14話 駆逐者と最悪の再会
「御主人様、ボブもトムも置いてきて良かったんですかー?」
「ん? 別に良くないか?」
「だってー、駆逐者が来て皆殺しにされちゃったら勿体ないですよー」
俺達が来た場所に戻る帰路は来た時よりも比較的ゆっくりと進んでいた。
それにしても聞きなれない言葉だな駆逐者か。
「駆逐者ってなんなんだ?」
「えっとねー、僕達を解体してお金を稼ぐ魔人種だね」
「えっ! ここに人なんて来るのか!?」
なんか世界の果てみたいな認識だったけど、ゴブリン狩りをした森みたいな感じなのか?
「滅多に来ないけど、周期的に来るらしいよー。100年に1回とかそんな感じだったかなー?」
「100年って、そんな確率だったら大丈夫だろ」
「んー、そうだね!」
100年に1回しか来ない時点でここは相当やばい場所だ。俺も【エターナルデッドヒール】がなければ到着と同時にご臨終だったな。
まあ流石に100年に1回の確率を引き当てるほど悪運じゃないだろ。
30分。
「御主人様!! 大変でっせ! 駆逐者が現れました! はぐれの模様です!」
「嘘だろっ! こっちでかよ!?」
駆逐者が襲ったのはキマイラではなくケルベロス。
はぐれの意味は分からないが、聞いている暇はない。
「今すぐ案内しろ! 全速力だ!!」
「了解!」
なんでこうも運が悪いんだ。せっかくの安住の地をそう易々と壊させてやるもんか!
「あれでっせ!」
「お前もポチと一緒に下がってろ!」
やばそうな雰囲気が充満している。
緊張で手汗がヤバそうだ。
「……よっわ」
「おいおい、そこまでにしてくれ。クソ野郎」
駆逐者の周りには無残に殺されたケルベロス達の亡骸が転がっている。今、敵の足もケルベロスの頭の上に乗っている。
「クゥ……」
そのクソ野郎の足が乗せられていたケルベロスも今息絶えたようだ。悲しそうな声をしていた。
ブチ切れる理由は充分みたいだな。
「痛みを拒絶する」
「こんな所に人間? とりあえず死んでおいていいよ」
手を銃のようにして、標準を定めて打つ動作をする。もちろん、俺に向かって。
コンマ数秒。
刹那、俺の上半身は吹き飛んでいた。
「なーんだ。強そうだと思って本気でやったのに、期待外れだよ」
即死して、すぐさま生き返った。
殺したと思って俺の頭に置かれた足。それを掴み握り潰す。
「何、人様の頭に足置いてんだ」
「なっ、生きてるのか!?」
「抵抗力を拒絶する。外への攻撃を拒絶する」
少年のような声に少年のような容姿。
少年のような無邪気さで、いとも簡単に残酷なことをやってのける悪魔。
「殺す理由はお前がクズ野郎ってことだけだ」
「くそっ! 離せ!!」
大砲を至近距離から撃ち込まれたかのような衝撃が全身をすり潰す。
何発も撃たなくとも一撃で即死してるっての。
「効かない、無駄、無意味。死んどけ」
「くっ、来るなぁー!」
抵抗力を拒絶している今、俺の進行を妨げるものは拒絶され、消え去る。それは敵の攻撃も例外ではない。
流れ弾も外への攻撃を拒絶することでガード済みだ。
怯えて腰を抜かした少年の前に立つ。
駆逐者と言っても呆気ないものだったが、ケルベロス達を殺し尽くそうとした罪を許さない。
そう思い、首に手をかけようとした時
「待ってくれ、こいつはまだ修行中なんだ。見逃せよ、勇者」
「お前はっ!?」
どこかで見た顔だった。
「お前は俺に借りがあるだろ?」
仕事だなんだと言ってダンジョンで俺達を襲った魔天の1人。
「借りなんて知らない。手を離せクーリア」
「なんか変わったな? なんでもいいが、こいつはまだ殺させない、そういう仕事だ」
睨みつけるが、もちろん怯むこともせず、なんの変化も見せない。
俺の腕はこれ以上前に進まない、抵抗力を拒絶しているはずなのにだ。
「俺は生憎精霊とか、神とかに嫌われてるんでね。その力は直接は効かないね」
「なんでもありだな」
そう言って俺は腕を引いた。【神霊・拒絶】の効果が万全に効かない相手との戦いなんて想定していなかった。
これは逃げてもらう方が得策だな。
「クーリア様、申し訳ございません」
「当たり前だ。帰ってしっかり怒られとけ。それと勇者。お前らの仲間への攻撃はしてない。あの仕事は保留にしてある」
「当たり前だろ。約束は破るなよ」
「そう言うなら地上にでも出て、俺の主を改心してやれ。そうすればその仕事も取り消してもらえるだろうさ」
魔王を倒すのは俺の役割じゃない。あいつらの役割だ。
それに魔王の部下のこいつがここまで強いんだ。魔王なんてどんな強さか想像出来ない。
まず、死ぬことが前提の博打なんて死んでもやってやるもんか。
「これだけ教えろ。そいつは何をしに来た」
「そうだな、駆逐者の度胸試しみたいなもんだ。おい!俺を睨むなよ。こいつらの飼い主の総司令官にやってくれ」
「もう用はない。さっさと帰れ」
「そうするよ、仕事も終わったからね」
背中からキマイラ・ユニーク種よりも遥かに頑丈そうなドラゴンの翼を広げて飛翔する。
あっという間に見えなくなり、地下には大量の血と死体だけが残された。
「ポチ、こいつらを弔ってやれ」
「御主人様?」
「俺はケジメを付けてくる」
そうして、俺は来た道に向き直る。大量のケルベロス達の死体に背を向けて。
「総司令官、駆逐者の飼い主か。ペットの罪は飼い主の罪だよなぁ?」
殺す
魔女ネメシス相手以来の殺意を胸に抱きながら、トムの元へ向かった。
☆
「はぁはぁはぁ、やっと着いたぜ」
「なんだ? 地上まで飛んだこと無かったのか」
「別に必要なかったからな。それよりも何しに行くんだ?」
「弔い合戦だ、お前の義兄弟みたいなやつらのな」
最後まで理解できていなそうな顔をしていたトムは馬鹿な子かもしれないな。
「気配を拒絶する」
いつぶりかの地上。一面に赤黒い大地と空が広がっている。しかし、そんな荒野にも、目立っているものはあった。
王都。
それが王都なのかは知らないが、立派な街が目視できる距離にあった。
「とりあえずあそこだな」
気配は完全に遮断されているはずだ。
なんの心配もいらない。
そう言って自分を安心させながら、未知の街に向かって歩き始めた。
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