
「なんだまだ死んでなかったのか? 俺は勇者を殺すために忙しい」
決死の思いで手で足を掴むが、頭をサッカーボールのように蹴飛ばされ死んだ。
【エターナルデッドヒール】
「待てって言ってんだよ!」
自分でもなんでこんなに怖いことを実行できているか分からない。
「なんだ? そのまま倒れていれば殺さずにいてやるものを」
「……怖いだろうが。死ぬよりも何もせずに仲間が死ぬ方がよっぽど怖いんだよ!!」
「悪くない答えだが、これも仕事なんでね。勇者以外に興味はない」
確かにそいつの眼中にはないのかもしれない。
片手間のように俺の方に魔法を放ってきた。それを避けられるほどの体力などなかった。
まともに直撃するが威力は全くない。
しかし、微動だに出来なかった。
それどころか視界が停止し、まるで世界が止まったかのような錯覚に襲われた。
【鑑定】!
『時封じの状態』ってなんだ!?
このままじゃあ、動けるようになって……死体が転がってるとか嫌だぞ!
現状突破出来る可能性は2つ。
今まで使えなかった【皇化】と【???】を無理やり使うこと。
もう1つはギフトを交換するといえ博打にかけること。
【皇化】は使おうとしたら頭が焼ききれそうになった。脳の処理能力が足りていない感じだった。
【???】はどうしようもなかった。まず、何を念じればいいのかも分からなかった。
博打にかけられるほどの勝負師の魂は持ち合わせていない。
故に念じる。
【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】
1度念じる度に、発動とは程遠い激痛が頭に響く。脳の回線が焼ききれ、意識が吹き飛んだ。
【エターナルデッドヒール】
【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【エターナルデッドヒール】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】【皇化】……………
ーーーー【皇化】発動!
「そこまでだクーリア! 俺は失うのが怖い、だから守るためにお前を殺す!!」
光の勇者。
そんな言葉を反転したら表せられるかもしれない。
闇の魔王。
業平の体から闇の影のようなものが噴き出し、クーリアと変わらない程の威圧感を放っていた。
「一体何が起こった!? お前は何者だ!」
「勇者の仲間だよ!」
【皇化】
現状の能力を皇化させる。
言葉を交わし終えた瞬間。
2つの拳が激突した。
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