英雄の卵とスタンピード5
遅くなって申し訳ありません。
ダリウス視点はこれで一旦終わりです。
次回からしばらくお休みしてたジン視点に戻ります。
「分かりました。では、ダリウス君はリンさんから教わった技を全力で使ってください。リンさんの話だとそれで終わるとの事なので、私達が動きを止めます」
「え?それだけですか?」
「そうですよ。但し"全力で"ですよ?難しいからと言って少しでも力を抑えれば効かないそうです」
「分かりました………なら時間稼ぎをお願いします」
アイナさんにそう言って刀を鞘に戻し、柄と鞘に手を添えて刀と鞘の両方に少しずつ魔力を込めていく。一気に魔力を込めないのは、まだ力の制御が出来ておらず、その状態で一気に魔力を込めてしまったら、勝手に鞘から刀身が飛び出していってしまう。それではロクに力が込もっておらず、勝手に飛び出すだけなので、威力は低く、まともな攻撃にならない。
それにオレが今からやろうとする技はタイミングが肝になっていて、刀身が鞘から飛び出そうとする力と鞘が刀身を飛ばそうとする力を使い自分の限界を超えて振り抜き敵を両断する技で自分でタイミングが合わせられなければ唯の抜刀術になってしまう。
…………まあこの刀自体物凄い切れ味だし、魔力を込めなくても目に見えないほどの高速での抜刀を行える人がいるし、まるで野菜を切る様な感じで鉄の剣をスパスパ切る人もいるし、何れはその高みに登りたいが、それはまだまだ先になりそうだが。
今のオレが唯の抜刀術でそんな事は出来ないし、ましてや鉄の剣より硬いと噂のドラゴンに敵うとは思えない。だけど全力で魔力を込めれれば、若しくは。
そんな事を考えながら魔力を込めている間にアイナさん達はそれぞれ武器を構えて周りの敵に攻撃を始めていた。
アイナさんはレイピアの様な細い刀で向かってくるオークの頭を一突きで仕留め、倒れかかってくるのを軽く避けていた。そのオークの反対側に居た三匹のウルフはアイナさんに隙が出来たと思った瞬間に飛び掛かろうとした。その瞬間、アイナさんの横から両手に短刀を持ったエレナさんが飛び出し、アイナさんを攻撃しようとした三匹のウルフを舞う様に回転しながら切り刻んで仕留めた。そして回転して隙が出来たエレナさんを守る様にアイナさんが前に出ていた。
………なるほどお互いカバーしつつ戦っているのか。意思の疎通が出来ていて、正直参考になる。オレ達のパーティーでも試してみよう。それにしてもアイナさんの刀は貫通力が恐ろしく高い。あんなに細いからオークの頭を突けば簡単に折れてしまいそうなものだが。それにエレナさんの短刀の切れ味も尋常では無さそうだ。
アイナさんとエレナさんの姉妹を見ていたら地響きが聞こえ、そちらを見ると、ドワーフのリリィさんが頭部が五十センチほどで柄が一メートルほどある、背丈以上にデカいウォーハンマーでゴブリンごと地面を叩いていた。ハンマーと地面の間はちょっと………いや大分グロい事になっているだろう。陥没していて分からないが。その後も振り回したり、叩き潰したりして一振りで魔物を屠っていった。
ドワーフのリリィさんにハンマーが似合っていた。鍛治が得意なドワーフだからだろうか。……似合っていたが、頭部の側面に書いてある100tとはなんの事だろう。
そのリリィさんから少し離れた所に執事服姿のマリアさんとその後ろでロザリーさんとディレスティナさんが居た。マリアさんは槍を器用に使い、突き刺したり、斬ったり、たまに槍を巧みに操りゴブリンの武器を絡め取ったりしていた。槍はああいう感じで使用したら良かったのか。以前ゴブリンの槍を奪って戦った事があるし、もしかしたら今後使わないとも限らないので覚えておこう。とりあえず、あの片手だけで高速で回転させるのは絶対に練習しよう。
リリィさんが地面を陥没させていると、死角から攻撃されそうになっていた。すると矢が飛んでいき、攻撃しようとした魔物の頭を貫き、その魔物は事切れた。矢が放たれた方向をみるとエルフのロザリーさんが大型の弓を構えていた。弓の腕が超一流と言われるエルフ。次々に放たれる矢は一発も外れる事がなく、まるで吸い込まれる様に魔物を貫いていった。
それにしても、あの矢はどこから出ているのだろう。矢を放った次の瞬間には矢が出ている様に見える。もしかしたらあの弓もオレの刀の様な魔導具かも知れない………いや、もしかしたら皆が持っているもの全てが魔導具の可能性がある。リンさんなら用意しそうだし。
ロザリーさんの横でディレスティナさんは銀色の杖を構えていた。その杖の先端は光り、少しずつ大きくなっていた。拳大の大きさだった光は一メートルほどになり、杖を持ち上げ、三メートルほどに膨らんだ瞬間、それは弾けた。弾けた光は弧を描き、無数の光の線が遠く離れた魔物に降り注ぐ、そして……光の線一つ一つが全て爆発し、一帯を飲み込んだ。
爆発し、土煙が収まった時、数千と居た魔物はほぼ居なくなり、そこは死屍累々となっていた。
ディレスティナさんを見ると、かなり驚いた様な顔で杖と死体の山を見比べていた。もしかしたら何時も以上の威力で驚いているのだろうか。ま、まあリンさんが用意したものだからあり得そうだけど、問題はミミーも同じもの持ってるから、いきなり制御出来ないくらいの威力だったら怖いな。……まあ、さっき使ってたけど、ディレスティナさんほど上がって無かったから安心か。
さて、アイナさん達がかなりの数の魔物を倒してしまった。
まだ魔物は残っているが、他のハンター達で問題ないだろう。そろそろ刀に魔力が溜まったし、オレもやるぞ。限界まで溜めたのは初めてだが、今ならいける気がする。いや、これを決めないといけない。こんな大事な時に失敗する様なら大切な人なんか守れないし、憧れる英雄になんか成れはしない。
光の爆発から逃れたドラゴンと目が合い、若干嗤った様に見えた。『お前なら余裕だ』そう言ってる様に。
刀を握る手が震える。ビビってる訳じゃない。これは武者震いと言うやつだ。英雄ゼンノだって強い魔物と戦う時は武者震いをしたと書いてあるし、しょうがない。
オレはドラゴンを睨み付けながらドラゴンに向かって歩いていく。途中視界の端からゴブリンやウルフが飛び掛かかってきたが、一刀で切り伏せられたり、矢が突き刺さったりして、オレとドラゴンとの道が出来る。
ドラゴンとの距離が十メートルほどに差し掛かる。この距離ならいける。オレはあらん限りの声を出し、駆ける。
「うぉおおおおおお!!!!くらえ!!!!『スパークスラッシュ』!!!!」
ドラゴンの足元で限界まで溜めた魔力を解放し、射出される柄を全力で握り、振り抜いた。
刀身からバチバチと音を立てながら強い紫色の電気を纏っていた刀身はこちらに攻撃をしようと伸ばしてきた腕を切り飛ばした。
やった!!オレの刀はドラゴンに通じる。と思ったのも束の間、ドラゴンは痛みに顔を歪ませながらこちらに向かって、口を開いた。
ヤバい!そう思った瞬間ドラゴンの口から真っ赤に燃えるブレスが放たれた。
振り抜いたこの体制では避ける事も受け止めることも出来ない。
こんなところで終わるのか………そう思って目を閉じるが、オレにブレスが当たる事は無かった。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ルーベンス!!」
「ダリウス!!こんなところで終わるのか!!人に言うだけ言って負けてんじゃねぇぇ!!テメエが死んだら誰があのじゃじゃ馬の面倒みるんだよ!!」
目の前にはタワーシールドを両手で構えてドラゴンのブレスを防いでいたルーベンスの背中があった。
「ルーベンス………お前、戦闘の時めちゃくちゃ口悪くなるな。後でじゃじゃ馬って言ってたことは伝えておく」
「それは勘弁してください!!ってかそろそろこの盾でもヤバい!!ダリウス!!今度こそ決めろ!!」
「言われなくても!!ミミーに報告しないといけないしな!!」
「だからそれはやめて!!」
「これで決めてやる!!『ディスチャージラッシュ』!!」
ルーベンスの後ろから飛び出して力の限り振り回す。
先ほどと同様に紫色の電気を纏った刀身はドラゴンの鱗をモノともしない。
オレはただひたすらに刀を振るった。型も何もない。ただがむしゃらに振る。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
何十何百と振り続け、もう腕が上がらなくなり辛うじて刀を掴んでいる状態になった時、大きな音を響かせ遂にドラゴンは倒れた。
目の光が無くなったドラゴンを見て漸く終わったと思いそのまま倒れそうになったのを両脇から支えられた。
「流石ダリウス!!」
「まあ、今回は良くやったな」
「サージ…なんで上から目線なんだよ」
「うるせぇ!!次ドラゴンが出たら俺様が倒してやるよ」
「いや、無理だろ」
「なんだとぉぉぉ!!」
ルーベンスと喧しいサージに支えられながら村の方をみるとそれぞれ武器を持ったアイナさん達やハンター達、そしてミミーが歓声を上げた。
「まだ若ぇのにあのドラゴンを倒すなんてやるな!!」
「ああ、どうだ俺達のファミリーに来ないか?待遇良くさせてもらうぜ」
「いや、俺達のとこの方がいいぜ!!」
「うるせぇ!!テメエのとこ貧乏ファミリーに誰が行くかよ!!」
「お前らの方が貧乏だろうが!!」
「あの馬鹿はほっといて、俺達が歯も立ちそうにないのに本当にやるな!」
「英雄みたいだったぜ」
「ああ、小さな英雄誕生だな」
なんか喧嘩が始まったが、もうオレが入りたいファミリーは決まってる。
英雄扱いか……嬉しいけどオレはまだまだだ。何れ本当に強くなって英雄になりたい。…まあとりあえず、帰って何とかドラゴンを倒したって事を報告して、ミミーにルーベンスがじゃじゃ馬って言ってた事を言わないとな。
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