6話 初日の勇者生活終了のお知らせ
「チョーザさん! もう袋に入らないんですけど!」
「本当か!? 半端じゃないな」
俺達はドロップ品と魔石の回収をしていた。
花梨のギフトによる攻撃は敵のゴブリンのことごとくを消滅させていた。所々に残る血痕、それ以外はドロップ品と魔石しかなかった。
花梨の圧倒的な攻撃は全てを蹴散らしていた。
あまりにも一瞬で呆気なく俺達の初陣は終わった。
☆
「6人で15万リクロになります! まさかここまでの成果を挙げられるとは思いませんでした!!」
俺達は魔石を全て回収した後、寄り道もせずに冒険者ギルドへと帰還した。
受付はアリーサさんで、目を見開いて驚いていた。
受付棚1杯に積み上がった青紫色に光る魔石は周囲の冒険者全員の目を惹き付けていた。
「おいおい、あの小ささの魔石で15万リクロだとっ!?」
ゴブリンの魔石は決して良質とは言い難いものらしい。それでもここまでの数が集まればある程度のお金にはなる。
1リクロ=1円
つまり、15万円の稼ぎだ。
「今回俺は何もしてないから全部あんちゃん達で貰ってくれ」
「そんな! チョーザさんがいなければあそこに行くことも出来ませんでした。貴方にも貰って欲しい」
真っ先に異論を唱えたのは翔斗だったが、俺も翔斗と同じ気持ちだ。チョーザさんは俺達の初陣を成功させてくれた立役者の1人と言って間違いない。
稼ぎがゼロでは納得出来ない。
「なら、これからの出世払いってことにしてくれ。お前達にお金を貰わなくても困らない程には稼いでるからな」
「こう言ってくれてるんだし、貰っておきましょう。私達が無一文ってのを忘れてないわよね?」
「「うっ、」」
呻き声を上げたのは俺と翔斗だった。
予想以上に初陣が上手くいったことで少し盲目になっていたかもしれない。
大人しくこれからの資金に当てさせてもらおう。
「今日は本当にありがとうございました!」
「ああ、これからも頑張ってくれよな」
そう言うとチョーザさんはまたゴブリン討伐のクエストをもらって冒険者ギルドを後にした。
「とりあえず宿を取りたいな。稼いだら拠点を買いたい」
「宿なら『エルギッシュの布団』がオススメよ。何よりご飯が美味しくて、布団も良質なのよ!」
ということでアリーサさんオススメ(必死?)の宿屋へ向かうことにした。
冒険者ギルドを出て歩くこと5分。
『エルギッシュの布団』と大きく書かれた看板を見つける。外装はとても綺麗で人気がありそうだ。
「いらっしゃいませ! 何名様、何日の予定でしょうか?」
「5名で2部屋。10万リクロでどのくらい泊まれますか?」
「朝食付きで20日間泊まれます。それで宜しいですか?」
「はい。それでお願いします」
部屋の鍵をもらい部屋に向かう。
男子部屋と女子部屋に分かれて泊まるのは前提として、今後どうするかを決めなければならない。
「これからの方針を決めよう」
進行役は翔斗が務め、これからのことについて話し始めた。
花梨と匠はレベリング。
翔斗と由紀は武器。
「そうだな。俺は金かな。金になる討伐クエストをこなしていけばレベリングも出来るし、ギルドカードのジョブも増やせるだろ?」
「……確かにそうね。ジョブが変更できればギフトを多く得られるわ。この世界で1番力があるのはギフト。いくら勇者だからと言っても1つの矛しか持たないなんてことは無いし」
思いついた適当な理由を言っただけだったけど……。
確かに攻撃手段が少なければ工夫できることも少なくなるな。
それにしても、花梨はよく考えてるんだな。
貧乏がとりあえず嫌な俺とは大違いだ。
「じゃあ明日からは少し難しくても稼げる討伐クエストを受けよう」
「翔斗、今日はもう?」
「だってみんな疲れただろー?」
方針も決まり一段落すると眠くなってきた。
この世界に来て緊張していたのもあるだろう。
「ってことで今日は休もう! 明日から始めればいいさ」
こうして、勇者1日目が幕を閉じた。
次の日から俺達は難しくてもこなせる範囲で討伐クエストをやり込んだ。
チョーザさんのゴブリン狩りにも付き合ってみたが、花梨は不参加だった。そのおかげでチョーザさんのストイックな行動に俺達はヘトヘトになたこともあった。
そして、この世界に来てーー1ヶ月が経った。
☆
「皆さんっ! 今日は貴方達の実力を見越してクエスト依頼をお願いしたいんです!」
「クエスト依頼ですか?」
「はい。クエスト依頼は高難易度のクエストをこちらの方から斡旋することですね。もちろん断って頂いても構いません」
「内容は?」
アリーサさんは一枚の紙を持ち出して、俺たちの前に置いた。
【短期新規大規模ダンジョン調査】
・新たに現れた『エーテリアダンジョン』の調査。期間は一週間程度を予定。
「こちらで選出させていただいたパーティーの方々と国のダンジョン調査班でダンジョンの調査に当たって欲しいんです」
「調査とはどんなことをすれば?」
「魔物を生み出す魔力の濃度や生息魔物の種類などですね。基本は調査班の方々がやってくれるので、その護衛という形になります」
勇者はこの1ヶ月で成長していた。そこらの魔物には負けない自信もある。
報酬もいいし、断る理由は特にない。
「受けます!」
俺達は2日後、初めてこの街を出た。