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タロとチー:タバコ

作者: サミシ・ガリー

タロとチー


「あ、煙草だ!」

 そう言ってタロは人間が吸う煙草の吸殻に駆けて行った。

「タロは本当に煙草が好きだね」

 僕は今日の獲物の土筆を地面に置いて息を着いた。今日の収穫は中々だ。少しくらい休んだってばちは当たらないだろう。

「お、今日のは一本まるまるあるぞ!」

「やめなって、服に臭いついちゃうよ」

 タロは構わず茶色い葉っぱが入ってる白い部分に抱き着いた。本当にタロは煙草が好きだ。人間が吸っては地面に捨てていく良く分からないものなのに。

「~っ、イかすぜ~、しっかり詰まってるぜ、おいチーも来いよ」

「いやだよ、その臭い嫌いだもん」

「かっ~、これだからおこちゃまは分かってねぇぜ」

 そう言ってタロは土で汚れた顔を煙草に摺り寄せる。少しは顔がきれいになればいいね、僕はそうつぶやいて空を眺める。藪で覆われた空から日の光が零れて眩しい。少し目線を外せば人間が煙草を吸い始めるのが見えた。こちらは見えていないだろう。

「火もないのに良く言うよ」

 僕はライターで火をつけて口から焚火の煙のような白煙を吐いている人間を見て言った。

「はっ、あいつはダメだな」タロも見ていたようだ。

「ずいぶんな物言いだね、何がダメなのさ」

「雰囲気がダメだね」

 タロは人間を眺めながら得意げに言う。

「何さ、その雰囲気って」

「チーは映画見た事あるか?」

「は? エイガ? 聞いたことはあるけど、タロは見たのかい?」

 エイガと言えば時たま人間が話題にしている言葉だ。どうやら物語の様な物らしいけれど、僕は良く知らないし、興味もなかった。

「じゃあテレビは知ってるだろ? 子供のころよく見に村を飛び出したろ」

「ああ、テレビなら知ってるよ。よく怒られたね」

 あの時の親の怒りようを思い出して苦笑いで返した。

「あのテレビでも映画は見れるんだ」

「ん? テレビはテレビじゃん」

「いやいや、テレビの中にも種類があるらしいんだ。家住みの博士に聞いた」

 家住みの博士は物々交換をしてくれるいい奴だ。それに僕らよりも良く人間の事を知っていて、勉強になる。ネズミだけど。

「へぇ、博士が」

「そう、博士はその映画を見せてくれたんだ」

「えー、いつさ、なんで僕も誘ってくれなかったんだよ」

 僕は映画を見る事よりもそんな面白そうな事をタロが隠していた事にもやもやした。

「いや、あの時はさ、偶然だったんだ。お前が風邪引いてる時にお使いに出たろ? あの時」

 申し訳なさそうにタロは言葉をつなげていく。

「なんだよ言ってくれれば良かったのに」

「まぁ許してくれって、でな、その映画では人間が出てくるんだけど、そいつがすげーかっこいいんだ。渋い顔をしてくわえ煙草でこう言うんだ。「嵐が来る」ってな」

 タロはその人間の真似をしたのだろう、声色を変えて遠くを見ていた。

「それで?」

「ん? それで?」

「物語なんだろエイガって、続きは?」

「つ、続きはなんか急に人間の女が出てきてなんか食べてたな」

 しどろもどろになりながらタロはそう言った。

「それ、本当にエイガなの?」

「博士が言うんだから映画だろ!」

 タロは必死になってそういう。

「ふーん。じゃあタロも煙草吸うの?」

「いつかだ、いつか」

 タロは煙草に座りなおして腕を組んだ。

「いつさ」

 僕は意地悪くタロにそう尋ねた。

「……嵐が来る時さ」

 タロは先ほどの声色と本人は渋いと思っているだろう顔でこちらを見て言った。

「ぶっ、タロもきっとダメだね」思わず吹き出す。

「な、チーはあのかっこよさが分からないんだ!」

 タロはぷんすか怒って歩き出した。

「はいはい」

 意地悪した代わりに、うまいもんでも作ってやるかと土筆を背負いなおして後を追った。今日も平和だ。嵐が来たらタロは本当に煙草を吸うのだろうか。人間が吸っている大きな煙草を口いっぱいにかじりつき、「あらひがくふ」と言うタロを想像して吹き出してしまう。

「なに、どうしたんだ」

「あはは、なんでもない。嵐が来ても楽しそうだなって」

 豆鉄砲でも食らったような顔のタロにまた僕は破顔するのであった。

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