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弟と人形

  片腕ずつ回した後、首を回しながら、手首を回し、指を握ったり開いたりしながら俺そっくりな人形に近づく。

  向こうは何もせず、仁王立ちのまま俺を見ている。

  5メートルくらい前で止まり、片足を半歩前に出し半身になり、両手を顔の位置まで上げ、構える。そうすると人形も全く同じ様に構えた。

  自分で言うのもあれだけど、構えに隙がないな。

  ・・・ふぅー。こっちから仕掛けて向こうがどう反応するのか見るか。

  ステップで一気に距離を詰め、今の俺の全力でジャブを放つ。


  避けにくい攻撃の中にジャブというものがある。

  相手との距離が一番近く、高速で放たれるジャブをプロボクサーでも全て避けることは不可能だ。

  ジャブは威力より速度を重視し、倒すというよりこの後の攻撃の為の布石に用いたり、相手との距離を測る為に用いられる事が多い。もちろん決してダメージを与えることが出来ないという訳ではない。

  打ち方一つで速度重視のジャブだったり威力と速度を合わせもったジャブにすることも可能だ。

  俺はそんなジャブの中で、速度重視のジャブを放ったのだが、人形も同じようにジャブを放ち高速で動く俺の拳に当ててきた。

  ズキリと拳に痛みが走るが、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。


  「チッ」

 

  ジャブを放った後、間髪入れずに、20発ほどのジャブの連打を顔、腹、肩、腕を狙って放つも全て同じように、拳に当ててきたので一度バックステップで距離を取る。


  "ジャブを全て避けることは不可能だ"とは言ったが、"全て"じゃなければ避けることは可能だ。

  もちろん前提となる条件がある。

  一つ目は何が来るか分かっていること。

  フックや蹴りだったりした場合避け方が変わるのだから当然だろう。

  二つ目は何処に来るか分かっていること。

  ジャブに限って言えば、手が届く範囲となる。

  体の何処に当たるか分かっていなければ避けれない。だがこれが難しい。

  弱いと分かっている顔を必ず防御する。これはほとんどの武術、格闘技で、共通している。初めて習うのは防御もしっかり行える構えのやり方だろう。それから攻撃や防御を教えていく。

  防御しているところをわざと狙い、防御に意識を向かわせておいて防御の甘くなった別の場所を狙ったりする者もいるし、初めから多少防御の甘いところを狙う者もいるだろう。

  こんな風に攻撃する選択肢が多い中、正確に何処に攻撃がくるかは、相手の動きと経験則で予測するしかない。

  ・・・たまに野性の勘とやらでどこを攻撃されるのが分かる者も居るが、極々少数だ。

  三つ目は動けること。

  例えジャブが顔に来ると分かっていたとして、避けたり出来なければ意味はない。


  相手の思考を読み、動きを見て、経験則で動き、初めて高い次元で攻撃を予測することは出来る。・・・が、あくまで予測だ、外れてモロに食らってしまう場合もあるし、逆に向こうに読まれてしまう場合もある。

  何度も戦い漸く思考を読める様になるものだ。


  だが・・・。こいつはどうだ?初見で、しかもタイミングも狙う位置も変えた速度重視のジャブを見切り、全て当ててくるなんて・・・。


  ・・・こいつは姿形だけ真似する人形と思っていたけど、そうじゃない様だ。俺の後から手を出してきたのに当ててくる攻撃の速度。金属を殴っているかと思ってしまうほどの硬い拳。なによりあの余力たっぷりの打ち方・・・ステータスは確実に向こうが上で、攻撃を読む力も、技量もそれなりにあるとみた。・・・いや、姿形と一緒に思考なんかも真似されてるんじゃないか?


  この世界には魔法っていう俺からしたらチートがあるんだ。あの人形の姿形を完璧に俺に似せることが出来る魔法があるなら、記憶や思考を読み取り、写すことも出来る魔法もあるんじゃないか?そう考えると、ジャブで先制攻撃をするのも、ジャブを連打するのも理解出来き対応してくるのも納得がいく。


  ・・・うん。あれだな、ステータスを強化された俺と戦ってると思えばいいな。


  ステータスは俺以上、思考は俺と同じ。そんなのを倒すなら相手の一手・・・いや只でさえステータスで負けてるんだ、三手は先読みし行動しなければ、歯が立たないだろう。


  全く・・・燃えさせてくれるぜ。・・・じゃあ、まあ、俺が更に強くなる為の糧になってもらいますか。


  再度ステップで距離を詰め、右のストレート放つも人形も同じように右のストレートを当ててくる。

  ガンッという鈍い音と共に鈍痛が走るが我慢して、拳を開き、人形の袖を掴みそのままねじりながら地面に叩きつける様に投げる。

  投げられた人形は手をつきそのまま俺の顔面を狙って蹴り上げてくる。

  顔を反らしギリギリで避けたが、頬をかすった。かすっただけだが、削り取られたかの様な痛みが走る。


  「くっ!」


  かすっただけでこの痛みかよ・・・。マジで肉体が凶器じゃねぇか。

  人形はそのまま手を使って跳ね起きた。

  人形が着地した瞬間を狙って、膝に下段蹴りを当てる。

  着地した瞬間の力を逃がせない状態で蹴られた人形のバランスが少しだけ崩れるのを見ながら、足を入れ替えて反対の足で顔を蹴ろうとするが、腕で防御され、反対の腕で足を掴まれ、そのまま振り上げられた。

  振り上げて地面に叩きつけようとする人形の顔を反対の足で蹴り飛ばす。

  顔を蹴られよろける人形の足を掴んでいる手首に踵を落として、漸く腕から解放される。

 

  ・・・攻撃する度に痛い。あの人形ちょっと硬すぎだわ。

  まあ、泣き言はこれくらいにして、今のやり取りで分かった。

  こいつはある程度の思考と記憶を持っている。・・・がそれだけだ。

  全ての思考や記憶を写した訳じゃなく、ある程度の戦闘に関する記憶と思考のみで、おおよそ俺がしそうな動きには対処出来るけど、アニメとかゲームを見て、この世界得た高いステータスだから出来るトリッキーな動きには対処出来ていない。

  まあ、あくまで俺の推測だけど、そんなに間違っていないと思う。

  スキルは分からないが、ステータスなんかは俺のコピーではなくこいつ自身のものだろう。じゃないと1万の時のステータスだったら、流石にどう頑張っても俺の攻撃なんか当たらないだろうし、余程手加減が上手くなければ、今頃ひき肉になっているだろう。

  逆に今の俺のステータスだったらあんなに硬くない。多分だけど、転移してきて直ぐぐらいのステータスじゃないかと思う。あくまで予想だけど。

  仮にあの人形のステータスが600として、現在俺のステータスは100程度。単純に6倍違う。更に先ほど打ち合ったときに、右の拳にヒビが入っている。

  こうも悪条件が揃うと、なにがなんでも勝ちたくなるが、裏技的な"リミッター解除"は無しで、練気だけでやろう。

  一瞬目を瞑り集中し、気を溜め、直ぐに解放してそれを纏う。

  短時間で練気を纏うのは一瞬目を瞑らないといけないし、敵の前で目を瞑るなんて・・・と思うが、短時間でしばらく気を纏えるまでコツコツと頑張った自分を褒めてあげたい。

  紅のオーラを纏いながら人形に話かける。


  「じゃあ行くぞ」


  そこからは一方的だった。

  人形の攻撃を避けながらカウンターでダメージを与え続けた。

  5分ほど叩き続け漸く人形は倒れ動かなくなった。


  「ふぅー」


  大きく息を吐きながら、倒れているのは人形だって分かってはいるけど、自分にそっくりだから俺が倒れてるみたいでなんか嫌だな。

  そんな事を考えながら地面に座り込んだ。

  ぴょんぴょんと跳ねながらやってくるメイに癒されながら少し休憩しよう。



 

 

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