村と長
森を抜けた先で広がっているのは、辺り一面の草原とその中にポツンとある村だった。
少し距離があるが、森の中を歩くより楽だし、10分もあれば着くだろう。
「りん姉、村だやったな」
「うん、やっと一息つけるね」
10分もしないうちに柵で覆われた、村の門の前に着いた。近くにつれ、村は大きく感じる。村って思っていたが、町かもしれない。
門の近くまで行くと、革鎧を着て槍を持った門番は、近付いてきた。
「あんたらどっから来たんだ?」
「俺らは、あそこに見える森から来たんだ」
「はあ?森から来ただと?」
門番は驚いた感じで聞いてくる。
「いつの間にか森に居てな、そこから森を抜けて近くに村を見つけたから」
「魔の森から良く無事だったな、魔物に襲われなかったか?」
「魔の森?あぁ、一体だけ、ワイルドボアっていうのに襲われたが倒した」
「なんだと?ワイルドボアを武器も持たずに良く倒せたな・・・、お前達はもしかして迷い人なのか?」
「・・・迷い人ってなんですか?」
りん姉が質問する。
「あぁ、俺も聞いただけだから詳しいことは知らんが、お前達の様にいきなり現れて、俺達では太刀打ち出来ない様な強い魔物を倒したり。理解できない様な異世界の知識とやらを持っていたりする人を迷い人って言うらしい・・・。見たことはなかったが、話を聞くとお前達がそうじゃないかと思ってな・・・まあ、本人が迷い人かどうかなんて分からんか、ガハハハハハ!」
そう言い豪快に笑う門番。多分こちらが素なのだろう。まあ嫌いではないな。いきなり笑いだす門番の反応に多少困っていると、近くの小屋から革鎧を着て、腰に帯剣した門番が近寄ってきた。
「うるせーぞ、なにやってんだ」
「おう、悪い。こいつらどうも迷い人らしくてな、何も持っていないようだし、村長に一度会わせようと思ってたところよ」
近くまできた革鎧の門番は、俺達を一度見て。
「そうか、代わるからそいつらを村長に会わせてきな、サボるんじゃねぇぞ?帰ってくるのが遅かったら一杯奢ってもらうからな」
「分かってるよ。じゃあお前達いくぞ、って名前聞いてなかったな、俺はガイル、こっちの野蛮なのがオーカーだ」
「誰が野蛮だ誰が!」
「はじめましてガイルさん、オーカーさん。私はリンと言います、こちらが弟のジンです。よろしくお願いします」
「ジンです。よろしくお願いします」
「オーカーだ、よろしくな。ほらガイルさっさと連れていってやんな」
「おう、じゃあリンとジン付いてきな」
「「はい」」
ガイルに付いて歩いていく。
村という割には家が建ち、やはり村ではなく町みたいな印象を受ける。
町のメインストリート?には露天が20店舗ほど建ち、威勢のいい声が聞こえ、いい匂いが漂ってくる。その通りを抜け、他の家より一回り大きな家の前で止まる。
「村長!守衛のガイルです。迷い人らしき者を連れて来たんですが!」
ガイルはでかい声で扉に向かって言う。
すぐに扉が開き、20歳くらいの綺麗な女性が出て来た。
「ガイルあなた、相変わらず声が大きいわ。そんなに大きくなくても聞こえているわ。そっちの二人が迷い人だって?とにかく入って」
扉を開けたまま奥に下がっていく女性を見てガイルは言った。
「じゃあ後は村長に聞きな。なにかありゃ何時でも言いな。大抵門か、酒場に居るからな」
「「ありがとうございました」」
ガイルは後ろ手で手を振りながら門に向かって歩いて言った。
「じゃあリン姉入ろう」
「うん」
扉を入り、廊下を進み突き当たりの開いている部屋に入る。
「「失礼します」」
部屋には先ほどの女性と、男性がソファーに、座っていた。
「いらっしゃい、とりあえず掛けて」
30歳ほどの男性がソファーに座るように促す。
俺とリン姉は座り自己紹介をする。
「はじめまして、リンと申します。こちらが弟のジンです」
「はじめまして、ジンと申します」
正しい敬語は分からないので、リン姉と同じ事を言い頭を下げる。
・・・もうちょい国語の勉強しとけば良かった。
「私の名前はレザード・エルザード、辺境伯をやっている者だ。それでこの子が」
「村長のレナ・エルザードと申します。こちらに居るレザードの娘になります」
辺境伯って・・・貴族じゃね?確か結構偉い感じの。てか娘さんが村長って・・・え?なに?実質ここのトップ二人が揃ってるの?
「まあ、辺境伯と言っても大したことはないから楽にして欲しい。それより、君達は、迷い人なんだって?」
「そうですね、先ほどガイルさんに言われた事を考えると多分そうだと思います」
「そうか・・・これから君達はどうするのかね?」
「私は・・・ジン君の隣が私の居場所なので・・・ジン君が元の世界に帰りたいなら帰れる方法を探そうと思いますが・・・」
そう言い頬を染めるリン姉。あれ?なんか告白ぽくない?
いやいや騙されませんよ。そんな顔で頬を染められたら勘違いしてしまいそうになるが、きっと俺の事を心配しているだけで他意はないなきっと。
「俺も、リン姉と居れればそれだけで十分です・・・身寄りもありませんしこちらの世界で、姉と生きて生きたいと思います。ただ生きてく為に力は付けたいと思います。よろしければ、この村に滞在してもよろしいでしょうか?」
レザードさんの後にリン姉を見ると顔を更に赤くしていた。風邪か?後で確認しよう。
「あぁ、君たちを歓迎しよう、好きなだけこの村に居てくれて構わない、今日は疲れただろう、ここに泊まっていきなさい」
「「ありがとうございます」」
「じゃあ今日はもう食事にしましょう、腕に寄りをかけるわ」
「料理なら手伝いますよ」
「いえ、いいのよわた・・・」
「ジン君は料理が出来るのかい?」
レナさんが喋ってる途中にレザードさんに聞かれる。
「大した物は出来ませんが」
「ジン君の料理はとっても美味しいんですよ」
何故かリン姉が嬉々として答える。
「ジン君達もタダで泊まるのも心苦しいだろうし、折角だしお願いしよう。いいだろレナ」
「まあ、そうゆうことなら・・・キッチンに案内するわ」
「はい、お願いします」
俺はレナさんに付いてく。
キッチンには所狭しと並んだ調味料の棚や食材が入った箱が有って、料理好きな人って感じする。
これは不味いもの食べさせられないな。今ある食材でなんとか出来ればいいんだけど。
とりあえず、調味料と食材を見るか。
見た事ない調味料が多々あるが、とりあえず良く使う塩や胡椒は見つけられた。
胡椒は昔高級品だったって話を聞いたのを思い出し、その事を言ったらレナさんは笑った。美人さんの笑顔はやはりいいな。
塩や胡椒は好きに使っていいそうだ。
次は食材だが、これは見た事あるものばかりだ、キャベツやニンジン、玉ねぎなど馴染みの深い食材が揃っている。
あまり俺達のいた世界と違いはないのかもしれないな・・・。
牛や豚、鳥と肉も揃っているな。
とりあえず、牛肉を貰い、持っているワイルドボアと合い挽き肉にし、ハンバーグを作ることにする。
お読みいただきありがとうございます。
※この物語の調理手順は作者の妄想で、正しいとは限りません。真似をしないようにしていただき、軽く読み飛ばしていただきますようお願い申し上げます。