16話 憎悪と虐殺の心地良さ
「随分お怒りのようだが、何かしたかな?」
「黙れ、お前一人しかいない今、お前が2人を殺したのは明白だろうが」
後ろを見れば、名も知らぬ美少女がいる。しかし奴らには見えていないらしい。
任意の人以外からは見えなくしているのか。
おいおい、どこまでお約束展開が繰り広げられるんだよ。この美少女が魔王軍関係者だって言ってるようなもんじゃねぇか。
これで魔王本人だったら出来すぎで笑ってしまうな。
「ふっ、そうだな。で? 総司令官殿が相手をしてくれるのか? ここをぶっ潰す理由でも言った方がいいか?」
まぁ赤の他人の事情なんて考慮してやる必要も無い。どうせ切り捨てる相手が何を企んでいようが全て拒絶すればいいだけの話だ。
「そう、まずはお前がここを襲う理由として、多くのケルベロスを駆逐したことへの復讐ということで合っているか答えてもらおうか」
「ああ、人のペットを勝手に殺した挙句、足蹴にした。理由としては充分の筈だが?」
「ケルベロスがペットとはまた冗談を。……それともう1つ、お前は魔女の解放に関与したか?」
魔女の解放? ああ、ネメシスとか言うやつもいたな。封印を解いた気もするが、存在そのものを拒絶したんだ。
もう終わったことだろ、どうでもいいか。
「知らないな。そろそろ始めていいか?」
「知らないね、嘘をつくのは苦手みたいだな。その目を見れば分かるぞ」
どんなエキスパートだよ。読心術が使えるのか、それともそういうギフトがあるのか?
どちらにしろ始めるなら早く始めてしまいたい。
【神霊・拒絶】の効果は俺の精神状態に大きく影響される。心を覆い尽くす暗い感情が大きければ大きいほど効果は大きくなり、できることも増える。
この憎悪が薄れる前に殺し尽くしてやる。
ケルベロス達の仇。
そして忘れることの無い元仲間達との別れ。
それに関しては確証はどこにもない。半分憶測、半分八つ当たりだ。
「全ての抗力を拒絶する。死に晒せ」
「断る。いけ、駆逐者!」
4つの影が向かってくるが、遅い。
俺が思うに駆逐者達は対人兵器ではない。対獣兵器など、力押しの分野にはめっぽう強いが使い方がガサツだ。
「お前は確実に殺す」
4人からの攻撃に対して拳で対抗する。
腕を振り抜くと、どんな攻撃も綿のような感触になっていて、特に苦労することも無く吹き飛ばせた。
消し飛ぶように建物に突き刺さる3つの影と、俺の手に頭を捕まれ、ダラんとなっている影がひとつ。
もちろん、実行犯の少年だ。
力加減がわからず指がめり込んでいるが気にしない。
「次こうなるのはお前だ」
グシャ
握り潰す。容赦なく思いっきり握りしめた。
指が綿に沈むように頭蓋骨を砕き、脳を握り潰した。
「そうか、暴喰の魔女を殺ったのはお前か。まさかこんな所で精霊持ちと戦う羽目になるとは思っていなかったが、悪くない展開だ」
「ほざけ、殺す」
地面を蹴る瞬間だけ、能力を解除し、瞬時に再起動する。そうしなければ、俺の足は地面を踏み締めることなく、沈んでしまうのだ。
「怨魂術鋏」
黒い大きな鋏が突如現れる。殴り飛ばそうと拳を突き出した時だった。
「空間を断絶する」
拳と大鋏が衝突する境目で火花が散り、空間に亀裂が入る。俺の拒絶能力と横はいりしてきた断絶能力が衝突した結果だろう。
「なんのつもりだ」
「君とその男の相打ちになりそうだったからね。止めさせてもらったよ」
「チッ! なんでお前がここにいる?」
「なんでって、気分だよ。お前の顔なんて私が見に来るわけがないだろ?」
やはり知り合い。どんな関係性かなど興味なしだ。それよりもやつの能力で俺が死ぬ? すぐに蘇生するから、どうでもよかったのに。
「やつの能力は魂に干渉してくる。いくら蘇生のギフトがあっても蘇生できる可能性は低いよ」
魂? そんなものが存在するのか、心臓と変わらないと思ってた。
というか、総司令官の仲間かと思ってたけど、仲間ではないみたいだな。
「業平君もこれ以上はやめなよ。もう実行犯は殺しただろ?」
名前を知ってるってことは【鑑定】持ちか。厄介だな。
「実行犯は殺したな。で? それがやめる理由になるとでも思っているのか?」
「不本意だが、お前も協力してこいつを殺るぞ。精霊持ちは厄介だ。しかもこいつの精霊はお前と同種だろ? 尚更、殺さなければ」
「馬鹿なの? 私は業平君を殺す理由がないわ。業平君、このまま突き進むと貴方の心が精霊に支配されるわよ」
精霊に支配? 何言ってるか全く理解できないな。まず、ギフトと精霊がどう結びつくのかが分からない。
それに、目の前の男への殺意は収まるばかりか、どんどん増幅していくばかりだ。
殺したい。あの少年と同じように惨めに捻り潰したい。
「何が楽しい!? 何をそんなに笑顔を見せている!」
「楽しい? 笑ってる? 知らないなぁ! 大事なペット達の弔い合戦だぜ? 楽しいわけないだろうがァ!」
体が自然と動き始めた。
動き始めたというにはあまりにも鋭敏に、圧倒的速度で敵に接近する。
「彼とクソ野郎を断絶」
「拒絶するぅ!!」
「なっ!? 弾かれた!」
邪魔をする壁が見えたのでそれを壊した。
全てを壊す、全てを拒絶する。それは生命でも変わらない!
『【神霊・拒絶】が【神魂霊・壊絶】に変質しようとしています。このまま実行しますか?』
「壊れろ、ゴミ野郎がァ!!」
脳内アナウンスの答えは口に出して、総司令官の男にぶつけた。
『【神魂霊・壊絶】を取得しました』
これで全てを壊セル。
心の底から黒い感情が吹き荒れ、それは現実にも干渉し始めた。
体から黒い煙が出始め、自分が変わっていくのがわかる。
「……やっぱりか。業平君には悪いけど、1度、失ってもらうよ」
「うるさいナァ! 邪魔をスルナァァ!!」
拳に黒い煙を収束させ、構える。総司令官と俺の間に立ち塞がる女が見えるが、気にしない。
そのまま拳を突き出しながら、突進する。
全てを壊す俺の拳に対してどんな抵抗を見せても、それごと壊し尽くしてやる。
「5人殺した罪に殺されろ!」
先程見せた大鋏が再び襲ってくる。しかし、その大鋏との距離よりも女との距離の方が近くなっていた。
魂に直接干渉してくる未知のギフトと、断絶能力のギフト。
どちらも攻撃力が高く、対処のしようがない。なら、対処なんてしなくていい。
真正面から壊して、それでも無理なら死んで、蘇生して、攻撃。
壊せるまでそれを繰り返すだけだ。
「ゴフッ、いいパンチ、だね。でも、代償は払ってもらうよ。苦しんで、もがいて、失って、また生きてくれ」
「ナニ? どうでもイイ」
戯言なんてどうでもいい。
『【神霊・断絶】【神霊・怨恨】【神霊・悪徳】を取得しました。【神魂霊・壊絶】に吸収します。……成功しました。命称が『世界悪の風間業平』に変質しました』
「ハカイ、ス……コワスゥゥゥ!!!!」
頭が真っ黒に埋め尽くされた。
怨念。
両親を目の前で殺された。好きな人の前で陵辱された。自分で想い人を殺すことを強制された。死にたくなるような拷問を受けた。
ーー壊せ、この世界を。お前の心のままに。
意識が乗っ取られた。黒い感情が全てになり、体を突き動かす。
自分で理解できない力が溢れ出し、目の前のものを破壊していく。
「そ、そんなバギャナブヘェ!!?」
憎い男を呆気なく殺した。
それがどうした? まだ命は世界に溢れている。
「壊レロ世界」
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