19話 SSSランカー『剣王』
「俺達には師匠と呼ぶべき指導者が必要だと思う」
やっぱりこの勇者パーティーをまとめるのは翔斗しか居ない。そこには誰も異議を唱えたことは無い。
「俺達は全員がLv57のはずだ」
俺達は狩りをする時は必ず4人でと決めた。それを破っている者は居ないはずだ。
勇者としての能力は任意の3人にも自分の得た経験値を与えられるだ。分配という訳ではなく、自分と同期させるようなもので、それが4人。つまり、1体倒すことで4体分の経験値が手に入る。
おかげでLvはすくすくと上がっていき、今では57まで上がった。
そして、ジョブチェンジでさらに強くなったはずだ。
翔斗は聖剣士。
聖剣士は光系統のギフトの効果が上がり【ギフト上昇(光)】と、物理攻撃力に補正がかかる【物理攻撃力(大)】が手に入った。
坂原由紀と田辺花梨は大魔道士。
大魔道士は魔法攻撃力が上がる【魔法攻撃力(中)】と、魔法系統のギフトの複数発動が可能になる【ギフト同時発動(魔)】が手に入った。
そして、俺は重戦士。
重戦士は耐久力が上がる【耐久力上昇(大)】と、敵の意識を自分に集める【ヘイト(大)】が手に入ったが、【ヘイト(大)】については元々Lvを上げた時に取得していたので意味はなかった。
Lvが上がるときに魔法を得られることがある。魔法と言ってもギフトとして使えるようになるらしい。
それは【属性魔法(光)】のように、大雑把なものから、【浄化魔法(大)】のように具体的なものまである。
Lvが20になった時に初めて俺は【ヘイト(大)】を取得した。そして、53の時に【補助魔法(癒)】という魔法を取得した。
これは確率的なものなのか何なのかは分からないが、Lv上限がない俺達は文字通り無限の可能性を秘めているのだろう。
しかし、それは一体何年後の話なのだろうか? いつになったら魔王軍と戦える力を得られるのだろうか。
その為にも指導者は確かに必要だろう。
「史上最強と名高いSSSランク冒険者ならもっと強くなる方法を知っているはずだ。それに、人間の力の頂点を見てみたい」
勇者とか別枠以外の、この世界の人間の頂。
クーリアよりも強い、そう思わせるだけの圧。
現状最大火力を誇る攻撃を安安と打ち破る力。
それらを兼ね備えた人間の攻撃に、俺達は太刀打ちできるのだろうか?
もし出来ないならば、勇者などいらず、俺達はただの冒険者として過ごすべきなのではないだろうか。
「彼の魔力は王城にあるわ」
ここは冒険者ギルドの円卓の机。ここであーだこーだ言っていたところで何も変わりはしない。
「王城の門で待ち伏せしよう」
しかし俺達は甘かった。
SSSランクの冒険者の強さを見くびっていた。
それはすぐに分かることとなった。
「な、なんだこの人の量は?!」
王城の門に続く道へ続く道まで人影で埋め尽くされていた。
「なんだ? 知らずにここに来ちまったのか?」
「チョーザさん!」
「よう、久しぶりだな勇者のあんちゃん達」
少しやつれただろうか。彼とはあれ以来会っていなかった。
そう、彼に業平のことを伝えた時だ。
世話を見てくれていた彼には伝えなければならないと思ったし、伝えるべき責任が後に遺された俺達にはあるだろう。
その時彼は、『そうか、まあこんな世界なんだからそういうこともあるさ』と乾いた笑顔を貼り付けて、冒険者ギルドを去っていった。
それ以来、彼がどうしていたのかは知らないが、冒険者ギルドでも出会うことは無かった。
「SSSランク『剣王』が帰ってくるなんてそうそうない事だからな。一目見たいとこの騒ぎになるんだよ」
「『剣王』って、本名は公開されてないんですか?」
「ああ、圧倒的な強さで新米の時から注目されてたんだけどな。だが、それが仇になっちまって仮面の騎士だとか異名だけが先走りしちまってんだよ」
俺達も、勇者の卵として大事に扱われていたが、今となってはこの街の一員として扱ってもらえる。
それは地味に嬉しいことだ。
「出てきたみたいね」
田辺が言わずとも歓声から分かる。
王城の門の上辺りに浮遊している人影が見えた。
だが特別愛想よくする訳でもなく、直ぐに消えていなくなってしまった。
あれは飛行系統のギフトと瞬間移動系のギフトを使ったのだろうか? それとも見えなくなってしまっただけなのだろうか。
「なんだ、近くにいるのね。こっちよ」
田辺が路地裏の方を指をさして人混みから抜けていく。それに付いて俺達も一通りの少ない方に向かって歩き始めた。
チョーザさんは冒険者ギルドに行くそうだ。
「花梨! 『剣王』のところに向かってるのか?」
「そうよ、彼は瞬間移動系のギフトであの場所を離れただけで遠くに行ったわけじゃなかったわ。そもそも瞬間移動系で遠距離を移動するのには中々危険が伴うのよ」
迷うことなく次々と曲がり角を曲がって進んでいく。
こんな薄汚れた場所に何かあっただろうか?
「止まって」
角で止まって、首だけでのぞき込む。
そこには壊れかけの教会と、子供達と1人のシスター。そして、壁の影でいそいそと着替える男がいた。
着替えると言っても、体全身を覆っていた黒いローブを脱ぎ、どこかに収納した。
そして仮面をとり、素顔が晒された。
ピリッと何か嫌な感じがあったが、特に異常はない。
彼の顔は予想以上に若い、髪は黒色。それが原因か、元の世界の人間の容姿よりだと感じた。
「あー! おじさんが来たー!」
「おう! ただいま。今回はいっぱいお土産持ってきたからな!!」
「「わぁーい!!」」
そこには笑顔で子供たちに迎え入れられた善良な一般人がいるだけだった。
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