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英雄の卵とスタンピード4

遅くなって申し訳ありません。

 

  ―――――ドラゴン。


  それは誰もが知る最強の種族の一角で、その爪は岩を裂き、その牙は鉄をも貫く。吐く息は大地を焦がし、その鱗は鉄のように硬く生半可な攻撃は通さない。中堅と呼ばれるCランク以下のハンターにとっては死の象徴と言っても過言ではない。

  ドラゴンと言えば色龍種(カラー)と呼ばれる個体で、亜竜種(レッサー)と呼ばれ龍種の最下位に位置付けられているレッサードラゴンとは文字通り格が違う。Bランク以上のハンターなら問題なく討伐出来る亜竜種と比べ、色龍種はAランクのフルパーティーの精鋭がどうにか討伐出来るレベルだ。

  正直この装備でも倒せるかは微妙なところだ。ましてや森から顔を覗かすドラゴンの額や体の節々から火が溢れ出ている。ギルドで読める魔物の資料にあったレッドドラゴンの特徴は体の色は合っておらず、額や体の節々から火が出ているとは書いてなかった。



  ――――――嫌な予感しかしない。


 

  こういった時の嫌な予感は外れた事がない。そして最悪な予感はほぼ確信に変わっていく。

  オレは横に居るミミーの顔を横目で見て口を開く。


  「ルーベンス!!サージ!!皆連れて下がれ!!」

  「…わ、分かった!!」

  「おい、ダリウスお前は?」

  「オレが時間を稼ぐ、その間にリンさんに連絡しろ!!急げ!!」


  レッサーならともかくドラゴン(アレ)はオレ達の手に余る。情けないがコイツら(ルーベンス達)が犠牲になるくらいなら、リンさんに助けを求める。

  だけど、せめて安全に下がれる様に死ぬ気でここを守る。そう思いながらドラゴンに向かって歩を進める。


  「ルーベンス離して!!ダリウス!!ダリウス!!待って!!私も!!嫌!!離して!!ダリウス!!ダリウス!!!」

  「ミミー!!サージ手伝ってくれ早く下がるぞ!!」


  後ろでミミーやルーベンスが話す声が聞こえ、ミミーの声に後ろ髪を引かれる。

  ルーベンスには嫌な役割を押し付けて申し訳なさがこみ上げてくるが、後で謝ろう。―――――オレが生きてたら。


  「来いよトカゲ野郎!!オレが相手だ!!」


  叫びながらドラゴンに向かって走る。すくんで震えそうな足に鞭を打ちドラゴンの近くまで行き、掌を向けて魔法を放つ。


  「『ライトニングジャベリン』」


  掌から放たれた雷撃は高速で飛んでいきドラゴンに直撃した。


  「ガアァァァ!!」


  雷撃が当たったドラゴンが痛みと共に叫びこちらを睨み付けてくる。いつもより威力が高かったが、これはこの刀のおかげか?……いや、何だっていい、とりあえず雷撃はドラゴンに効くのが分かった。なら後は魔法で牽制しつつ逃げ回れば、何れリンさんが来て全てが終わる。


  「ガアァァァァァァ!!!!」


  オレを敵と認識したドラゴンは巨体に似合わないほどの速度で近付き丸太のように太い爪を振り下ろしてくる。


  「くうぅぅぅ……ぐあぁぁぁ」


  反応が遅れて刀で受け流そうとするも圧倒的な膂力によってそのまま吹き飛ばされた。

  地面を転がり、複数のゴブリンにぶつかり漸く止まった。


  「……がはぁ」


  内臓のどこかをやられたのか口から血を吐く。身体の節々が痛み。所々激痛が走る。


  「はぁはぁはぁ………ぐぅぅ……」


  痛む身体に鞭を打ち、刀を地面に突き立てながら立ち上がり、腰に着けたマジックボックスからポーションを取り出して呷る。柑橘系の酸味と甘味が口に広がると、呼吸すらしにくかったのが嘘のようにしやすくなり、身体の節々が痛んだいたのも治まった。

  空いた瓶を見ながらとんでもない効果に驚く。

  以前飲んだことはあるが、ポーションはこんなに効かないし、何より不味かった。ハイポーションと同等…いや、それ以上かも知れない。ポーションもそれなりにするが、効果が低く味も悪いのであまり高値ではない。オレ達の様に金の無いハンター達には十分だったが、こんなにいいポーションを飲んでしまったら、アレ(不味いポーション)に戻るのは厳しい。まあこれがオレ達でも買えればだけど。ハイポーションですら数十万グランするのに、それと同等以上のものとなると手が出ない。

  それをオレ達全員に五本ずつポンと渡すリンさんはやっぱり凄いな。


  「『ライトニングジャベリン』!!」


  再度近付いてきていたドラゴンに向けて雷撃を放つ。


  「もう少し相手してもらうぞ」


  近くのゴブリンの首を跳ね、血糊を飛ばした後掌をドラゴンに向ける。




  「はぁ…はぁ…はぁ……」


  そこから十分ほど死に物狂いで雷撃を放ち、ドラゴンの攻撃を避けた。

  ポーションは尽き、雷撃は効いているようだが、ドラゴンは未だにピンピンしていた。


  「へへへ…駄目だったか…ごふ…はぁ…はぁ…」


  ドラゴンの爪撃に慣れてきたと思った瞬間にブレスを吐かれ、死にかけた。なんとかポーションが飲めたが、そこから、ドラゴンはブレスを吐く振りをするようにもなり、ブレスを避けようとしたところを爪で襲われ、腹に穴を空けられ、最後のポーションを飲んで回復した瞬間に横殴りに吹き飛ばされて、右腕をへし折られた。


  左手で刀を拾い構えるが、そろそろ限界がきていた。身体や足には転がった時に地面で傷付き血が出ていて、装備は至るところが焦げて、腹部に至っては爪の大きさで穴が空いてる。

  唯一損傷が無いのが刀とその鞘くらいのものだ。ドラゴンの攻撃を何度もまともに受けても傷一つ付いていなかった。


  「あぁ……もったいねぇ…こんなにいい武器があれば王国騎士や剣聖にも成れるんじゃないか?そうすりゃリンさん達に恩も返せて、チビ共にも好きな生活させれたのにな……母さんごめんな、約束守れそうにない…」


  少し離れた場所からドラゴンが口を開けブレスを吐こうとしていた。

  ――――終わったな。そう思い目を閉じた。


  十秒以上経ってもブレスで炙られることもつで裂かれることもなかった。ゆっくり目を開けると、最近良く目にするようになったリンさんの家に住んでるメイドさん達が目の前にいた。

  メイドさん達の前には半透明で半球状のものが広がりドラゴンのブレスが防がれていた。

  守られたのか?と思っていたらアイナさんが振り向きポーションを渡してきた。


「リンさんから伝言です。負ける事は恥じゃない。勝たなけばならない時に勝てず、ああやれば良かった等と戯れ言を述べる事が恥だ。負けてもまた立ち上がり死に物狂いでも勝てばいいそうです」


  何を…言ってるんだ?


  「貴方が今、しないといけないのは死に物狂いで目の前の絶望に抗う事じゃないの?」

  「…でもオレじゃあアレには勝てない……」

  「目の前に利用できるものが有って、一言云うだけで手を貸してくれるのに?まさかと思うけど、それが卑怯だとかカッコ悪いとか思ってる?」

  「………」

  「そんな勝ち方は卑怯だとか、カッコ悪いとかは本当に強くなってから言ったり行動してください。私もジンさんに助けられて、今現在もジンさんに大切なものを守ってもらっている身で言うのもどうかとも思うのですが………今のダリウス君はとてもカッコ悪いですよ」

  「………」

「このまま僕達が倒すのを指咥えて見てる?言っておくけどリンさんにお願いされたのは貴方がアレを倒すのを手助けする事なんだけどね。やる気がない、心が折れたんなら大人しくしてて…」

「…ってくれ」


  アイナさんの後にエレナさんが続けたが、口を開く。


「何?」

「待ってくれ…」


 自分てまもか細いと思う声だったが、分かれ目だ。緊張してしまっている。渡されたポーションを呷る。へし折れていた右腕は治り細かな傷や節々の痛みが無くなった。


  「アレはオレが倒します。どうか手を貸してください」


  そう言って頭を下げる。

  圧倒的に強い人に助けてもらうことは少し恥ずかしいが大した事じゃない、自分より少しだけ強い人に助けてもらうことは恥ずかしいと思っていた少し前の自分が心底恥ずかしい。

  アイナさんが言った通り今しないといけないのはアレを倒す事やこのスタンピード終わらせる事だ。

  多分アイナさん達なら何の問題もなくドラゴンに勝てるのだろう、それでもオレにやらせてくれようとしてる。そう考えると自然と頭が下げれた。




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