ギルドとお約束
「知らない天井だ」
言ってみたかったセリフを言って満足し、ゆっくり起き上がる。
まだ、明るくなってない外の風景を見て、異世界での2日目を実感する。
目は醒めてしまったし、朝食でも作るか。
部屋を出てキッチンへ向かう。薄暗い中、近くの明かりを点ける。
蛍光灯ほど明るくはないが、まあこのくらいなら充分かな、食材を漁る。
昨日はろくな準備も出来なかったから。・・・充分な準備が有ってもたかが知れているけど、そこは気分で。
とりあえずパンを主食に、肉と、サラダかな?
野菜を軽く洗い、切り分け、適当な皿を棚から出し、人数分のサラダを作る。ドレッシングあるかね?レナさんに聞くか。
パンはフランスパンの様な固さのパンを大きめの皿に盛りつける。
ワイルドボアをアイテムボックスから取り出し、一口大の大きさに切り分けて、アイテムボックスに戻す。このくらいあれば大丈夫か・・・?
昨日の食欲を見ると多少不安になったので、食材が入った箱から鳥肉を取り出し、これも一口大に切り分ける。
後は焼くだけか。まだ時間も早いようだし・・・朝練でもするか。ステータスが上がった体に慣れとかないとな。ステータス上げまくって、"異世界最強の弟"なんて目指すのもいいよね。
庭に出て、軽く柔軟を行い、左足を半歩前にずらして、正拳突きの練習を始める。前の世界で何万回もやったが、ステータスというチートが付くと、体が今まで以上に良く動く。
右、左と、一撃一撃が必殺になりそうなほどの突きを繰り出す。重心や力の入れ具合に注意しながら、ひたすら拳を放っていく。
次に足の位置を逆にし、同じように正拳突きを放つ。
気付けば、日が登り始めている。軽く体を拭いた後、キッチンへ向かい下準備していた、肉を焼き始める。
肉の焼ける音と匂いに連れられて、3人がやってきた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「・・・おはよう」
「おはようジン君」
1人尋常じゃなくテンション低いけど、低血圧かね?
「すみません勝手に食材を使わせてもらって朝食作りました」
「いや構わないよ」
じゃあお許しが出たところでそのまま焼き上げる。
きつね色に焼けた肉を皿に盛りつけ、昨日と同じように運んでもらい、テーブルに付く。
「「「いただきます」」」
「・・・いただきます」
恒例になった挨拶をして、食事を始める。
これでもかと言うくらい低いテンションのレナさんだったが徐々に回復してきている。といかもう3口目くらいから昨日のように食べていた。
足らないかもしれないな・・・。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
朝食を食べ終わる。自分で言うのもあれだけど中々のものでした。
ただ、追加の為に一度キッチンで作業したことを追記させてもらう。
食器やらを片付け、レザードさんとレナさんにお礼を言う。
「お世話になりました、これから私達はギルドに行ってきます」
「いやいや、また何時でも来てくれて構わないからね、出来ればまたハンバーグを食べさせてくれ」
「ええ、また何時でもいらっしゃい。今度違う料理も食べてみたいわ、後これ良かったら持っていって」
そう言って、調味料と食材をいくつかくれた。アイテムボックスに収納した。
「ありがとうございます、それまでに色々食材と調味料集めておきますね」
一礼して、リン姉に付いてギルドへ歩き出す。
「ジン君あの人達いい人達だったね」
「だね、あの人達がトップのこの村はきっといいところだろうね。ところでリン姉?」
「何?ジン君」
「さっきレザードさん達に言ってたけど、ギルドあんの?」
「あるよ、ジン君が料理作ってくれてるときにレザードさんに聞いたよ、ちなみにラノベとかに良くある冒険者ギルドじゃなくて、討伐者ギルドなんだって」
「へー、討伐者ギルドね」
情報収集を怠らないリン姉素敵です。
冒険者じゃなくて、討伐者ね・・・魔物だけじゃないんだろうなぁきっと。まあかかって来るものに容赦しないし。ありがたく俺の糧にさせてもらって強くなり、お金も貰えて一石二鳥って考えればいいか。
元の世界でも死ぬ気でやった努力は裏切らなかったし、この世界ではもっと、その傾向が強くなるだろうからな。
"異世界最強の弟"もあながち違わないようになるかもな。
「魔物の素材の買い取りもやってるらしいから、私とジン君なら、余裕だね」
「そうだね、早く金貯めて、マイホームでも買ってデカい風呂でも付けよう」
「お風呂いいね。お湯なら簡単に作れるし頑張ろうね」
「おう」
さて、当面の目標も決まったところで、目的のギルドが見えてきた。
他の建物に比べて、5倍ほど大きく、3階建ての煉瓦の建物に、竜の頭に2本の剣が交差するように書かれた旗が掲げられていた。
「さあ入ろうか」
「うん」
少し緊張しながら、ギルドに入っていく。
なんで緊張してるかって?そりゃギルドって言ったらお約束があるでしょ?
「おいお前ら!」
キター!
モヒカンヘヤーで、世紀末にヒャッハーしそうな服装の筋肉隆々の男が近付いてくる。
あれですよね?お約束のギルド入りたいって言ったら、絡まれてボコボコにして身ぐるみ剥げるあの素敵イベントですよね?分かります。こっちはいつでも準備オッケーです。
「はいなんですか?」
「見ねぇ顔だがなにしに来た!」
「討伐者になる為に、ギルドに登録するところです」
「登録だぁ?手前の受付でやってるからな、奥は依頼を受けるとこだから間違うんじゃねぇぞ!」
そう言って奥の酒場に入っていく、ヒャッハーさん(仮)。
・・・あれ?
お約束は?
てめえらみてぇな奴が出来るわけないだろ、ギャハハハ。みたいな展開になって、いい女連れてるじゃねぇか、てめえには勿体無いとか言って、リン姉を無理矢理連れて行こうとするヒャッハーさん(仮)をしばき倒す予定は?
威圧的な話し方と服装はアレだけど、普通に受付場所教えてくれたいい人じゃねぇか!
何?ちょっとラノベとかの読みすぎなのか?
常識で考えたら出会ってすぐの人カツアゲする方がおかしいか・・・。
見た目でヒャッハーさん(仮)を判断したやつ謝れよ。
すみませんでしたー!!
普通なら絡まれないことの方がいいのになんだこのやるせない感じ。お約束を体験出来ると思ってたのに。
・・・はぁとりあえず言われた受付に行くか。
受付に居た綺麗な女性が、軽く会釈してくる。
「ギルド入会ですよね」
・・・まあね、あれだけ声デカかったら分かるよね。
「はい、私と弟で登録したいのですが」
「分かりました、ではこちらの用紙に記入をしていただきたいのですが代筆は必要でしょうか?」
識字率が低いのかね?てかちょっと待って、俺達こっちの文字分かるの?分かんないでしょ!異世界言語とかそんなスキルなかったぞ。これから文字覚えるの嫌だな・・・。どうしよう・・・。
「いえ代筆は結構です」
ちょっとリン姉!?リン姉も異世界言語のスキルなかったよね?大丈夫なの?
リン姉の横顔を見ながら用紙を受け取り恐る恐る確認する。
あれ?普通に読めるぞ?文字は見たことない文字の筈なのに、普通に読めてる。良かった~。これから一つ文字覚えるの絶対に無理。無理だから。英語どころか日本語すら怪しいのに。
安堵しながら用紙を記入する。名前に年齢ここまでは流石の俺でも分かる、得意なこと?料理とか?
「すみませんこの得意なことってなんですか?」
「戦闘で得意なことですよ」
「剣とか魔法とかですか?」
「そうです」
「分かりました、ありがとうございます」
「いえ、では書き終わりましたら教えてください」
得意ことか・・・よし。剣って書くか。
武術って書いて、詮索されるのも嫌だし、それにこれは切り札だし止めておこう。剣はこれから得意になるから。・・・本当ですよ。
・・・得意なことに魔法って書きたかったな。これから先使える気がしないけど。
まあこんなもんかね。リン姉のもチラッと見たけど、そんなに違わないから大丈夫だろう。
受付に出して、声をかける。
「出来ました」
「では確認させていただきます」
用紙を確認していく、受付のお姉さん。やっぱり受付に綺麗なお姉さんが居るのは、異世界でも変わんないのね。
「はい、では次にこちらの魔道具に血を一滴垂らしてください」
そう言って、受付の横にある箱を指して言った。
「はい」
小さな針を使って、穴に一滴垂らす。続いてリン姉も、血を垂らした。
「では、出来上がるまで、ギルドについて簡単ではありますが、説明させていただきます」
お読みいただきありがとうございます。