10話 魔女の善悪と闇
「ケルベロスっ! 多すぎるだろ!?」
声に従って歩いていくにつれケルベロスの数は増えていく。まるで何かを守っているかのように。
まぁ、地獄の番人なんだから不思議な事でもないか。
……戦っているのは我だぞ……はやくこい
声の主はトロトロ歩いている俺にムカムカしてきたらしい。
俺を止めようとしてくる(殺そうとしてくる)ケルベロスを虐殺しているのは正体不明の影だ。
攻撃力に全振りしていて、耐久力は余りないが、それを差し置いてもあまりある程の攻撃力でケルベロスを殺し回っている。
これの持ち主である魔女は魔王に封印されたと言っていた。
つまり、魔王と敵対する勇者側だ、と信じたい。
実際ここまで助けてくれている訳だし悪い奴では無いはずだ。
ここまでの力がある魔女が力を貸してくれたら、仲間の元に帰れるかもしれない。
………くっくく
「笑ったか?」
しかし、応答はない。今のは何に対する笑いだったのか。
それを示すように棺桶が埋め込まれた壁に辿り着いた。
黒い棺の真ん中に白銀の十字架が埋め込まれただけのシンプルなデザイン。それに反する大きさ。
全長5mの棺は人間が3人は入れる大きさだ。
……血を……十字架に
圧倒的な存在感を誇る棺桶を前にビビっていたが、声によって現実に引き戻された。
何万回と死んだおかげで服装には血が大量に染みていた。袖を腰の短剣で切り取り、十字架に当てた。
何かをしたわけでもなく、勝手に変化は起こり始めた。
まるで血を吸いとったかのように十字架は赤く染まり、木の根のようなものを棺桶に張り巡らせていく。
それはまるで血管のようで、脈打っているような錯覚を覚えた。
赤黒い煙が棺桶から噴き出し、ゆっくりとその封印が解かれた。
金髪に赤い眼。まるで吸血鬼のような容姿を供えた美女が出てくる。
「ーー暴喰」
「へっ?」
魔女の口角が釣り上がったと思った瞬間、背中に痛みが走る。
「まさか封印が解かれるような日が来るとはな! 小僧、感謝するぞ?」
「ごふっ、なん、で?」
ケルベロス相手に猛威を奮っていた影が俺の胸から突き出している。
背中から貫かれ、肺を貫通し、胸をえぐられた。
その様子を見て、ただ笑っているサイコ野郎が目の前にいた。
「おかしなことを。我は七天魔女の1人、暴喰のネメシスぞ? 喰らわずして何をしろというのだ」
「ぼ、暴喰? まさか!?」
暴喰、7人の魔女……七つの大罪。
完全なる世界に対する悪を冠する魔女なのか!?
「そうだ。我は世界に仇をなす者として封印された。この封印はどうしても解けなかったのだ。感謝するぞ? 愚かな魔王の血を引く者よ」
「がはっ。俺をどうする気だ?」
心臓を貫かれ、死んだおかげで【エターナルデッドヒール】が発動して回復した。
問題はこいつがこれから俺をどうする気なのかだ。
「そうだな……ゲームをしよう」
「ゲーム?」
「ああ、我はお前のギフトを1つずつ喰らっていく。お前のギフトがゼロになった時点で正気を保っていたらお前の勝ち。それまでに正気を失ったら我の勝ち、お前の仲間を殺しに行こうか」
「なっ!? クソゲーじゃねぇか!」
まず、ネメシスがギフトを奪う術を持っていること。
その時点で俺は勝ち目がない。
【ブレイブショット】を【ブレイブストライク】に進化。
【ショートレンジ特攻】【ブレイブストライク】【皇化】を素材に【ギフトストック&交換】を発動。
【機王眼】を入手。
【真眼】と【機王眼】と【ギフトストック&交換】を素材に【ギフトストック&交換】を発動。
【???】を入手。
判断は迅速だった。
これから始まるのは理不尽なゲーム。
負ければ翔斗達に危険が及ぶ。それを防ぐためには勝つしかない。
その為には、いかにギフトを減らすかがポイントだった。
「ほう? ギフトが1つになったな? つまり、貴様は自分のギフトを捨てて仲間を守ったのか」
「それの何が悪い! ゲームの約束は守れよ?」
なんの幸運か。ネメシスには【???】が見えていない。つまり、【エターナルデッドヒール】さえ、奪われればあとは自由だ。
「ああ、守る。お前が正気を保てればな?」
意味深に笑う魔女ネメシスを不審に思いながら、戦闘の構えを取る。
出来ることなら奪われたくない。抵抗してはいけないなんてルールはなかったはずだ。
「こいっ!」
「言われなくとも、と言うがもう遅いな」
「ガゴバハギャァ!?!?(ウソだ!? 何が起きた!?)」
俺の体を言葉に出来ない痛みが襲う。
一瞬で首より下が喰われていた。今まで見た中で最速の攻撃、何をされたか理解できなかった。
「おっと、失敗してしまったな。もう一度だ」
絶望を理解した。
この女は負ける気などサラサラない。相手が狂い壊れるまでギフトを奪わないだろう。
そして俺は蘇生系のギフト【エターナルデッドヒール】を持っていた。
終わらない。
地獄の魔女の笑みを睨みつけ、構え直した。
「じゃあ再開しようか」
くっくという笑い声を見た。悪魔のように目を光らせ、邪悪と呼ぶにふさわしい顔をしていた。
しかし、直ぐに視界は黒い影に埋め尽くされ、ブラックアウトした。
☆
「ほれ、ほれほれ」
まるで道端の小石のように弾け飛び、肉が壁に張り付く。
それでも【エターナルデッドヒール】のせいで直ぐに蘇生、直後再び殺される。
殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺さ、殺さ、殺さ、殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺。
死、死死死死死死死死死死死死死ーーーーもう死にたくない。
「……堕ちたな」
読んで下さりありがとうございました!
つぎも、お願いしますm(__)m