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第9話 心にマッチの灯火を

 空から一筋の光が緩やかに降りてきました。

 その光は神々しく神秘的で、人々は自然と頭を下げています。

 その光を見上げた強子ちゃん達は、神様が降り立つであろう青いバラのお花畑に向かいました。


『やあ、はじめましてマッチ売りの少女。……久しぶりだね、雪の女王』


 「はじめまして、強子とアリュメットです。神様とお呼びしてもよろしいかしら?」


 青いバラのお花畑の中央に降り立ったギリシャ神話に出てきそうな美少年に、強子ちゃんは綺麗なお辞儀をして言いました。


 「お久しぶりです。神様」


 レジーナも綺麗なお辞儀で神様の言葉にこたえます。


 『なるほどね。なんでマッチ売りの少女がこんなに暴走しているのかと思ったが、読み手の魂がこんなところに来ていたのか……。

 やれやれ、いままでも数回あったけど、全て物語が終ると自然に帰っていたんだけどね。で、お話があるそうだけど何かな? あ、呼び方は神様でいいよ』


 「では、神様。この世界の住人に自由をいただけませんか?」


 強子ちゃんはアリュメットの赤い目で神様を見つめながら尋ねました。

 その言葉を神様はきっぱりと断ります。


 『それは無理だね。読み手の夢や成長を支えるのが、この世界の役割なんだ。君も読み手側の人間なら分かるだろ?

 確かにこの世界の住人の中でも可哀想な人はいる。だが、それによって読み手の心も育つんだ』


 「でも、それは演技だって良いでしょ? この世界の住人と読み手が一緒に幸せになる方法が、何かあるはずだと思わないのですか?」


 強子ちゃんの気持ちがこもった言葉を聞いた神様は、鼻で笑うと強子ちゃんの言葉を否定します。


 『はっ、何を言ってるんだい? もしかして、君はこの世界の住人に意志があると勘違いしているんじゃないかな?

 この世界の住人は人に作られた物だよ……。僕を含めてね……』


 「も、物……」


 『そうさ。物だよ! 僕もマッチ売りの少女もこの世界の住人全員が……君だけが違う。だから、そんな勘違いが出来るんだ。ほら、後ろをみてごらん?』


 「後ろ?」


 強子ちゃんが後ろに振り向くと魔女や魔法使い達、仲良くなった鬼達など、この世界の住人が地面を埋め尽くすように立っていました。

 そして、その瞳と表情は……光を、輝きを失っています。


 「み、みんな……」


 『……この世界はある程度の間隔でリセットされるんだ。僕だってただ眺めていただけじゃないんだよ。助けようとしたさ。変えようとしたんだ!

 ……でもね、彼らは物だから、役割から外れると次第にこうなる。ほら君の胸の中にいるマッチ売りの少女も……』


 「そ、そんな……アリュ? アリュ!? 返事をして、アリュメットッ!!」


 胸の中で凍えてうずくまる、目の光を無くした少女に強子ちゃんは叫び続けます。

 その隣には同じような目をした雪の女王が立っていました。


 『……君は悪くない。それどころか感謝してるよ。できれば元の世界に戻っても、この世界を愛してほしい。それが……この世界の住人の希望だから……』


 「魔法も使えない! イ、イヤよ! 絶対に諦めないんだからっ!! アリュ! レジーナ! 目を覚まして!!」


 胸を押さえて叫ぶ少女に、神様は悲しそうな笑顔でお別れの言葉を伝えました。


 『さあ、君を君の世界まで送ってあげる。……優しい君に幸せが訪れることを祈ってるよ』


 「だ、だめ! そうだ! これが童話の世界なら――」


 強子ちゃんはポケットからマッチを取り出すと、素早く擦って火をつけました。


 「お願い! みんなに希望を! 自由を!!」


 『……さよなら。大丈夫、この世界の記憶は消えるから……夢のように……』


 強子ちゃんの魂がアリュメットの体から離れ、天に向かいます。


 『アリュ!! 目を覚まして!!』


 「きょ、きょうこ……」


 強子ちゃんの声が聞こえたのか、アリュメットの口から強子の名前がこぼれました。


 『し、信じられない。意識を取り戻したのか!?』


 『ア、アリュ!』


 「きょ、強子、聞いて。マッチの炎が消えたら全て消える……

 私がみんなの心に火をつけるから……

 みんなの心は私が凍らせないから……

 お願い――」


 強子ちゃんが大きく頷くのを見たアリュメットは、残りのマッチに火をつけると静かに祈りました。


 「心にマッチの灯火を……」


 アリュメットがつけたマッチの灯火は燃え上がると、空を照らす太陽のように輝きます。

 その炎が大きく膨らみ、はじけると、彗星のように流れながらみんなの胸に吸い込まれました。


 「……アリュメット様に感謝を。強子様、どうぞ私の力を……」


 雪の女王こと、レジーナの優しく暖かい白い力が強子ちゃんの胸に吸い込まれます。


 「あらあら、若い子には負けられないわね」

 「ふん、どうせ無理に決まってるが、やるだけやってみな!」

 「ひぃーひっひっ、耳が真っ赤だよ。メレンダ」

 「この一大事に……女は強いのぉ」


 魔女や魔法使い達から送られた、様々な色の力が強子ちゃんの胸に吸い込まれました。


 そして……鬼やオオカミに子ブタや子ヤギ、桃、金、浦島の三太郎にかぐや姫や白雪姫、王子様やお殿様、優しい青年から意地悪な爺さま、アリュメットのお父さんにお母さんやお婆ちゃんの幽霊などなど……

 この世界のありとあらゆる住人から、強子ちゃんへと力が送られてきました。


 『……僕だけが力を渡さないのは、この世界の神様として顔が立たないね。僕の名前はメーアヒェン。この名と力、君に預けるよ。それで君のしたいことをしてみれば良い』


 神様はアリュメットの体を抱くと、天に向かう強子ちゃんの所まで飛んでいきました。


 「強子、私の力も受け取って……」


 アリュメットが強子の魂に手を伸ばします。


『う……ん。受け取ったよ。とっても暖かくて強い力だね。私、絶対にみんなを幸せにしてみせるから!』


 「うん……知ってる。ありがとう」


 アリュメットが言葉をかけると同時に、強子ちゃんの魂がこの世界から消えたのでした。


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