表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FEATHER  作者: 「S」
第一章 フェザー襲来編 ―その羽は何より美しく―
11/20

第一章10 『誓い』

第一章、完結――!

「皆さんにお知らせがあります」


 自習となった一限目に担任である『花園彦内』が現れ、皆は静かに注目する。


「今朝現れたフェザーですが、黒白のフェザーとして指名手配されることになりました。いずれ君たちと出会う可能性があるでしょう。十分に気を付けてください」


 きっと、今朝のことであろうと、察しはついていた。

 けれど、先生の発言に違和感があり、胸が少しざわつく。


「報告は以上です」


「ぇ……」


 『魅剣羽亮』に関する情報がなく、龍司は思わず声を漏らす。

 その後、二人して立ち去ろうとする先生を追いかける。


「ちょ、ちょっと先生っ」


「何でしょう?」


「羽亮は……」


 何と声を掛ければよいのか、彼の名を口にするだけで踏み止まる。


「……彼はしばらく学院を休むそうです」


 静かに微笑む姿は、どこか暗く。

 教室を後にする先生を眺め、それを疑問に思えば、クラスが何やら囁き合っていることに気づいた。



「――魅剣しばらく休みだってよ」



「――このままずっと来なきゃいいのにな」



「――そうそう。平民がうろつくんじゃねぇっての」



 『魅剣羽亮』が何かを成す度に『平民のくせに』と陰口を零す。


 いつも通りの見下し嘲笑う下品な貴族。

 所詮、家計に恵まれただけの地位だというのに。

 まるで自らが得た権力とでも勘違いしているのか、奢り切っている。


 とても傲慢な言動。

 羽亮は無関心に聞き流していたが、友人としては腹立たしい。


 学年上位に匹敵する才を妬まれ、忌み嫌われている。

 誰よりも見返してやりたいという野心が芽生える。


「……次の授業何だっけ?」


 気を紛らわすべく、険悪な表情をしている龍司に話しかける。


「ん? ……ああ、剣術だったな」


「そっか」


 静かに迸る怒りを抑え、ゆっくりと息を吐く。

 しぼんでいく風船のように肩から力を抜く。


「おいおい、ここで変わんなよ」


「わかってるよ」


 龍司の呆れるような声に気持ちを落ち着かせる。

 するとチャイムが鳴り、龍司と一歩踏み出し、廊下へと出る。


 2限目は剣術のため、競技場で行われる。

 東側にある体育館とは逆方向で、崩壊したのが体育館でよかったと少し思う。

 ここで唯一の存在意義である剣技を身分関係なく振るえる。


「先に行ってるよ」


「おう」


 更衣室にて、龍司より先に着替え、木剣を手に競技場へと足を運ぶ。



「――やりー!一番乗り~!」



「――おい、あれ」



「何だよ、一番乗りじゃねぇのかよ~」


 靴ひもを締め直す中、スポーツタイツに着替え終わった生徒が続々と集結する。

 剣術は選択科目で、割合としては男子がほとんどを占めている。


 それは主に羽亮や華聯を蔑み意気がった貴族の集団。

 ただ貴族というのは確かな実力を持っているため、反論しがたいのも事実。




「――おい、月島!」



 ふと声を掛けられ、顔を上げる。

 紺色の刺々しい髪、黄色の瞳。



 そこに佇むは、剥き出しの犬歯が特徴的な馴染み深い自称好敵手ライバル――『美坂信次みさかしんじ』だった。



「何?」


 曲げていた膝を伸ばし、同じ目線になる。


「今日こそは、お前に勝つ!」


「うるさい、黙れ、暑苦しい」


 鼻息荒く、指をさしては大声で宣戦布告する。

 日常茶飯事の光景に見飽き、周りから変な視線を浴びせられる。

 今ではもう恒例行事と化して、慣れてしまっている。



「――全員集合!」



 剣術の講師が現れ、生徒一同が機敏に整列する。

 その後、アップとして競技場内をランニングする。

 そんな中、ふと信次へと目を向ける。


 同じ貴族でありながら、品格を伴わない。

 自分とは騎士という家計と、通っていた道場が共通しているだけ。

 信次との勝負で負けたことは一度足りとしてない。


 にも拘らず、信次は諦めることなく挑み続けてくる。

 直向きに、ただ『勝ちたい』という信念で。


「皆も聞いたと思うが、昨日今日と立て続けにフェザーが現れた。きな臭い話、近いうちに大きな戦いがあるだろう。身を守るためにも、今日は模擬戦を行いたいと思う」


「「「「「はい!」」」」」


 筋肉質な教官のような講師の言葉に周りは笑顔を浮かべ合う。


 優劣を決められる勝負の場を好む、嫌らしい表情。

 飲み込まれそうになる高揚感に師範からの教えを思い出し、冷静さを保つ。


「それじゃ、好きなやつと二人組になれ。組んだヤツと対戦してもらう」


 講師の嫌な言葉を耳に颯爽と龍司と組むべく後ろを振り返る。

 そこには円らな瞳でこちらを見つめる信次がおり、龍司を見れば、他の誰かと既にペアをつくっていた。


「それじゃ、模擬戦を始める。戦いたいヤツから順にフィールドに出ろ。出ないやつは端に寄るか二階に上がって待機」


「「「「「はい」」」」」


 講師の声に元気よく返事し、周りは楽しそうに笑みを零す。

 この瞬間、自分だけが取り残されたような気分でいた。


「まずは1回戦だが……」


「はい!」


「お、威勢がいいな……んじゃ、一回戦は美坂VS月島だな」


 そしていきなりの初戦。

 何を考える暇もなく、フィールドに立たされ、剣を構える。

 互いに見合う中、周りから注目の視線を浴びる。


「恒例行事だな」


「どうせ今日も美坂の負けだろ」


「いや、わかんねぇぜ?あいつ日に日に強くなってるし」


「頑張れ信次ー!」


 野次馬の声に少しばかり考え深く思う。


「始め!」


 講師の掛け声と共に開始され、透かさず互いに踏み切り接近する。

 木剣と木剣の衝撃が掌から腕を伝い、態勢を立て直しては切り掛かる。

 上から降り下ろし、下から振り払い、水平に筋の入った剣を放つ。


 通常であれば、最後の斬撃で木剣は吹き飛び、相手の首元を突いていた。

 しかし信次は、最後の一撃を必死に受け止め、弾いていた。


『楽しいなあ!』



 ――黙れ。お前は出てくるな。



 再発した高揚から、内心の葛藤をする。

 一度、流れを戻すべく、間合いを取る。


 冷静さを保ち、決まった型を維持し続ける。

 それを心掛け、相手に意識を集中する。


 するとそこには、息を切らしながらもしたり顔をする信次がいた。



 ――まったく……。



 自然と釣られるように頬が緩み、何度も思う。


 その明るさで周りを変えていく。

 まるで漫画の主人公のような姿に自分もいつしか惹かれていた。

 事あるごとに目で追うほどの存在と化していた。


 凄まじい成長速度。

 荒々しく、それでも確かな一歩を歩み続けている。

 今にも追いつかれそうな疾走にいよいよ焦りを感じ始める。


「まぁ、でも……」


 再度、重い一撃を放ち、信次は仰け反りながらも制止する。

 このままでは先と同じ展開になり、流れが停滞する。

 そう勘が囁き、軽くステップを踏んで回転し、遠心力を加えた剣をぶつける。


「んがあっ」


 さすがにこれは受け止めきれず、信次は態勢を崩す。

 けれど剣を話すこともなく、倒れる様子もない。


 そのため、よろついた隙を見計らって止めをさそうと懐に潜る。

 だが粘り強く、次の一撃でさえ、信次には通用しなかった。


「マジかよあいつ!」


「こりゃ、ひょっとしたらひょっとするぞ!」


「行け―信次ー!」


 いつの間にか、外野から熱い支持を受け、信次は何度も笑顔になる。

 戦いを楽しんでいるのか、自分の成長を噛み締めているのか。

 どちらにせよ、こちらとしては少しばかり厄介になっているのは確かな話。


「今度はこっちから行くぞ!」


 考えている間に駆け寄って木剣を縦に切りつけ、木剣で受け止めるも、体重を乗せた攻撃はさすがに受け止めきれず、やむなく横に流す。


 しゃがみ込むように着地した信次の背を目に瞬きをする。

 呆気にとられた直後、天に向かって木剣を切り払うように接近していた。


「……っ」


 不意を突かれるも、間一髪で防ぎきる。


 すると今度は回転を加えた右下へ払う一撃、持ち直して左下に斬撃をかまし、そこから軽いステップで下から斜め上にフルスイングという、ひし形を描くような技を見せていた。


 息もつかせぬ連続斬りを何とか受け止め、後ずさりする。


『楽しいな~』


 内に秘めた自分が狂気染みた笑みを浮かべ、あくまで冷静にと言い聞かせる。

 今にも立ち上がりそうになるモノを必死で抑え、呼吸を整える。


「なに手こずってんだよ!」


 ふと耳にする龍司の声により、改めて気を引き締める。

 人は成長するのだと、再認識する。



 ――そして、



 脳裏に蘇る過去の記憶。

 引き裂かれるように別たれた自分をつくらせた元凶。


『おお、月島家の子にしては随分と華奢な体つきで』


 小さい頃から周りは容姿を触れてくる。

 当時は幼く、可愛がられているのだと勘違いしていた。

 しかし笑顔で並べられた言葉の数々は、徐々に歪なものへと変わっていた。


『なんと、大剣が使えないのですか?』


『こんな体つきですもの。仕方ありませんわよ』


『ですが坊ちゃんは、騎士になりたいと仰っているのでしょう?』


『モデルを目指した方が良いのではなくて?』


『これから大きくなりますよ、きっと』



 ――うるさい。



『未だに大剣が使えないとは、名家の恥ですな』


『月島家の歴史も、これで終わりか』


『お兄様方は美青年で大剣も振れるというのに』



 ――黙れ。



『あいつ、大剣使えないらしいぜ?』


『え?月島家って代々、大剣を使う一族だろ?』


『使えないとか、ただの汚点じゃねぇか』


 みんなみんな、勝手なことばかり。

 いつからか、忌み嫌われた存在なのだと自覚し始めた。


 『高々、大剣一本振れないだけで』とは思わない。

 その力で一族は国に貢献し、貴族にまで上り詰めた長い歴史がある。

 幸いだったのは、家族の誰も責めることはなく、背中を押してくれていたこと。


 我が道を行けばいいと、使える必要はないと。

 ただその優しさが痛かった。


 責められる方がよっぽど楽なのに。

 家族に気を使われ、迷惑をかけている自分が嫌だった。



「―――」



 苛まれる日々で生まれた、もう一人の自分。

 目を閉じれば感じる憎しみの塊。

 狂気に満ちた殺戮衝動。怒りの権化。


 疎まれ続ける自分だからこそ、平民である彼の存在が眩しいくらいに輝いて見えた。

 誰に何を言われても、必ず誰かのためを思って動ける優しさ。


 彼と共に過ごす時間は嫌いではなくて。

 昨日の戦いで重傷を負ったとき、怖いと思った。


 そんな彼に何もできず、知らないところで失ってしまうことが。



 ――だから、



「はあああ!」


 地を蹴り、足を動かす。

 止まることない剣技を叩き込む。

 相手の隙を見逃さず、防ぐ暇も与えない速度で、無駄のない動きを意識する。


 たとえ、大剣が使えなくとも。

 一撃の重さが劣っていようとも。

 確実なる一手を連続できれば、威力は絶大。


「ぐあっ!」



 ――誰かを守る力が欲しい。



 そう心で何度も唱えた時、木剣と共に吹き飛ぶ信次がいた。



      ※



「いや~凄かったな、今日の颯斗」


「そう?」


「おう、神がかってたぜ。ちゃんと抑えられてたみたいだし」


 夕暮れの通学路を歩く放課後。

 彼の見舞いに行こうと誘われ、道中に土産話で盛り上がる。


 剣術は彼の得意分野で、模擬戦で彼に勝てたモノは誰もいない。

 そんな彼に学院で起こった出来事を報告すれば、羨ましがるのではないか。

 戦いたいと、気持ち早めに良くなって学院に来るのではないか。


 やはり四人で一緒にいる時が一番楽しいから。

 後で華聯にも伝えに行こうと、二人で話し。


「え……?」


「何だよ、これ……」


 魅剣羽亮の自宅に着いたとき、『KEEP OUT』のテープが塀や玄関を塞いでいた。



      ※



 ――花園邸。



「そう……」


 お見舞いに来たという二人を招き入れ、今日の出来事を報告される。



 目の前には不安げに顔を顰めた、白銀の髪に灰眼をした彼――『如月龍司』。



 怪訝そうにこちらを見つめる、エメラルド色の瞳をした茶髪の彼――『月島颯斗』。



 二人が齎す話題はもちろん、『魅剣羽亮』についてだった。


「お嬢、なんか知らない?」


「羽亮の居場所」


 彼の家が立ち入り禁止区域となり、二人は何も知らない。

 それだけでわかる事実が一つ。


「ううん、知らない」


 誰かが情報に制限をかけている。

 今朝フェザーが現れたというのに。

 その存在を明るみにしていない。


 もうどこにいるのかもわからない、彼の正体を。


「お嬢、それ……」


 何に気づいたのか、颯斗が首元を指す。

 視線を下ろせば、自分も今朝方に気づいた物があった。


「ああ、これ……」


 胸元にまで垂らされたエメラルド色のペンダント。

 聞けば特殊な魔力が込められた魔道具だと父は言う。

 誰がくれたかは、言わずとも知れていた。


「大切な、プレゼントなの」


 もう会うことはないからと、寂しくなる自分のためなのか。

 今までの感謝を形にした、贈り物なのか。


 彼のことだから、きっと後者なのだろう。

 ありがたいけれど、そこに嬉しさは感じられなかった。


 これがあれば、彼を感じていられる。

 淡い思い出が蘇っては、忘れることを拒ませる。

 彼がくれたプレゼントだからと、外すことさえできないで。


 残酷なことをするなと、笑い泣きするばかりだった。


「ねぇ、二人とも……強くなりましょう」


 そのせいで、思わずにはいられない。


「三人で、強くなりましょう」


 もう戻って来ないなら、戻って来られないのなら。

 父の言ったことの意味が、今ならば理解できる。


 もう一度、彼に会いたいと願っているだけでは、何もない。

 ならば、こちら側から会いに行けばいい。

 会って、文句の一つでも言ってやりたい。



 騎士なら傍にいなさい、と――。



      ※



 花園邸を後に歩く足取りが重くなっていくのを感じる。

 踏みしめる落ち葉の音がうるさく思えるほど、互いに気が滅入っている。


「なんか、珍しいよな」


「うん……」


「お嬢が、あんなこと言うなんて」


「そうだね……」


 平和主義の彼女が、強くなろうと誓わせる。

 自分たちも思っていたこと故に自然と相槌をして。

 彼女の見せた儚げな笑顔が離れずにいた。


「なぁ、颯斗」


「何、龍司」


「今から先生のとこ、行ってもいいか?」


「奇遇だね。僕も会いたいと思ってた」



「じゃ――」



 顔を見合わせ、互いに後方へ走り出す。



 山の上、学院を目指して――。



      ※



「おや、どうしました?」


「先生の、方こそ……」


「こんなところで、何を……」


 息を切らし、ようやく見つけた先生を前に言葉が出ない。


 それもそのはず。

 全力で学院まで戻り、職員室に行けば誰もおらず、探し回り。

 帰ったのかと思えば、封鎖されているはずの体育館にいる。


 『花園彦内』という講師の考えが、いつにも増してわからずにいた。


「少々、気になったことがありましてね。二人こそ、私に用があって来たのでしょう?」


 何でもお見通しというのか。

 先に息を整えた龍司が、口を開く。


「羽亮の家が封鎖されていた理由……羽亮はどこに行ったんですか?」



「―――」



 龍司の言葉に対し、虚空を見つめ先生は空を仰ぐ。

 ただ聞きたいことは、それだけではなく。


「……華聯が、強くなろうって、言ったんです」


 講師であり、保護者である先生ならば、知らないはずがないだろうと。


「先生、何か知っているんじゃないですか?」


 龍司に続いて、口を動かしていた。



「―――」



 背を向け、しばらく口籠ると、先生は振り返る。


「……昨日ここで、フェザーとの戦闘があったことは知っていますね?」


「はい」


「記録では、フェザーが二体いたとされています」


「二体?」


 何を言っているのか、胸がざわつく。

 今朝の嫌な予感がまた、働いている。


「わかりませんか?」



「「―――」」



「緊急時に感知されたのは『黒翼のフェザー』一体のみ。ここで戦っていたのは、もう一人しかいないはずなんですよ」


「それって……」


 自分たちの知る限り、戦っていたのは『魅剣羽亮』ただ一人。

 それなのに記録ではフェザーが二人。


 いなくなった『魅剣羽亮』と、今朝現れたフェザー、華聯の様子。


 そこから導き出される解答は一つしかない。


「まさか……っ!」


 とても信じ難い真相に辿り着き、驚愕する。

 隣の龍司は合点が行っていないらしく、先生はこちらへと向き直る。


「魅剣羽亮はフェザーだと、指名手配されることになりました」


「は……?」


 先生の口から断言され、龍司は困惑する。

 しかしそれならば、全てに辻褄が合う。

 華聯や先生から覚えた違和感はこれだったのだと、納得してしまう。


「あいつは今まで人だったんですよ!?フェザーなはずなわけ……」


 けれど龍司は、信じられないと言わんばかりに訴えかける。

 目の前の現実を受け入れられずにいる。


「私も今朝の会議で同じことを主張しました。ですが……」


 言い足りないのか、龍司が先生に掴みかかろうとするため、肩を掴む。

 自分でもわかっているのか、龍司は大人しく踏み止まる。

 もう何をどうすればいいのか、思考が停止する。


「彼に会いたいですか?」


 そこへ紡がれる言葉。

 迷うことなく、二人で相槌を打つ。


「なら、会いに行けばいい」


「でも、どうやって……」


「華聯に強くなろうと、そう言われたのでしょう?それが答えですよ」


 話が見えてこず、首を傾げる。

 一体それがどう繋がるのだろうと。


「強くなれば、フェザーと立ち会う機会がある」


「「……っ!」」


「ニュースで見たと思いますが、これから対フェザー殲滅部隊が発足される。国家騎士団である《七聖剣》の7名と、学院内から1週間後に行われる選抜試験。その上位5名を加えた12人の盛栄――《レイヴン魔法騎士団》。そこに入れば、きっと彼にだって会えるはずです」


 僅かだか、希望が見えてくる。

 強くなった先に彼がいるのだと。

 華聯の、らしくない言葉のいみがようやくわかった。



 ――でも、



「……先生はどうして、それを伏せていたんですか?」


 一つだけ、解せないことがある。

 今朝、なぜそれを言わなかったのか。


 『魅剣羽亮』がフェザーであることを周りに伏せているまではわかる。

 彼がフェザーだと知られれば、誰もが寄ってたかって殺しにかかろうとするだろうと。


 気に食わないのは、自分たちにまで話してはくれなかったこと。


「……君たちならば、ここへ来ると思ったからです」


「……」


「彼を友だと思うなら、私を見つけ、自ら聞きに来ると。自らの意思で選択して欲しかった」


 本当の友ならば、心配して駆けつける。

 そうしないのは、奥底でどうでもいいと思うもの。

 自分たちは秘かに試されていたのだと、自覚する。


「《レイヴン魔法騎士団》に入れば、確かに羽亮君には会えるでしょう。けれど団の設立目的はあくまでもフェザーの殲滅です。会えたとしても、その時にはもう……」



「「―――」」



 再会できても、お互い敵同士。

 もう今までの関係ではあれず、友ですらない。



 だから、先生は――。



「そんな酷な選択、自ら勧められるわけがないでしょう?」


 配慮という先生の優しさ。

 見たくはないものを隠してくれていた。

 先生も辛いのだと、聞かなければよかったと、後悔する。


「……それでも俺は、羽亮に会いたいです」


 覚悟ある龍司の声。

 先生は複雑そうに苦笑している。


「僕も」


 ただそれは自分も同じ。

 ここにはいない華聯が誰よりも思ったであろう感情。


 先生は薄く微笑むと、再び背を向ける。


 それはとても、寂しげな佇まいだった。



      ※



「なぁ……」


「何?」


 学院を後に黄昏時の帰路を歩き、龍司は口を開く。


「先生はなんで、俺たちにあんなこと言ったのかな」


「あんなこと?」


「今朝、『羽亮はしばらく休む』って」


「それは……」


 真相を隠すための方便。

 しかし龍司が言っているのは、おそらくは違う意味でのこと。


「羽亮はフェザーなんだろ?なら普通、退学扱いとかになるんじゃねぇの?」


「確かに……」


 羽亮がフェザーと確定され、指名手配されたなら、退学処分となる。


「それに何で羽亮だってこと、伏せる必要があるんだ?」


「僕たちのためにだよね……?」


「先生一人の力で、情報を伏せることなんてできないだろ」


「言われてみれば……」


「おそらくは会議で先生が申し出たことなんだろうけど。上も上だよな。周りにも魅剣羽亮だってわかったなら、簡単に捜査可能なのに。そうしなかったってことは」


「上もまだ、決めあぐねていることがある……?」


「たぶん」


「けど、指名手配は確定だよね?」


「手配されるだけで、まだ内容に関してはわからないだろ。最悪は死刑だけど、罰せられる内容がもし、他だったら」


「羽亮を助けられる可能性がある?」


「ま、憶測だけどな。昨日と今日の会議で、決めたのが魅剣羽亮を指名手配することだけだとしたら。処罰の内容が死刑ではなかったとしたら」


「まだ、希望がある」


 いろんな奇跡が重なり合った先に光がある。

 それだけで、今を生きる原動力になる。

 野心が、芽生える。


「強くなろう、颯斗」


 立ち止まり、龍司は振り返る。

 自分と同様の覚悟の瞳を持って。


「うん……」


 沈みがかった夕日に照らされながら、腕をぶつけ合う。


「強くなろう」


 華聯のために。先生のために。

 誰でもない、自分たちのために。


 そんな一つの思いを胸に。


 今日ここに誓いを立てていた。



 ――ただ会いたいと、

  強くなろうと誓い合う――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ