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第一話 マッチ売りの少女になった少女

 ある日、目が覚めると強子きょうこちゃんはマッチ売りの少女になっていました。


 何を言ってるのかわからないけど、強子ちゃんだって何が起きているのかわかりません。


 でも、絵本のような大通りの景色も


 雪が降る大晦日の夜のこごえるような寒さも


 父親にしかられてマッチを売っている少女の記憶も


 そして、このままでは凍え死んでしまう未来も


 全てその少女、真健木まけんき強子きょうこの現実になったのです。


 強子ちゃんは思わずため息をつきたくなりましたが、自分の胸の奥で凍えて震えている可哀想な少女がいるではありませんか。

 そんな少女の前では弱気を見せられない強子ちゃんは、夢かと思い引っ張りすぎて赤くなった頬をさすり、叫びました!


 「あー、もうっ! ぜったい死んでなんかやらないんだからっ!!」


 小学二年生の真健木強子ちゃんは、名前からは想像も出来ないほど負けん気の強い娘だったのです。


 「燃やすべきはマッチじゃなくて生きる意思よ!」



 そうと決まれば話も動きも早い強子ちゃん。

 記憶を頼りにカツラ屋さんにやって来ました。

 昔の人は、人の髪でカツラを作っていたのです。そして、けっこう高級品。

 男気あふれる強子ちゃんは洗えば綺麗な長い髪を、バッサリ売ってしまいました。


 「髪は女の命でも、髪で命が買えるなら安いものよね?」


 それに夜道を少女が一人で歩くなんて危なくて仕方ないし……強子ちゃんは呟きます。

 髪を少年のように短くした強子ちゃんは、着ている服を工夫して、本当の少年のように姿を変えました。


 「これでよし! でも、今日は大晦日よね。こんな夜にマッチを買う人なんているのかしら?」


 少しでもマッチの売れそうな噴水広場を目指して歩いていると、大道芸人がみんなに芸を見せてお金を集めているのが見えました。


 「!! これだ!」


 強子ちゃんは噴水前に移動すると、カゴとカゴに掛けてある布を上手に使い、低いテーブルのようなものを作りました。

 そこに並べるのはマッチ棒。


 「さて、ここに並ぶはマッチ棒! でもマッチを売ってるわけじゃないんだぜ!

 貴方とわた……オレのチエ比べ。この手のひらの雪が溶けるまでに正解した人には、賞金があるよ~!」


 周りの大人はチラホラこちらを見るが、あまり興味がありません。

 強子ちゃんは喉をコホンと鳴らすと、明るいクリスマスソングを歌い始めました。

 聴いたことがないその明るい歌声に惹かれ、強子ちゃんの周りに人が集まり始めます。


 強子ちゃんが数曲歌い終わる頃には、集まった人の何人かがカゴのテーブルにお金を投げてくれました。

 負けん気の強い強子ちゃんは、年の離れた兄にカラオケで馬鹿にされたことがあり、歌の猛特訓をしていたのです。


(歌はどの世界も共通ね。音楽を真面目にやっててよかったみたい)


 でも歌だけでは帰らせないのが強子ちゃん。

 にっこり笑って知恵も売ります。


 「さて、ここに並ぶはマッチ棒! でもマッチを売ってるわけじゃないんだぜ!

 貴方とオレのチエ比べ。この手のひらの雪が溶けるまでに正解した人には、賞金があるよ~!」


 「坊主、どんなルールだ?」


 「あっ、挑戦する? 銅貨を払った枚数だけ賞金がでるよ。銅貨三枚? よしきた!

 いい賭けっぷりだねぇ。兄さん、いい年迎えるよ。さあ、どちらがこの銅貨三枚を得ることができるのか? まずはルールの説明だ。このマッチ棒を――――」


 大晦日の夜空は満天の星空で、流れ星もありません。

 マッチ棒パズルで負けても、『幸運のマッチ棒』を売ってお金と笑いを貰っている孫の姿に、天国のおばあちゃんも苦笑いです。

 マッチ売りの少女の懐は、全てのマッチを燃やした炎よりもポッカポカ。

 強子ちゃんは子供一人では危険だと、見回りの衛兵に声をかけて安全にお家に帰りました。


 家の前に着いた強子ちゃんは、ある程度のお金を庭に隠すとお家の中に入ります。

 家の中に入ると不機嫌な父親が大きな声で――


 「おい! アリュメット、マッチは売れたんだろうな!」と怒鳴りました。


 マッチ売りの少女の名前を呼ばれた強子ちゃんが、頭にかぶった頭巾を外すと少年のような短髪が現れます。

 これには不機嫌な父親も思わず言葉が出ませんでした。


 「ア、アリュ、おまえ……」


 「マッチと……髪も売ってきた。もっと良いもの食べて綺麗にしてたら、倍の値段で買ってくれるって、お父さん」


 笑顔で返事をする自分の娘に、父親は「あ、ああ、そうか……」としか言えません。

 しかし、強子ちゃんがテーブルの上に沢山のお金を広げると、途端に態度が変わりました。

 そのイヤらしい父親の笑顔を見ていると、胸の奥でマッチ売りの少女……

 アリュメットが泣きそうな笑顔をしているのが、強子ちゃんには分かりました。


 「ぜったい幸せになってやるんだから……ね」


 胸を押さえてそう呟く強子ちゃんの心では、負けん気の炎がメラメラと燃え上がります。

 その炎はアリュメットの凍りついた心にとって、とても温かいものでした。


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