1話 お約束通りの異世界転移
空に浮かぶ月が2つに見えてしまうほど疲れていた夜だった。
疲れている理由。大学生になったこと。
慣れない一人暮らしと初めてのバイトに追われ、まともな生活を遅れていたかどうかも怪しい。
そんな夜。自転車で銀行の前を通りかかった時だ。
それは気づいても気づかなくても起こってしまうことだった。
その日、銀行にトラックで突っ込むという大胆な強盗殺人事件が起こった。
夜間の犯行だった為、死亡者は偶然居合わせた男子大学生1人だけ。
それが俺、風間 業平の短い人生の最後だった。
そう、ーーーーそこで死んだはずだった。
☆
見渡す限りの花畑。まさに天国と言われて思い浮かべるような光景。
その光景を他所に俺は生身でベンチに座っていた。
「死んだのか」
「いーや、まださ。自分でもわかっているんだろう?」
「……いやだ。嫌だぞ俺は、このお約束的な展開に乗せられるのは!!」
しかし、1人で座っている訳ではなかった。
隣には俺と同世代の見た目をした天使が座っていた。
ニコニコとそのイケメン面をこちらに向けてきている理由は予想がついていた。
アニメなどでお約束の……異世界転生ではなかろうか?
「ピンポーン! その通りだよ!」
「やっぱり! 嫌だって言ってんだろ!」
「なんで? 行ってちょちょいと戦うだけでモテモテだよ?」
「うっ、……嫌だぞ」
「なーに、お金に困ることも無いだろうさ。週休二日なんて決まりもないから、いつだって休み放題!」
「ううっ!」
そ、それでも正直怖い!
「うーん、なら僕からの特大サービスだ! ギフトガチャ10連ボーナスプラス1をプレゼントしよう! これでどうだ!?」
「ギフトガチャ?」
チート能力GETのチャンスだろうか?
てか、10連ボーナスっていきなり俗物の単語が出てきたな。
「君の想像通りさ。そのギフトガチャが今なら10連ボーナスプラス1!これ程お買い得なことはないよー!」
やっぱり、課金アイテム購入の宣伝にしか見えなくなってきた。
そして俺は……この手に弱い。
「……買います」
「毎度ありっ! プラス1は確定で良いのが出るはずだから、頑張ってね〜! じゃっ!」
「へっ?」
そう言うなり、天国チックな光景は暗転し、目の前にスロット的なのが出てきた。
天使も消えている。
俺が立ち上がると座っていたベンチも消え、真っ暗な空間に俺と錆びれたスロット的なのが残された。
……丁寧にレバーも付いている。
「引くしかないのか」
とりあえず1回目!
定番なら魔法創造とかが出てくるのかな?
内心ワクワクワクワクしながらレバーを下ろした。
ガラガラガラとスロットが回り始め、ガゴンという重々しい音と共に止まった。
【ブレイブショット】
1個目! という感動を待ってくれる間もなくまたスロットが回り始める。
ガゴン
【ギフト交換&ストック】
ガゴン
【鑑定】
ガゴン
【ブレイブショット】
ガゴン
【皇化】
ガゴン
【ショートレンジ特攻】
ガゴン
【状態異常半減】
ガゴン
【エターナルデッドヒール】
ガゴン
【鑑定】
ガゴン
【ブレイブショット】
ちょうど10個目が出た時、スロットが黒く変色した。
ガラガラガラ、ガゴン
【???】
………………。
「おい、天使」
『……ぷっ、アッハハハハ!! まさか、ここまでの強運だとは思ってもみなかったよ! これなら異世界でもなんとかやっていけそうだね』
ピキ
「どこがじゃクソ野郎ーー!」
魂の叫びも虚しく、視界の光景は暗転した時と逆に、明転した。
その眩しさに堪らず目を腕で覆った。
次の瞬間、俺は異世界にいた。
☆
まず、俺は状況確認よりも先に頭を占めているものがあった。
それは、ギフトガチャへのクレームだ。
1つ、せめて被りは無しにしよう。
2つ、半減じゃなくて無効化にしてくれ、怖い。
3つ、【ブレイブショット】強くねーだろ絶対。
特に3つ目に関しては俺の勘でしかないが、確信していた。
「周りには誰も居ないみたいだな」
俺は今、どこかの広場のような所に一人でいる。周りを見るが人の気配はない。
街灯の光以外は闇に包まれた真夜中だ。
「【鑑定】」
とりあえず口に出してみた。すると、予想通り、視界に漫画の吹き出しのようなものが現れた。
『勇者の祭壇』
地面を見ると、そう表示され、それ以外の情報はない。
街を見ると『ルルシア』と表示されている。
どうやらここはルルシアという街の勇者の祭壇という場所らしい。
真夜中なら出来ることも少ない。
これからのことを考えるとギフトの確認もしたいのだが、真夜中に大きな音を立てるのも申し訳ない。
それに何より眠い。
残業の残業をした後、結局寝ていないのを思い出した。
このまま勇者の祭壇で寝るのもしのびないので1番近くにあったベンチで寝ることにした。
【状態異常半減】の効果かどうかは知らないが寒さを感じることも無く、深い眠りに落ちていった。
◇
「ん、よく寝たっ!?」
もちろん夢ではなかった。そこはもうお約束だからいい。
だが驚きのあまり声が裏返ってしまった。
俺の異世界生活、記念の初顔合わせ1人目が俺の顔のすぐ上にいてすごい形相で睨んでいたからだ。
そいつはまるで北○○拳に出てきそうな世紀末モヒカンだった。