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十八話

 安藤圭一(あんどうけいいち)は親の地盤を引き継いだ議員二世だった。与党の重鎮までとは言えないが、野党の代表は軽んじられるものではないが、それでも重大な政策を決定できる立場にはないのだ。


 野党から与党になるためにここでしくじる訳には行かないのだ。まだ内閣総理大臣になることを諦めた訳ではない。


 戦争は十分に与党を問い詰める理由になる。表向きは協力し、裏では舌を出しているなど政治家だけでなく、人間であれば有り得ることだ。


 国難には党を超えた協力をしよう。失敗すれば、政治どころでは無くなるし、成功しても自衛官や国民の被害を前面に押し出せば政権を揺るがす事は可能だろう。


 国会の解散は内閣の切り札であると同時に諸刃の剣だ。多用することは政権運営能力が無いことを内外に伝える行為ではあるが、次期の続投は藤家は考えていないだろうし、今辞めるのは無責任すぎる。


 そうなれば来る解散に向けて準備をする必要があり、議員選挙には多くの人員と費用が必要となるために日本にその余裕はないのだ。


 国家を戦争に招いた大逆人と裁かれるか、国家の行く末を考え苦渋の決断をした政治家ととられるかは今後の動き次第である。


 自衛官に死傷者が出たのは事実であり、糾弾に値するが、政権を奪えるかは微妙なところであった。党は無能さを国民に知らしめてしまった。平成に入ってから内閣総理大臣はころころと代わり内閣が乱立しては潰れていった。


 日本人は我慢強いが我慢にも限界がある。官僚を無視した改革は官僚には嫌われたが、一定の効果はあった。領土問題解決のためには対等な立場に立たなくてはならず、常任理事国入りを目指すのは的はずれではない。


 だが、改革は既得権益を脅かす。仲間も増えたが、敵も増やした。与党も一枚岩ではなく党の離反者を生み出すところであったが、我が党に利益はほとんどなく厄介事の方が多かった為に断ったら、国民生活党に入党した様だったが、良いように使われて切り捨てられた。


 数は民主主義にとって力ではあるが声はでかくとも中身の無い者は損しか生み出さないのだ。そして、人が変異するのは脅威であった。


 変異が人を選ぶ事はないだろう。宿主が若い方が良いのかもしれないが、宿主から他者へと移る術を得てしまえば人類に抗う術は殆んどない。インフラを支える技術者が変異すれば人類は今の生活を維持することすら難しくなる。


 頭が無くなれば人は動けないし、心臓などの重要な臓器も同じである。政治家も代えがきく存在ではあるが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)する世界で生き抜く事は容易いことではない。


 もし、閣僚などが変異すれば政治的な混乱もさることながら死が身近にあるものだと悟った人間は何をするか分からないのだ。


 死は誰にでも平等に訪れる。抜本的な解決法が提示されていない以上は対症療法だろうが、やらなくてはならない。


 この際、合法である事にこだわっているべきなのではないのかも知れない。非合法を合法にするのも政治家の役割であり、変異について詳細な法律を定める時が来たのかも知れない。


 倫理的に非難されるべきことと効果は別問題である。将来の感染者を救う為に今いる人間を危険に晒すのは愚かであると言うのは容易いが、代案なき提案など意味がない。


 現実問題として日本社会にも変異は猛威を振るう。それは確定した事実である。変異者に人権があるかというのは微妙な問題であり、日本は国民に生存権を憲法で保障している。


 他人事であると思っているうちはまだ良い。人間は実体験しなければ本当の意味で理解しない生き物であり、外国で起こった戦争の被害者より今日の晩御飯の方が気になるものなのだ。


 同情とは優越感の一種なのだ。表向きは慰めていてもその感情を向ける相手より自分が上だと思わなくては起こらない感情なのだ。変異した元人間を駆除するのは可哀想だし、人権侵害だと騒ぐ者も自身の身の安全を疎かにしてまで擁護はしないだろう。


 ワクチンが開発されるまでは特危獣を駆除し続けるしか方法がない。ワクチンは政府関係者や医療関係者に優先的に予防接種がされるだろうが、変異した人間を元に戻せる様な効能を持つワクチンは開発できないだろう。


 自衛するのにも限界があり、少しでも変異の可能性を低くするためには他者との接触を断つべきだが、残念だが政治家は人に会うのが仕事であり、今の社会は他者との接触を断つ事は不可能に近い。


 親に寄生して生きている子供でも生きる為には食事をしなければならず欲しい物もあるだろう。商品が手元に届くまでに多くの人の手を介しており、その中に保菌者がいないと誰が断言できる。


 変異するまでは人間として扱わざるおえず変異した時には既に手遅れである可能性は高い。


 輸血が変異を加速させる要因となり得ると警鐘を鳴らす研究医は多い。感染の因子を特定するのは急務ではあるが、人の変異に関する研究は進んでいない。国家予算の多くを投入して研究する余地はあるが、すべてにおいて優先させる事は現実的ではないのだ。


 限りある資源を有効的に使用するしかなく、サンプルを集めるのも難しい。小田原の事件は日本政府によって公認された世界初の人が変異した現場だったのだ。拡散させない為には特危獣の駆除が優先され、現場の保全など出来る状況ではない。


 発生から時間が経ったとは言え未だに一日も経過していないのだ。当初の藤家内閣の方針では朝までに国民の安全を確認し、現場の封鎖を解く手順となっていたらしいが、何を基準にして安全だと宣言するのだ。


 日本国内に感染者を封じ込める為に効果は薄いと考えながらも日本からの旅行客の入国を拒否する動きすら各国にはあるのだ。


 人が動かなければ物も動かない。経済損失以上の損害を日本は受け、韓国との一件もあって国際社会から爪弾きにされる未来は容易に想像できる。


 国際社会との協調は日本が常任理事国入りをするのにも欠かせず戦争の早期終結への足掛かりでもある。上手く使わない手は無く、支持を得るためにも必要なことだ。


 こちらも譲歩したのだ。藤家内閣にも大きな譲歩を迫る事ができ状況が断る事を許さないという好機である。第一秘書を呼んで党内の意見を調整すべく安藤は動きだした。


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 瀬戸は血液検査の結果を見ても異常があるとは言えない状況に顔を(しか)めていた。切断された足は保存状態が良いとは言えないが、患者が命をとりとめたのは葛西が適切な治療を行った結果であり、責められるものではない。


 葛西も感染した疑いが強いとして拘束されていたが、体の一部とはいえ変異した涌井よりは確率は低く、涌井の状態も失血性ショックで一時は救命すら出来ないと医師が覚悟していた状態からは程遠い。


 足から採取された血液と涌井本人からの採取した血液では差異は確認されていないが、涌井の切断された足は重要な研究サンプルであり、政府は涌井の状態の徹底管理を決定し、そのための医師が複数派遣されていた。


 ただ、問題なのは外科医が葛西だけであるという点だ。外科的処置で変異部位を取り除けば救命できるのは大きな成果であったが、変異の可能性は常に付きまとう。


 涌井は休職扱いとなり、療養後は警察庁の職員として、特危獣対策の一員となるが、どこまで秘密にし、開示するかはその時の内閣に左右されてしまうという事だ。


 涌井の治療費や給料は内閣官房費から捻出されるが、市民団体による情報公開の対象となっている。内閣官房費の性質と国民の知る権利は両立することは難しいのだ。支払先となった場所が特定されれば国家の不利益となる場合もあり、機密は機密である必要があるのであって公然の秘密には価値はないのだ。


 瀬戸が研究医を目指したのは幼馴染みが難病によって命を落としたからである。


 臨床医であれば生涯で救える患者の数は数千だろうか。だが研究医であれば万を超える人々を救う事が出来るかもしれないのだ。医師の仕事は労力に見合った報酬とは言い難い。


 訴訟のリスクを抱えており、専門外であっても治療を行わなくてはならない。日本医師会の調査で機内でのドクターコールに応じないと答えた医師の中で治療器具もない中で専門外の治療を行うのにはリスクが高い事を理由にした者も多かった。


 善意で救いの手を差しのべても報われるとは限らないのだ。


 飲酒した医師がした治療行為を罰する法律はないが、飲酒した状態で治療をしたい医師はいないだろう。正常な場合でも手術は緊張するものなのだ。


 必要であるからとは言え、メスで患者の体を切らなくてはならないのだ。医療行為でなければただの傷害であり、医師免許を持っているからこそ、治療行為が出来るのである。


 そして、日本は高齢社会であり治療費は国庫を火の車にしている。国民皆保険制度によって最低限の治療は保証されているが、問題点も多いのだ。税は所得の再分配であり、病気になっても貧富に関わらず治療が受けられるのは利点だが、ホームレスなど国民健康保険に加入していない者や在日外国人による制度の悪利用によって制度自体が存続の危機に(ひん)しているのだ。


 医療費を抑制するためには、被保険者の負担増か診療報酬を低くするしかない。小さな診療所は維持するだけの診療報酬が得られずに借金による閉鎖の浮き目にあっていたり、設備投資ができずに満足する医療を提供できない状態になりつつあるのだ。


 小児内科や緊急外来はリスクの割に報酬は少ない。病院経営上の赤字部門ではあるが、無くす事による弊害もまた大きいのだ。


 治療を受けたい患者と治療する側の医師の需要と供給のミスマッチは悲劇しか生み出さないのだ。硬直した日本で医師として活動するなら海外で働いた方が良いと思う医師も多い。


 アメリカであれば医術が仁術ではなく、算術にする可能性もあるが労働には正当な対価が必要なのだ。特危獣が出現した事によって医師は変異をくい止める為に研究する事を迫られた。


 難病の根本治療法の確立は難病を患う患者にとっては福音ではあるが、その絶対数は少なく、風邪の特効薬を開発した方が多くの貢献をしていると言えるのだ。


 特危獣との接触後は血液検査を義務付けられているが、自衛官の血中酸素は年齢に関わらず高くなっていると言う結果が出た。


 感染の原因は不明であり初期の頃にしか行われていないが、それでも興味深いデータであった。酸素とウィルスに相関関係があるのかも知れないし、偶然なのかも知れないが、身体能力が強化されている可能性も否定はできない。


 自衛隊に協力を要請したが、不確かなことでただでさえ少ない隊員を拘束させられないと拒否されたが、小さな積み重ねが閃きとなり大きな発見をするかも知れないのだ。涌井氏の護衛につく事になった隊員は実戦豊富な自衛官である。


 レンジャー徽章を持つ者が身体的に優れていても不思議ではないが、特危獣と戦う事によって訓練を修了したと考えれば辻褄があう。


 個人の経歴を探る事は誉められた行為ではないが、現実の脅威として人が変異した以上は些細な問題とも言える。瀬戸は研究医としては一流であり、特効薬の開発にも携わった事がある。


 特定の細胞を攻撃するためには遺伝子学にも精通している必要があり、その道の権威であるのだ。手の空いた隊員に対して調査を行うのであれば業務に支障が無い限りは許可は下りるだろう。


 その憐れなターゲットとなったのは白井二尉であり、残念な事に拒否権はなかった。奇人変人と称される事もある瀬戸だが、その能力だけは高いのだ。国立感染研究所でも持て余し気味であり、科学に犠牲はつきものなのだ。


 犠にされる白井とその分隊は気の毒ではあるが一度下った命令は撤回される事はない。涌井の精密検査も順次行われる予定であるが物事は多角的に見るべきであり、特危獣と接触する機会の多い警察官と自衛官を最初に調べるのは当然の事であった。


「良い実験体(モルモット)が手に入った」


 生きたゴブリンを入手するのは難しく、生きたまま観察する機会も少ない。人の血が生存に必要であるというのも偶然の発見であり、怪我をした研究医にゴブリンが過剰反応したことで、研究医の一人が言い出した事であり、汚染されていない輸血用血液を日本赤十字から取り寄せて実験が行われた事で判明したのだ。


 研究医は政府に対して繰り返し実験体の捕獲を要請していたが、駆除が優先されるのは仕方がない事であり、捕獲された特危獣は国立の研究所に優先的に配られるのは当然の事だった。


 兵士級であれば、民間人でも捕獲することは不可能ではないが安易な接触は危険でしかないと一番知る立場にある者達は自重したのだ。特危獣を捕獲すること自体は合法的なものであるが、如何なる理由でも所持(飼育)する為には政府の許可が必要となる。


 実績のある有名私大であればその許可も下りるかも知れないが、人との接触を最小限にしなくてはならない為に場所的な問題が出てくるし、もし変異の感染源になった場合に責任をとる事を嫌う理事会によって阻まれる可能性は高いのだ。


 瀬戸は身体データを詳細に記録し始めた。毎年、実施される健康診断のデータの開示要求も行い承認させた。薬になる可能性は高くとも瀬戸は扱いに慎重さが求められる劇物である。


 特危獣の血液をマウスに投与する実験も継続して行われ、特危獣の死肉を与える実験も行った。変異する事にはしたが、差異については、やはり不明であったが、それでも徹底的に管理されたマウスで実験を行う必要性が否定されるものではないのだ。


 人体に対する許容量も推定されていたが、その時の健康状態によって免疫力は左右され、人体実験はリスクが高いために許可が下りない。人権がどうだと騒ぐ馬鹿が出るかも知れないが、死刑囚に対する人体実験を政府は容認するべきだと考えている。


 どちらにしろ死ぬのであればこれまで人様に迷惑をかけてきたのだ。科学の発展の礎になった方が有意義であり、注射によって特危獣の体液を体に入れる事に同意した死刑囚に関しては変異しなかった場合には特赦を与えるなど死刑囚の権利にも一定の配慮を示せば国民は納得するだろう。


 判決が確定した者に関して更正の為の服役は否定されるべきではないが、更正の余地が無いと判断された死刑囚に対して人権を守りすぎるのもまた弊害が多いのだ。


 人類の歴史から冤罪でないと誰も断言は出来ないが、裁判には周囲を納得させるだけの根拠があるのだ。勇気のいる決断ではあるが、誰かがやらなくてはならないことなのだ。


 このまま人類が変異に対して無防備であれば、地球の支配権は人類から特危獣へと移るだろう。阻止するためには必要な決断であり、まだ広域で変異が確認されていない段階で手を打たなくては意味がないのだ。


 パンデミックが起こってからでは遅いのだ。瀬戸は一研究者として政府へと苦言を(てい)する事にした。


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 白井はとにかく走らされていた。自衛官になってからは走る事も仕事のひとつであると理解するのにはそう長い時間は必要なかった。走れない軍人などただの的でしかなく、自衛官でも例外はない。


 幸いな事に荷物を背負ってでの作戦行動ではなく、瀬戸さんからは詳細な身体データがとりたいので走る事を要請された。


 要請と言っても藤堂を通じて研究に対する協力を命令されており、分隊全てが警護につく必要も無いために極力応じる様に命令されていた。様は上官からの命令に背く事は許されないということだ。


 他の自衛官が韓国との武力衝突に防衛出動したというのに自分達は蚊帳の外であった。小田原の状況も気になるが隔離された状況下で知る事は難しく、外部との接触も殆んどないのだ。


 目付きは悪くないのだが、研究医達の興味深そうな視線には戦慄が走った。武装した人間に対しては無力であり、素手で制圧する事も可能だが、下に見るのは危険であると本能が伝えてくるのだ。


 白井の部下は優秀だった。分隊長である白井は護衛計画の提出など体を動かす以外の事務処理を多くこなさなくてはならないのだ。


 白井達が滞在することになったこの施設は重要施設の一つとして白井分隊以外の普通科部隊によって警護されている。特許は莫大な利益を生みだし、科学者達は理想の研究環境を求めて世界を股にかけて活動するが、研究の多くは部外秘であり、セキュリティレベルによって入室を制限している。


 瀬戸が持つセキュリティレベルは三であり、分隊長である白井でもレベル一までしか許可されていない。涌井自身が最高機密みたいなものだが、涌井はセキュリティカードを持っていない。


 レベル一ではいざというときに要人を護れないと白井は藤堂に主張したが、外部の人間を研究施設に入れただけでも特例なのである。国立感染研究所の支部であり、様々なウィルスの研究を行っており、バイオハザード対策は欠かせないのだ。


 自衛官でも一部の者にしか施設内での銃の所持は認められていなかった。山一帯が国有地であり、不審者を発見するのは容易ではない。


 施設周辺には監視網が構築されているが、山に立ち入る事は日本国民であれば不可能ではない。普段は民間警備会社と委託契約を行っており、警察OBが多く退職後に就職するために信頼はおけるが研究しているものがものなので、基本的には施設の外に目を向ける事はあっても内に向く事は少ないのだ。


 感染症の研究には危険がつきものであり、白井も研究器具には手を触れない様に忠告を受けていた。護衛対象の涌井を護る為に体力は温存しておきたいというのが本音であったが、命令に背く事は出来ないのだ。


 社会人として働く者の中で自分が好きな事だけをできている者は皆無だろう。好きな事を仕事にすることも難しいが、それだけをするなどよほどの金持ちでも難しいだろう。


 体を動かすことは好きだが、それにも限度はある。自衛官が救うべき、護るべき国民のためという建前はあっても自衛官も人間である。


 嫌いな人もいれば好きな人もいるし、何故こんな奴を犠牲を出してまで護らなくてはならないんだと思う事もある。自衛官は堅実である事を若い時に上官に叩き込まれる為に貯金もしているし、給料も悪くはない。


 白井の元カノは研究者であり、将来に不安を感じていた。大学院を卒業しても残ったのは一般のサラリーマンの年収を超える奨学金(借金)とワーキングプアそのもの。労働環境の苦労は多いが、収入は大学の新卒以下と言う事もざらにある。


 研究職として採用されても結果を残さなくてはならないプレッシャーは大きく、研究データを改竄するという禁忌を犯してしまう研究者もいるのだ。


 元カノである志田美帆(しだみほ)も研究が最終段階になると連日研究室に泊まりこみデートの約束をドタキャンされたことも一度や二度の事ではなかったと白井は思いだした。


 生物の進化に関する研究で、人類が地球を支配するに至った進化の過程に重点をあてて研究していると聞いた事があった。


 詳しい内容は聞いた事がなく、大学内でも目立つ研究ではなかった筈だが、クリスマス前に振られてからは会っていないのだ。白井は真剣に結婚を考えて交際しているつもりだったが、志田は白井との将来を想像できなかったらしい。


 婚約はしていなかったが、互いの両親には挨拶を済ませており、白井はクリスマスにプロポーズをする予定だったのだ。


 だが、志田から突然、別れ話をされそれ以降は消息を絶った。大学も辞めており、志田の両親は捜索願いを出したらしいが、見つかったとは聞いていない。


 考えない様にしてはいるがやはり、少し時間が出来ると思い出すのは元カノの顔だった。そしてクリスマスの惨劇が起こったのは偶然だったのだろうかと思ってしまったのだ。


 もしや自分の未練が引き起こしたのかとも思ったが、そんな能力は白井にはない。部下のために休日を返上するのは幹部の仕事であり、事情を話していた一部の隊員からの残念会が開かれただけでも気分は紛れたのだ。


 日本は激動の時代を生き残らなくてはならない。一つの行動によって破滅に向かわないとは誰にも言えない。だから白井は目の前の一つ一つを確実にこなしていく。


 それが最善だと自分に言い聞かせて

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