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第7話 夢の魔法と憧れの炎

 暗闇の中に閉じ込められた二人は、最初の頃は何が起きるのかと待ち構えていたのですが……

 いつまでたっても何も始まらないので歩きながら辺りを探索し始めることにしました。


 (……なんにもないね)


 「そうね。……もしかして、魔法でこの暗闇を消すのが試練なのかも? 体から魔法みたいな炎も出てるし……とりあえず、やってみようか?」


 (うん! やってみよう!)


 探索をしても何も出てこないので、二人はオレンジ色の炎で暗闇を吹き飛ばすことにしました。

 本来なら、周りにある黒い光が体に入って意識を失い、夢の中で目覚めて魔法の試練が始まるのですが……

 それを知らない二人は黒い光自体を吹き飛ばそうと頑張ります。

 そんな二人を相手にした魔女や魔法使い達は大忙しでした。


 「次はそっちに行ったよぉ!」

 「なんでこの魔法に包まれて動けるんじゃ!?」

 「とにかく道を作るんだよ! 下手に何かに触れたら、何しでかすか分かったもんじゃないからね!」


 黒い光に囲まれた強子ちゃん達の動きに合わせて、魔女や魔法使い達が魔法の道を作り上げます。

 沢山の魔法が混じった魔法の道は、虹のような色をしていました。

 その上をトコトコと歩く強子ちゃんこと、黒い球体が止まります。


 「やっと眠ったのかの?」

 「……強子様とアリュメット様の炎が強くなってきております」

 「炎の力で掟の光を吹き飛ばす気かい!? ソル、とんでもない馬鹿たれを連れて来たね」

 「あらあら、このままじゃ魔女の儀式ができないわ。しかたないわね。少しお話をしてこようかしら」


 ソルシエールはメレンダに魔女の儀式用の杖を渡して、強子ちゃん達の所へ行こうとしましたが、メレンダは杖を受け取らずに言いました。


 「ふん、馬鹿いってんじゃないよ! ……私が行くよ。炎に焼かれるのは慣れてるからね」


 メレンダはソルシエールの返事も聞かずに黒い光に飛び込みます。


 「アリュ、魔法使いの掟なんか吹き飛ばすわよ!」


 (うん! 魔女さん達は声や姿は怖いけど、優しい人だったもんね。……絶対に助けるんだから!)


 「うん! 燃えてきたわよぉぉぉ!!」


 強子ちゃん達があまりに強くオレンジ色の炎を燃え上がらせるので、黒い光にヒビが入り始めます。


 「いけるわ!」(いけるよ!)


『何がいけるだ! この馬鹿たれ!!』


 「いたっ! ……メレンダさん?」


 硬くて大きなクッキーを投げつけられた強子ちゃんは、頭を押さえながら声のする方を振り向くと、そこにはメレンダが立っていました。


『このままじゃ魔女の儀式が続けられないんだよ! 魔女になりたきゃ、さっさと黒い光に心を開くんだよ』


 「えっ! 黒い光をやっつける試練じゃないの?」


 驚く強子ちゃんにメレンダは魔女の儀式の内容を詳しく教えました。

 これ以上、無茶苦茶されるよりは一通りの流れを教えた方が安全だと思ったのです。


『――と言うわけで、魔法の試練は掟の光を取り入れてからが本番なのさ。それを掟の光自体と戦うなんて前代未聞だよ』


 「……メレンダさん。このまま掟の光を吹き飛ばしたらどうなるの?」


『……魔女にはなれないだろうね。逃げるんなら手伝ってやるよ。そっちの方が簡単そうだからね』


 メレンダは横を向きながら鼻を鳴らしてこたえました。


 「それで皆の掟の鎖を取り除けるの?」


 強子ちゃんはそんなメレンダに近付き、質問を重ねます。


『……無理だね。あんたは水に入る前の砂糖を吹き飛ばせただけだ。混ざっちまったもんはどうしようもないさ』


 (そんなのダメだよ! ね、強子?)


 「……炎を押さえて黒い光を受け入れたらいいのね? メレンダさん」


『……あんた達の気持ちが本物だってことは、この炎からよく伝わってくるさ。でも何故だい? 私達に関わらなくても幸せにはなれるだろうに……』


 どうしても魔女を助けようとする二人にメレンダは尋ねました。

 すると、強子ちゃん達の体から溢れる炎が強く揺らめいて、アリュメットとは別に一人の少女を形作ります。

 二人の少女は互いに顔を見合わせると、メレンダに向かって言いました。


 「私は負けるのが嫌いだから」

 「私はもう負けたくないから」


 「「それに――」」


 メレンダの耳には二人の声が重なるように聞こえてきました。




 ――暗闇から解放された二人に魔女になるための試練が始まります。


 魔法使いの試練はとても変わっていて『お菓子の家を作れ』だったり、『いばらで出来た迷路のゴールを目指せ』だったり……


 燃える炎の草原を走ったり、氷の城に閉じ込められたり、カエルやネズミに変えられたり……


 でも、不思議なことに失敗した!と思ったときや、苦しいときには何故か様々な助けがやって来るのです。


 崩れるお菓子の家に悩んでいるときには、魔法のお菓子のレシピが降ってきました。

 茨の毒に苦しんでいるときには、目の前で毒消しの花が咲きました。


 燃える炎の草原では凍ったカボチャの馬車が走ってきました。

 氷の城に閉じ込められた時にはトランプの兵隊が助けてくれました。

 カエルやネズミに変えられた時には、魔法の使えるカエルやネズミが助けてくれたのです。


 強子ちゃん達だけでも、時間をかければ合格できた試練だったかもしれません。

 強子ちゃん達だけでも、苦しい思いをしながら突破していた試練だったかもしれません。


 でも、力を貸してくれる人達がいることは、強子ちゃん達にとってとても強い支えになりました。

 その支えを感じるたびに燃え上がる熱い炎は、いつの間にか黄金色の輝きを放っています。

 そして……強子ちゃん達は全てを諦めることなく魔法使いの試練を……

 物語に捕らわれない魔女になるための力に、その指をかけました。




 「メレンダ。魔法使いの試練に力を貸すのはルール違反じゃないかしら?」


 ソルシエールが魔法のお菓子のレシピを降らせたメレンダに声をかけました。


 「ふんっ、それがどうかしたのかい? ……もともと魔法ってのは不可能なことを可能にする力だろ? いつだって魔法は夢を叶えるもんなのさ……」


 はるか昔、いつもお腹を空かせていたメレンダが持っていた魔法への憧れの炎。

 懐かしいその炎が、いつの間にかメレンダの心を熱く照らしています。


 「あら? ふふふ……たしかにその通りね」


 そして、その炎は他の魔女や魔法使いに燃え移り始め……


 みんなが夢見た魔法使いの少女が誕生したのでした。


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