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闇堕ち偽勇者のハードライフ  作者: ヒナの子
17/27

17話 悪

 自分が自分でなくなり、別の化け物に変質する恐怖。


「やぁ、何か怖いことでもあったかな??」

「はぁ、はぁはぁ。……今のはなんだ!?!?」


 一瞬で頭に流れ込んできた。

 目の前に急に現れた美少女の瞳と視線が交差した瞬間、何かを見せられた。


「お前は断絶能力を持っている魔王軍関係者?」

「よくご存知で」

「なら、あの世界は」

「君の未来だよ。あの世界と同じ選択をしたらあの世界と同じ結末が君を待っている」


 総司令官の男を漆黒の何かを纏って大きくなった俺の拳が吹き飛ばし、殺した。

 それを皮切りに歯止めが効かなくなり、俺ではない何かが俺の体で暴れ周り始めた。

 その時にいた街が漆黒によって沈み、破壊し尽くされた。それと同じ要領で次々に世界を破壊し、高らかに笑い声を上げている。

 最後は勇者たちと対面し、目も当てられない死体へとかつての仲間を壊していた。


 そこでその()は終わり、今に至る。


 魂に恐怖が刻み込まれて竦んでしまったのか、夢の中で奴らを皆殺しにした事で憎悪が薄らいだのか。どちらにせよ、俺は冷静になって、現状を考えていた。

 このまま突入したら同じ道を歩む羽目になるらしい。


「何年くらい体験した?」

「……5年くらい?」

「この世界は君一人で5年程度で壊されちゃうほど脆いんだねー。困ったもんだ」


 とても他人事のように言っているが、あの体験をさせたのは紛れもない彼女だろう。


「で? これからどうするの?」

「……交渉する。実行犯の少年は必ず殺す。その上で相手の総司令官に魔獄谷への立ち入りを禁止を要求する」

「もし向こうがそれを飲んでくれなかったら?」

「飲ませる、無理でも飲ませる」

「……なるほどね」


 恐らくあの未来が訪れた理由は彼女を殺したことだ。彼女は総司令官を殺そうとすると立ち塞がる。

 なら、そのルートを避ける為にも交渉で我慢しよう。


「一つだけ忠告、というか警告だね。あまり強い効果の拒絶能力を使うな。数も減らせ。そうでなければあのように成り果てるよ」


 あのように、それは俺のもしかしたら存在したかもしれない未来。

 この能力に依存した先に待つ最悪の末路。


「これを捨てる方法は?」

「……ないことは無い。けれど、君にはまだ力が足りない。圧倒的にね」

「分かった。最後に、君は何者だ?」


 俺に未来を見せたのは十中八九こいつであり、こいつを殺した時に、いくつかのギフトを取得した。

 俺と同系統であり、怨念など、物騒なものばかりだった。

 魔王軍関係者だけでない気がする。これは直感だけで確証はないが、この先も重要になる、そう俺の脳が警報を鳴らしていた。


「私は私。モードレッド・フェクティンという名前よ」

「モードレッド・フェクティン……カッコイイ名前だな。俺は風間業平、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」


 彼女はそう言うと消えた。彼女との繋がりは断絶されてしまった。

 だが、この一瞬で得たものは大きかった。


 この厄介危険極まりないギフトを捨てるために強くなれなければいけない。

 まず、レベルを最大まで上げる。レベルが上がることで【???】の使用条件が開放されるかもしれない。

 そして【鑑定】のギフトを取得する。これはこの世界で必須となるギフトだろう。

 この2つを達成した後は、その時の強さによって行動を変えよう。


「とりあえず……実行犯を殺りに行くか」


【神霊・拒絶】がやばいギフトだからといって使わない訳では無い。それ以外にやつを殺せる力は持っていない。

 それに、俺はあとのことを考えずに殺せるならなんでも利用するつもりだ。それがもしも命であったとしても変える気は無い。

 死ねば終わり、誰しもがそうとは限らないからな。


 とある可能性の世界と同じ殺り方で実行犯だけを殺した。相手も俺をしつこくは追ってこなかった。


 これからどうするべきか。魔獄谷に戻るべきか、人間の、元いた場所に戻るべきか。

 何故か分からないが、先程まで俺の心を蠢いていた黒い何かはどこかに行ってしまったようだ。魔女への恨み、クーリアへの恨み、それらは薄らいでいる。


「あの街に戻るか」


 俺が召喚されたルルシアという街に戻ろうと思う。

 道中で魔物に出会ったら支配する。【神霊・拒絶】を使わずに戦えるようになりたいからだ。

 コツコツとパワーアップを重ね、ルルシアに戻るまでにレベル最大になっている事が理想だな。


 仲間と合流すれば魔王を倒すことを目標にしなければならなくなる。できるだけ危険なことに首を突っ込みたくないというのが本音だ。



 それを差し引いてもあいつらはいい奴らだった。


 困っているなら助けてやりたい、その為にも力は必要だ。


 「そもそも魔王にはすでに殺す理由もあるし、別段おかしいことでもないな」


 クーリアには何度も殺された。部下のミスは上司の責任ってことだし、殺り返してもいいだろう。


 「すいません、ここからルルシアまで行くにはどうすればいいですか?」

 「んん? ルルシアとな!お兄さん若いのに勇気あるじゃねぇか! ここから北に進み続けたら放浪人の集まる街アーメがある。そこでルルシア行きの馬車にでも乗せてもらうのが手っ取り早いと思うぜ!」

 「ありがとうございます」

 「おう! 頑張れよ英雄志望」


 ルルシアに行くということは人間の王の首を取りに行くためというニュアンスになるらしい。


 どこがどの方向なのか分からないので、とりあえず真っ直ぐ歩いていたら東門と書かれた関門があった。

 20分後、北門を見つけ外に出た。

 ここから真っ直ぐ歩けばアーメに着くはずだ。


 こうして長い旅路のスタートを切った。


 ☆


 「行き先は決まったみたいだね」


 この世に二つとない神の力が宿る瞳を黄金に光らせ、業平の行動を見ている者がいた。

 モードレッド・フェクティンという少女だ。

 全能の瞳には北門を出発した業平が映っている。


『殺セ、チカラを、ウラメ、怨恨にシタガエ』


 背中が疼き、心に黒い物が流れ込んでくる。


 「……世界悪になどさせない」


 1人の魔族はその黒い物を1人で背負い、抱え込んでいた。ついさっきまで業平を駆り立てていた憎悪はこの少女の心に住み着いている。


 全ては未来のため、この世界の未来のため。

 業平という悪によってこの世界が滅ぼされる未来を防ぐために。



闇堕ちするーーしませんでした!

次から勇者たちの話になる予定です。

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