2話 ご都合主義と冒険者登録
「ええっと、おはようございます?」
「***!? ********!」
寝起きの一言は見事に通じなかった。
あー、ご都合主義ではないのですか。
困ったな言葉が通じないと何も出来ない。
世紀末モヒカンは驚いた顔でどこかで走り去った。
……これからどうすればいいんだろ?
とりあえず自分を鑑定しとくか。
◇魔王後継者の風間業平◇
レベル:1/3
ギフト:【ブレイブショット】×3、【鑑定】×2、【状態異常半減】、【エターナルデッドヒール】、【ショートレンジ特攻】、【ギフト交換&ストック】、【皇化】、【???】
………見なかったことにしよう。
俺は勇者召喚でこの異世界に来たはずだ。
「******!」
「うおっ!」
俺が自分を鑑定している間に、顔に汗を垂らした世紀末モヒカンが戻ってきた。
どこに行ったのかは分からないが、手にはビー玉のようなものを持っている。
「drink!」
「え、英語?? てか、飲めって……これを?」
ビー玉のようなものを手渡され飲めと言われた。
怪しさ満点だが、これを断ったら殴られそうで怖い。
「おっけー。飲むよ」
勢いよく口に投げ込んだ。
すると、頭の中でアナウンスが鳴った。
【公用語理解】を獲得しました
「あんちゃん、これで言葉が分かるか!?」
「ああ! ありがとう」
まさか、こんなに便利なものをくれるとは思ってもみなかった!
人は見た目によらないとは言うけど、ここまで実感出来たことはなかったな。
「高くなかったか?」
「あんちゃん流れ人だろ? 流れ人にはこのギフトは無料配布されるんだ」
流れ人ってのは俺のように異世界から来た人だろう。その人たちのためにこういう救済措置が取られているのか。おかげでとても助かった。
お金を要求されたら払えなかったしな。
現在、無一文。
金がいるな。
「よし、じゃあ冒険者ギルドに行くぞ! あんちゃんへのサービスはまだあるぜ」
「そうなのか? それは助かる」
出た! ド定番の冒険者ギルド!
ここで冒険者登録をして、依頼をこなせば金が貰える。
ギフトも試せて一石二鳥だ。
「ここが冒険者ギルドだ」
「大きいな」
ここに来るまでの建物は大概が1階建てだった。しかし、この冒険者ギルドは3階建て。
歩いてくる途中から頭一つ飛び抜けているのが見えていた。
「げっ、チョーザの野郎じゃねぇか」
「あのゴブリンスレイヤーのチョーザか?」
「相当強いのにゴブリンしか狩らないなんて何考えてんだか」
ここに来るまででも分かってはいたが、この世紀末スタイルが標準ではなかった。
シンプルな服が多く、落ち着いているイメージだ。
「アリーサさん、このあんちゃん流れ人だぜ! 対応頼む」
「あっ、チョーザさん! ありがとうございます! 今日もゴブリンの依頼ですか?」
「それはまた後で来るから、あんちゃんに色々教えてやってくれ」
「分かりました。じゃあ行きましょうか」
「しっかり聞いてこいよ! この世界は元の世界より危険だからな」
へへっと笑っているが、それはとても重要なことだぞ!
それとゴブリンスレイヤーってカッコイイ二つ名だな、羨ましい。
チョーザはギルドの外へ出て行ってしまった。お礼もまだ何も出来てないままだ。
「チョーザさん、見た目はあれですけどいい人なんですよ。見た目のせいで勘違いされやすいんですけどね」
「そうですね、見つけてくれたのがあの人でよかった」
それにしてもなぁー、とあの髪型を再び思い出して苦笑いしたのだった。
2階に上がり、応接室と書かれた部屋に入る。
「私はこのルルシアの冒険者ギルドの受付嬢のアリーサです。これから、この世界について説明しますね」
「よろしくお願いします」
「この世界は女神ルシアスが作った世界と言われています。大きく分けて大陸は2つ、ルシアス大陸と暗黒大陸です。私たちが今いるのはルシアス大陸ですね。暗黒大陸は女神ルシアスの介入が困難と言われており、魔物が跋扈する魔王の支配下になっています。ここまで大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「この世界にはダンジョンがあり、そこでは多くの冒険者が一攫千金の夢を見ます。ですが、魔物も多く、解明されていない謎も多い危険な場所です。力をつけたら挑戦してみてください」
「国とかはないんですか?」
「ありますよ。ルシアス大陸を治めているのは主に3つの大国です。ルーベリア王国、キューラス帝国、ワリューサ法国。それぞれ東から約3等分してこの大陸を治めています。ここはルーベリア王国ですね」
他にも色々教えてくれた。
冒険者ギルドや商業ギルドのこと。
ギフトや魔法について。
金の稼ぎ方について。
市民登録ついて……などなどだ。
「チョーザさんが流れ人を拾ってきたのはこれで二回目なんですよ。その時の流れ人に、エイゴ? を少しだけ教えて貰ったそうです」
これでもセンター試験と二次試験を突破して国公立大学に現役入学した俺だ。
英語が伝わるなら便利だなと思ったけど、そこでもご都合主義は発動しないらしい。
「とりあえず説明はここまでにして冒険者登録を済ましに行きましょう」
「冒険者登録が身分証明書になるんですよね?」
「はい。冒険者カードがあれば市民登録も随分と楽になります」
市民登録をしなければこの国に在住することも出来ないらしい。
おんぼろアパートでもなんでもいいから寝床くらいは欲しいな。
「では、これに触れてください。色が変わると登録完了です」
そこにはお約束通りの水晶玉が置かれていた。
ここで隠された力などが判明する訳だが、さてどうなるか……
手を触れるとじんわりと熱がつたわってきた。
透明だった水晶玉の色が変わらないままーー15分が経過した。
「あのー、まだダメですかね?」
10分を過ぎたあたりからアリーサさんの表情が良くない。
ここまで引っ張るほどの能力があるのだろうか?
しかし、次のアリーサさんの言葉でーーそんな希望も儚く消え去った。
「まさか、無力者?」
「無力者ってなんですか?」
嫌な予感がする
「その文字通り力を持たない人です。この水晶玉はその人の潜在魔力を測定することが出来るのですが……」
「それが測定できない?」
「……はい」
アリーサさんはとても申し訳なさそうな目でこちらを見ている。
そんな目で見られてもな〜。
別に彼女のせいでこうなった訳じゃないし、なんの責任もないのだが。
「魔力以外は測定しないんですか?」
「潜在魔力を測定することでその人の最大レベルも判明するんです。だけど」
「潜在魔力がないから分からないと」
「はい。潜在魔力が大きければそれだけレベルが上がった時に凄い魔法を獲得する可能性が高くなります」
まさか、魔力ナシの凡人以下のステータスだと!?
ご都合主義もない、チート能力もないどころか平均以下。
これのどこが異世界転移なのか。
「ん? 魔法ってギフトとは違うんですか?」
「この後に説明するつもりだったんですけど、違いますよ。魔法はレベルが上がる時に覚えることができます。他にも魔法書という便利アイテムがありますが……高いです」
つまり、最大レベルが高ければ高いほど多くの魔法を手に入れられるチャンスがある、と。
イコール
レベル3が最大の俺には魔法の才能が全くない。
チート能力GETのチャンスを外した。
イコール
異世界転移の世界の主人公にはなれない。
結論
そんなに甘い話じゃなかった。
『風間業平という才能が全くない冒険者が現れた』という話と、『4人の勇者が召喚された』という話が広まったのはほぼ同時だった。