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闇堕ち偽勇者のハードライフ  作者: ヒナの子
18/27

18話 塵も積もれば山となる

 業平がいなくなってから2ヶ月。

 俺達はその事実を忘れるためかのように前に走り続けてきた。

 彼に生かされたこの命の使い方は、勇者である彼の悲願を達成するために使う。魔王を倒し、そこで初めて彼を弔うべきだと決めた。


 死んだとは決まっていない。

 しかし、この世界がご都合主義に溢れたヌルゲー出ないことはすでに身にしてみて理解しているつもりだ。


「どうかしたのか匠?」

「なんでもない」


 考えすぎるな、もっと単純に、そして広い視野で捉えろ。


 何度も言われ続けてきたことだが、なかなか実行には移せない。

 元の世界で俺達は犬や猫を無差別に殺してたか? いや、それは否だ。しかし、それが魔物と定義付けられれば即殺戮対象になってしまう。

 俺達はこの世界に慣れてしまっていいのだろうか。


 こういう所が視野が狭いと言われる所以なのだろう。

 全体的に見れば魔物は毎日のようにどこかで人を殺している。

 それは食物連鎖、弱肉強食のこの世界では必然であり、常識なのだが、いざ自分が上に立ったからと言って殺す側に回ってしまっても良いものなのだろうか。


「2時の方向、グロウウルフの群れよ! 数は7体」


 恐ろしい。自分の体と同じくらいの大きさの狼と戦わなければならないなんて、誰が考えるだろうか。


「防御障壁」


 味方を敵から守るための透明な壁を敵の真ん中に発動する。敵を半分くらいに分断するためだ。


「ナイスっ! はぁっ!!」


 翔斗の刀身を拡張する【神聖剣】の中の一つの能力で敵を屠る。血が飛び散り、地面に赤いシミを作った。


 そして、防御障壁を解除する。翔斗はすでに剣を振りかぶっていた。

 解除されるのと同時にその剣は狼達を薙ぎ払った。


「いいタイミングだった」

「匠の防御障壁のおかげだな!」

「私も魔法でドッカーンとやりたいよー!」

「じゃあ次は荒野の方に行こう。そこなら由紀の魔法でも被害が少ないから」


 連携と呼ぶには幼稚なものかもしれないが、俺達は確実に強くなっている。

 坂原由紀の魔法は勇者の中でも最大火力を誇る。彼女がさらに使いこなせるようになれば大きな戦力になるだろう。


 今もこうしてあれから成長した部分を確認して安心を得ようとしている。

 だが、全員の心の中にあるのはそれ以上に大きな不安だった。このままで大丈夫なのか? いくら小さな成長を確認した所で、あのクーリアという化け物には敵わないのではないだろうか?


 俺達は勇者としての役割をちゃんと出来ているのだろうか?


「……」


 不安は心のそこに沈み、蓄積していく。それは一つ一つは小さく塵のようで、しかしすでに無視できないほど降り積もっていた。


 ☆


「ここら辺なら大丈夫だろ」


 ここは森を越えた先に広がる荒野だ。昔、魔王軍との戦いが行われた場所らしい。その時のダメージが今も残っていて、草木が育たない大地へと変貌してしまっている。

 ここなら滅多に冒険者も通ることがないし、ましてや商人などそうそういない。

 理由は単純、森よりも数は少ないものの、ここの魔物は格が違うのだ。


「来たぞ! ブラッドウルフだ!」


 別名悪魔の飼い犬。全身が血のような赤黒い毛に覆われていて、獰猛な気性をしている。

 ブラッドウルフは植物の上を歩くことが出来ないと言われている。それは魔王軍との戦いの途中で呪いを受けたからという説が有名だ。

 この魔物が森に侵入してきたら、森はあっという間にこいつらに支配されるだろう。


「私の出番だね! 【超新星】!!」


 隕石が生み出される。大気圏を超えた辺りの隕石のイメージだ。その落下速度は言うまでもなく音速を超えている。

 直ぐに防御障壁を何重にも発動し、衝撃に備える。


 ドオォォンという地響きと共に熱風が吹き荒れる。このギフトの良いところは標的以外には直接的な被害が出ないことだ。

 そこは使用者本人が調節出来るらしい。しかし、それはあくまで隕石そのものの被害であって、隕石によって熱された空気はそこに含まれていない。


「次に行こう!!」


 そんなトンデモ攻撃を放った本人は楽しくなってきたようで、次の獲物に飢えている。


 この方法が現段階で1番効率のいい経験値の貯め方だ。ブラッドウルフは頭数は少ないが経験値は美味しい。


 田辺花梨の【大賢王】の索敵能力ですぐに次の獲物を定める。

 ここからはある程度距離が離れているが【超新星】は余裕で届く範囲だ。


「【超新星】!!」


 先程よりは小さく見える隕石がなんの警戒もしていなかった狼に襲いかかる。


「っ!? 待って!!」

「えっ? もう無理だよ!」


 狼の方に何か異常があったのか、監視していた田辺花梨から悲鳴にも似た停止の声がかかるが、それは遅かったようだ。


 人を巻き込んでしまったのだろうか?

 もし、そうであればそれこそ一線を超えてしまったことを確定づけてしまうのではないだろうか。

 俺達は……勇者にふさわしくないことを。


 バァーンと、激しい閃光と共に爆音が鳴り響いた。

 そう、衝突の地響きなどはなく、まるで閃光と共に隕石が弾け飛んだかのように見えた。


 「……はずはないわ。とても信じられないかもしれないけど、隕石を粉砕した人物が」

 「もう着いた」


 はっと全員の視線が声のした方向に集まる。

 上空俺たちの真上に、仮面をつけフードを深くかぶった人物がいた。一振の剣を手にし、こちらを見下ろしている。

 声からして男だろう。


 一体何を言われるだろうか。俺達は無条件に攻撃してしまった。殺されても仕方がない。


 こいつに5人がかりで勝てるか?

 瞬殺されることは本能的に理解している、次元の違う相手だ。


 「済まなかったな。お前達の邪魔をしてしまった。斜線上に現れた俺の不注意だ」

 「そんなことはないです!あなたはっ!?」


 名前を聞こうとしたが、謝るだけ謝ってその男は消えてしまった。

 誰もが勝てないと理解し、どう逃げるかを考えていそうな場面だが、翔斗だけは名前を聞こうとしていた。

 いかにも、勇者らしい素質だな。


 「あれは、いやあの方は」

 「多分翔斗の考えは間違ってないわ。彼はこの国唯一のSSSランク冒険者よ」




読んでくださってありがとうございます!

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