第一呪文『ツバサ』
ロッカールームに入ったまま異世界に召還された野球部のマネージャーの勇者候補の私は、大自然に囲まれた風の国に訪れて金髪碧眼のエルフ様のシルフィーと一緒に野球で優勝をして三つの神器を手に入れて異世界に旅立ち消滅した異世界の英雄の父親を復活させる旅を始めるのであった...
シルフィーは自分が育った村に案内をすると説明を始める
「これから向かう場所は空気が綺麗で水も透き通っててご飯も美味しい村だよ!」
「もう疲れたからゆっくり休んでご飯も食べたいわ...」
流石に動ける状態になれなかった
肉体的疲労より精神的疲労が上回って延長引き分けを経験した時より疲れていた
「あーわかるわー!勝ち越しホームランを打って喜んだら、守備の時に、投手が同点ソロホームランを打たれてガックリして、お互いに勝ちを譲れなくてグダグダになった引き分けの試合の疲労でしょ?」
「心の中を読まないでよ!」
しまった!
勇者候補の私は駄エルフと主従関係の契約をしたので心の声が相手に聞こえてしまうのを忘れていた...
「もう~!うっかり屋さんの勇者さまぁ~ん」
「...ちょっと待って」
「なんで私の声が伝わっているのに、あなたの声は私に聞こえんのよ?」
「そんなの決まっているじゃない」
「?」
「魔法で塞いでいるから」
「その魔法を教えなさいよ」
「嫌よ、クソザコ勇者様」
しまった!!駄エルフのフレーズは隠せなかったか!?
「そろそろ村に行きたいんだけど、いいかな?」
「私も案内をしたいんだけど、村のみんなにお土産を届けないと行けないのよ」
「お土産って野球用品?」
「ぃんやー、ちゃうちゃう」
「え?どんなのを用意しているの?」
「現実世界の珍しい品物よ、漫画とかサブカルチャーとか書物ね」
「そんなの異世界に持ち込んでいいの?」
「ええ、以前は禁止にしていたけど、今じゃみんな好き勝手にやりたい放題にしているわ」
「他の国の人たちも?」
「現実世界のテクノロジーとかね」
「この世界は争いは禁止じゃないの?」
「勿論、禁止なんだけど、もしものために備えているみたい」
「そっか、風の国は穏やかだけど他の国も違うんだ」
「風の国も同じようにしているかもしれないけど」
「え!?」
「私達、エルフも案外信用ならないのよ」
心の中を読まなくてもそれが本心だとわかった
少しだけ時が流れた
「んなぁー!おそーい!」
エルフ様はマジギレ寸前なのである
「怒ってないって!怒ってないっつーのッ!」
「本当に場所はここであっているの?シルフィー」
「座標位置を確認したら、間違っていないはず...遅い...」
「もうお腹がペコペコだよぉ~」
《がおがおがぁああああああッ!》
異世界に響く怒声の唸声にシルフィーは驚く
「今のは何なのよ!召喚獣の心得でも会得したの!?」
「お腹の虫が鳴いただけ」
「虫の鳴き声じゃなくてケダモノの声よ」
そんなやり取りをしていると空からロッカールームが落ちてきた
私の目の前に落ちてきた
危うく異世界でゲームオーバーになりかけた
「やっと届いたわー」
何事も無かったみたいに振る舞う彼女は落ちてきたロッカールームの扉を開けてから段ボールを運び出し
段ボールの中身を確認済ませたら蓋を閉じて2つ重ねてそこに座り目の前に困惑している私に向かって一言
「大丈夫だった?主人公だから平気だよね?死ぬわけないもんね」
「順番がおかしいだろうッ!荷物よりパートナーを心配してよッ!」
「あなたは死なないわ...だって...」
「...え?」
もしかして庇ったりして守ってくれるとかそういうことなのかな?
「死んでも復活させればいいもの...」
「...」
「ジョークよ」
「...」
「死なせるわけないでしょ!」
「...」
本心なのかはわからないが、エルフは信用してはいけない...
よし!と言わんばかりに出発の合図がでる
「荷物も届いたから出発しますか!」
空から降りてきたロッカールームは現実世界に送り返して
現実世界から異世界にやって来た段ボールは私達で運ぶことにした
シルフィーがニヤリ
「段ボールを運ぶの面倒くさいと思ったでしょう~!」
「そうね」
「それじゃー魔法を唱えて運べばいいのよ」
「それじゃー任せた」
「あーもうブスくれてる!さっきのことは気にしないで怒っちゃだめ」
「わかった、魔法を唱えるにはどうしたらいい?」
「学習能力がありませんなぁ~ツバサさんには魔法は既に使えるのですぞぉ~」
腹が減ると腹も立つ
「使えるって言われても魔法って確かイメージ...」
「そう、イメージが大事なの。唱える言葉なんて無いに等しい。想像をして創造するのよ。」
「? わかった、やってみる」
初体験はドキドキする
不安もあるけど好奇心もあって自分の魔法を唱えるように頑張る
(瞳を閉じて...ツバサ...)
声が聞こえた
女神様の声ではない
シルフィーでもない
誰なのかわからないままに
心に語りかける謎の美少女の声に反応して従う
疲れてヘトヘトしていたのか頭の中が空っぽの状態で目を閉じた
なぜだろう
風が止んだ
葉っぱもザワメキが静まり返る
太陽の日差しも消えて
暗闇に包まれる
(異世界から混沌を止めるべく現れた勇者よ!汝に想像を破壊する創造を授けます!)
天から光がツバサに集まる
身体を包む暗闇からツバサは碧の閃光を解き放つ!
碧の閃光は紋章へと変貌してツバサに新たな力を授けるッ!
(私の名はマトリクス...勇者の娘よ...貴女の覇道に幸あれ...)
何が何だかわからないままイベントが終わった
あっという間だったので魔法を取得したのかもわからない
呆然と立ち尽くす私にシルフィーは声をかけて正気を取り戻させてくれた
「凄い演出ね!勇者の血を引いているだけあるわー!」
「うん」
「一瞬にして夜にしたと思ったら全身に浴びてバーン!ドーン!ガッシャーン!」
「ちょっと疲れて...」
意識が遠退いていく
シルフィーが支えて私の名前を呼んでいる
返事をしたいが、心の中に伝えられないほどのピークだった
「んもう!しょうがないわね!手間のかかる勇者様なんだから!」
今度はさっきまで意識が飛んでいたのにだんだんしっかりしてくる
目の前にはおでこをくっつけてる長耳の女の子
「結構これ恥ずかしいんだから...人前で出来ないんだからねっ!」
疲れてフラフラの私の前髪をかき分けおでこをくっ付けてきた
そうやることで身体を通してエネルギーを分け与えているみたいだ
シルフィーは恥ずかしながら一生懸命おでこをグリグリしてくる
それが痛いような心地いいような絆を感じさせてくれる
お互いの鼻と鼻がくっついて目と目が合う
照れながらも視線を外さずに見つめる...
勇者と従者だけの空間
ひとときの安らぎを満腹になるまで味わった
ある程度、回復したら起き上がれるようになったので彼女に魔法を初披露することにした
「よし!見ていろ!とんでもない魔法を唱えて繰り出すぞ!」
手順は3つ
最初は想像を描く
そして描いた想像を破壊して一点に集中する
最後は創造を生み出して紋章へと昇華させて唱えるッ!
「汝は唱える!第一の呪文!...その名は『ツバサ!』」
碧に光る紋章が身体から浮き出して疾風が巻き起こりテンションがあがる
すると疾風は段ボールへ向かって
まさか段ボールと融合した
「攻撃魔法じゃないようね」
さっきと違って冷めた対応を従者から受ける勇者
「何か変化があるはずだよ、ほら変わった気がする!」
「!? 本当に勇者様は凄いわ...生命を生み出した...」
段ボールから大きなツバサが生えてきた
バサバサとそれは羽ばたきこちらに近づいて来る
近づいて来るソレ二匹に恐怖心身
しかしイメージと違って大人しく飼い主(?)の前に止まり犬のように利口である
『お手』を試したら右の羽翼でしてくれる
二人はキョトンとしたが、大丈夫だろうと安心した
二匹は主人に背中を向けて『乗れ』と指示を出した
素直に乗ると翼を羽ばたかせて大空へ飛び出す
シルフィーは南西の方へ指をさして最初の村へ飛んでいった...
続く