3話 お約束通りの勇者召喚
「ここは……異世界か」
目覚めた青年はそう言って周りを確認する。
男がもう1人と女が2人。
この4人が勇者として召喚されたんだろうか?
俺たちを囲むように人がぞろぞろと集まってきている。何かを叫んだりしている人もいるが何も聞き取れない。
言語も違うのだろうか?
「あ、ちょっと失礼」
その人混みの中から一人の男が出てきた。
俺と同じ日本人に見える。
「えー、こんにちはで通じるかな?」
「うん。俺は中土翔斗! 貴方は?」
日本語で話しかけてきた。どうやらこの人も勇者みたいだ。
「俺は風間業平。勇者召喚されたはずなんだけど……ってこの話はいいや。俺は昨日この世界に来たんだ。とりあえず言葉を話せるようにするからちょっと待っててくれ」
この人だけ早く召喚されたのか、いいなー。俺もそんな勇者の中でも特別感が欲しい。
「これを飲んでみてくれ。それでギフトが得られる」
「わ、分かったよ」
渡されたのはビー玉サイズのもの。
元の世界だったらこんな怪しいもの捨ててたけど、この世界では違う。
なんていったって魔法とかギフトがある世界なんだから!
少し躊躇してから一気に飲み込んだ。
すると、頭にアナウンスが聞こえ、ギフトを獲得できた。
「あれが勇者様か?」
「そりゃ勇者の祭壇なんだからそうなんだろうな。けど、勇者が召喚されたってことは魔王との戦争も近いってことだからなー」
周囲の声が聞き取れるようになった。
勇者が現れて嬉しそうな顔が半分、不安そうな顔が半分ってとこだ。
「まずは他の人も起こして、冒険者ギルドに行こうか」
「ああ、お願いするよ」
とりあえず1人。
頼りになりそうな勇者の仲間と出会えた。他の3人も同様に心強い仲間になってくれるだろう。
俺の夢は唯一無二のヒーローになること。
その為の仲間は重要だ。
☆
勇者の祭壇に人が現れたって聞いたから来てみて、言葉わかる人がいないから仕方なく俺が対応したら、こうなった。
「業平っちはこんなに注目されなかったの?」
「だって真夜中もいいとこだったからなー。まず誰も気づいてくれなかった」
こんな感じで勇者パーティーに溶け込んでしまった。
俺だけ先に召喚されているというアドバンテージがスパイスを効かせていて、頼りがいのある仲間ポジションを獲得していた。
今は勇者4人を引連れて冒険者ギルドへ向かっている。この世界のことについて(雑談込み)で話しながら歩いていると冒険者ギルドに着いた。
「じゃあ魔王を倒すためには暗黒大陸まで行かないといけないんだ」
「多分な。そこら辺の詳しいことは、あの人に聞いてくれ」
ギルドのドアを開けるとアリーサさんが目に入った。
この4人のことも彼女に任せて問題ないだろう。
「アリーサさん、4人を連れてきました。説明はあらかたしたんですけど、質問とかいいですか?」
「いいですけど、全員先に冒険者カードを作って貰っていいですか?」
勇者だと言うのにこの落ち着き。
受付嬢の鏡だな。
「じゃあこの水晶玉に手を置いてください」
さっきの悪夢を思い出す。
お約束通りの展開が……
「す、すごいっ!」
この4人には待っているようだ。
水晶玉は虹色に輝き、ギルドをその光で埋めつくしていた。
無限の可能性、そう言うに相応しい結果だ。
俺と同じはずで同じでない勇者達。
「なんだかなー」
絶対俺だけに何かしただろあのクソ天使。
そう思わざるを得なかった。
「先程は取り乱してしまいすみませんでした。これが5人の方々の冒険者カードとなります」
俺も勇者が召喚されたと聞いて冒険者ギルドを飛び出たため発行だけ済ませていなかった。
見た目は5人とも同じように見える。
茶色に黒文字のシンプルなデザインだ。
「そこにはご自身の名前とレベル、そして役職が書かれています」
「役職?」
「はい。役職とは正直ただのお飾りです。ですが、冒険者ではなく魔法使いを取得するとギルドを経由して魔法使いの為のギフトを得られることもあります」
「魔法を強化するためのか」
「はい。役職を取得できる状態になると役職の欄が赤文字に変化します。そうしたら冒険者ギルドで役職の変更ができるようになります」
ふむふむ。つまり、上位の役職になればなるほど、上位のギフトを冒険者ギルド経由で手に入れやすくなるのか。
「役職取得の条件は様々な経験をすることが多いです。魔法を使って何度魔物を倒したかなどもありますね」
「どうやったら分かるんだ?」
「経験値から読み取れるようになっています。原理は……あまり私も分かりません」
てへ、とお茶目に誤魔化したアリーサさん。
可愛い。
じゃなくて、ここでご都合主義が発動されたな。
「皆さんはランクFです。ある一定の稼ぎを超えると自動的にランクアップされます」
さっさと稼げばさっさとランクが上がる。
そうすれば知名度も上がる。
イコール
ーーーーモテるッ!
稼ぎ方は色々だ。
例えば、ひたすら魔物を狩る。
魔物を狩ると魔石をドロップして灰になる。その魔石を冒険者ギルドに買い取って貰うことでお金を得る。
他には、冒険者ギルドに依頼されているクエストをクリアすること。
これは、依頼書に書かれた金額を確実に得られる。
魔物を狩るのには必ず危険が伴う。しかし、クエストには薬草採取など危険度が比較的低いものもあり、力が無いものでも稼げるようになっている。
「では、これからよろしくお願いしますね」
にこやかな笑顔で受付嬢に見送られた。
俺達はどこに行く訳でもなく、冒険者ギルドの隅っこの席に座って声を揃えて言った。
「「「「「自己紹介をしよう!」」」」」
互いに名前しか知らないもの同士では仲間とは言えないだろう。
互いを知るための自己紹介。
俺は完全に勇者パーティーに所属してしまったようだ。
「ん? 俺からか」
みんなの視線は頼れる先輩勇者(笑)に向けられていた。
「じゃあ俺からな。俺は風間業平だ」
こうして自己紹介が始まり、当たり障りのないこととか、質問に対して答えたりして自己紹介を終えた。
俺たち5人は自己紹介で仲間としての繋がりを深めた。
「じゃあギフトを教え合おうぜ!」
やっぱりな。
これから一緒に戦う上で互いのギフトを知らなければお話にならない。
「次は逆からで、俺からな」
さっきの自己紹介とは逆の順番でギフトを話し始めた。
俺はこっそりと【鑑定】を発動しながら自分の番を静かに待った。