復興と銅像
目が覚める。
まだ視界はぼんやりして、眠気はあるがこれ以上は眠れないな。
何時間でも寝れるって言う人が羨ましい。
俺が起きる頃には皆目が覚めていた。
「ふぁふ。おはよう」
欠伸を噛み殺し挨拶をする。
・・・文章にするとめちゃくちゃ物騒だな。
「おはようジン君」
朝からいい笑顔の姉を見ながら他の人のことを聞く。
「ユッコとノランちゃんは朝稽古してるよ、レザードさん達はジン君が起きるまで仕事してるって、食材追加しておいたから、起きたら朝食を作って欲しいって言ってた。後、ハンバーグがいいってさ」
どんだけハンバーグにはまってんの?
「分かった、キッチンに居るから、ユッコ達呼んでもらえる?」
「うん。分かったよ」
そう言い、部屋を出ていくリン姉を見送って、一度大きく伸びをしてキッチンに向かった。
2時間後どうにか満足させて、食材と昨夜調理したものを大量にもらった。
二人にはくれぐれも毎日食べ過ぎないよう念を入れて家を出た。
また作りに来て欲しいと言われたので、それまでに喜びそうなメニューを考えておこう。
リン姉は俺の装備を完成させたいらしく、宿に戻るらしい。どんな装備になるか楽しみだ。
ユッコとノランはクロとマリーちゃんとカーナちゃんと近くの森で狩りをするらしい。
気をつけるように言い、皆と別れた。
一人になったし、どうするかな?
クレント村にでも行って、悪戯がどうなったか確認してみるか。
クレント村まで馬車で半日くらいかかったよな?
馬車ってそんなに早くないし、今の俺のステータスなら馬車以上の速度で走れるだろう。・・・トレーニングにもなるし走って行くことにした。
俺も一度宿に戻り、リン姉にクレント村に行くことを伝えた。
ユッコ達はもう出かけたらしいので、クレント側の門を出て、街道を車より遅いが馬車より早い速度で走り始める。
自分で言うと切なくなるが、俺人間辞めてるな。
流れゆく景色を見ながら疲れず、同じ速度で走り続ける。
途中街道を分断しているクレーターを迂回して、反対側の街道に出て、街道をひた走る。
2時間近く休みなしで走り、クレント村に到着した。
疲れは30分くらいジョギングしたくらいの軽度なものしかなかった。
一人の時はもう馬車は要らないんじゃないかな?
クレント村の門が外され新しい門を取り付けているようだった。
作業を見ていた2人の門番にギルドカードを見せると、1人は一礼して、村の奥に走って行った。
「ジン様、村を救っていただきありがとうございました」
忘れた!これがあったんだった。
「いやまあ、成り行きでしたし気にしないでください。後、様付けは止めてください。俺はそんな大層なもんじゃないですよ」
「いえいえそんな畏れ多い」
ダメか。まあ門を通る時くらいならいいか。
「とりあえず、入っても?」
「どうぞどうぞ。ようこそクレント村へ」
気付いたら、そんなやり取りを作業してた人達が見ていた。
気恥ずかしくて、さっさと村の中に入った。
入ってすぐに献花台みたいなものが設置されてて、花が置かれていた。花は持っていなかったが、台の前で手を合わせた。
とりあえず、アイナとエレナの家に向かう。
若干不安な記憶を頼りに、村の中を歩くと誰よりも一番良く知ってる者の銅像が、村の中に建っていた。
・・・詳しく?いや、俺恥ずかしいんだけど・・・。
きっとあの茶目っ気たっぷりの村長だろう。帰るとき撤去して帰ろう。最悪、今のステータスで無理そうならリミッター解除も辞さない。
てかこんなの作ってる場合じゃないだろ。復興終わったのか?
一人突っ込みながら、なんとかアイナ達の家に着いた。
俺の記憶力も捨てたものじゃないな!
扉を叩こうと手を出すのと同時に扉が開き、アイナが出てきて、抱き付かれた。
とても柔らかく素敵なものが俺の体に当たる。
挨拶でハグって欧米か?欧米スタイルなのか?違ったここ異世界だった。異世界スタイルなのか?
・・・俺はとてもいいと思います。是非とも俺の周りで流行らしてもいいんですよ?
「ジンさん」
抱き付いてきたアイナ。仄かに甘い香りがした。
少しの間ハグをしてから、離れた。離れたというかハグを止めて密着してないだけで、顔が20センチ位にある。
近い、近いよ。これはあれか?またチューする流れなのか?していいのか?・・・分からん!俺は夢くらいしか俺からしたことないんだ!目を瞑るだっけ?肩を抱くんだっけ?誰か、誰か教えてください!
どうするか考えていたら奥から声がした。
「アイナ扉を開けっ放しで何を!?ジンさんじゃないですか」
親父さんがアイナに声をかけてきて、俺に気付いたらしい。
「こ、こんにちは」
助かったのか、残念なのか、分からない。早くこっちのレベルを上げたい。
「よく、いらっしゃいました。ささ、どうぞ中へ、アイナすまないが村長のところにひとっ走り行ってきてくれるか?」
「はーい、ジンさん続きはまた後でね」
・・・ゴクリ。続きってさっきの続きのことだよね?
返事をしたアイナは村の中央に向かって走り始めた。後ろ姿もとても綺麗だった。
家の中へ案内されて、リビングのような場所で、親父さんと話していたら、アイナとエレナと村長がやってきた。
「ジンさん、ようこそいらっしゃいました」
「ジンさんいらっしゃい」
「こんにちは、お邪魔してますよ」
村長とエレナに言う。ついでだあの事を聞いてみるか。
「そういえば、差し上げたゴブリンの素材はどうなりました?」
「ありがたく、村の復興にも使わせていただきました」
「それは良かった。・・・"復興にも"?"復興にも"ってまさか!」
「流石ジンさんと言いたいところですが、あの銅像は、私の個人的なお金なので安心してください」
なるほどそれなら安心・・・出来るか!
「いやいや、なんてもの作ってんの!あの銅像、剣を空に向かって突き上げている格好ってゴブリン倒した時の格好だよね?」
「ええそうですよ」
「周りに誰も居なかったはずだけど、なんで知ってんの?」
ヤバい、ヤバいヤバい!
なんで?なんで知ってんの?皆離れてて、周りに誰も居なかったはずなのに。だからあんな恥ずかしいセリフ言ったのに・・・。いや、まて。見てただけで聞かれてない筈だ。
「それは近くで、隠れて見ていたからですよ」
「いや~俺も居ましたが、ジンさんのあの言葉に救われた気がしましたよ」
終わった。
穴を掘って潜ろう。
「そうですか、ハハハ・・・」
もう乾いた笑いしか出なかった。
一度銅像を見に行くことになり、アイナとエレナに両腕を組まれて、広場に連れていかれた。
両腕に柔らかいものが当たっていて幸せだった。銅像なんかいいからそのまま散歩してきてもいいですか?
広場に着くと、村人が集まっていた。
俺達に気付いた一人がやってきて、お決まりのセリフを言うが、今の俺はそれどころではないので華麗にスルー、というかあんまり頭に入ってこない。何故なら腕から伝わる感触に全神経を注いでいるから。
「これは一体なんの騒ぎだ?」
村長はこちらに来た村人に聞く。
「そ、それが。ジン様の銅像を足蹴にしている者がいて、注意していたとこなんですよ」
「なんだと?」
横に居る村長の雰囲気が変わった。
「そいつはこの村の者ではないのだろう?」
「一人だけ、この村の出身で、二年前に冒険者学校に通っていた者と、その仲間になります」
冒険者学校とかあるんだ。討伐者しか居ないと思ってた。
後でリンぺディア先生に聞いたら、討伐者は主に討伐で、冒険者は世界中周り希少なアイテムや歴史的価値のあるものを探すのが主らしい。もちろん討伐者も冒険者も戦闘もすれば宝探しもするから、どちらに重きを置くか、らしい。
仲間と来たってことは、その冒険者学校って二年くらいで卒業なのかね?
徐々にこちらに気付き、銅像への人垣が割れていくと、二割増し美形になった俺の銅像・・・って、そこ元が低いから二割程度変わらないとか言うな。
俺の銅像を蹴ったりしてる者や、村人と掴み合いになってる者、興味無さげにその様子を見ている者、何もせず興味無さげに見てる者の横に居る者の四名が居た。
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