誓いと羨望1
遅くなって申し訳ありません。
「・・・ごふっ・・・。はぁはぁはぁ・・・」
呼吸をするのすら苦しい。呼吸を整えようにも、吐血と痛みでまともに呼吸が出来ない。さらに、現在進行形で血が流れ出て目眩もしてきて、意識を保つのもしんどくなってきた。
俺の腹に風穴を開けた奴は死に体の俺を見た後、明後日の方向を向いた。
早く治療しないとマジで死にそうだけど、なんとか助かった。どうにかリン姉の元に向かわないと・・・。そう考えるが、あいつの今の格好、視線の先に何が居るのかが頭を過る。直ぐに視線の先を顔だけ動かして確認すると、レッサードラゴンを倒したダリウス達がこちらを伺っていた。
ヤバい、ヤバい!!苦もなく俺の腹を貫通させるほどのこいつとダリウス達が戦ったら・・・。
「ごふっ・・・に、逃げろ・・・今・・・直ぐ・・・はぁはぁ・・・ごふっ・・・逃げろ・・・」
せり上がってくる血のせいで上手く喋れなかった。どうにかあいつらを逃がさないと。これで俺だけ助かってあいつらの誰か一人でも死んでしまったら、二度とイチャイチャしながらハーレム作りたいなんて言えねぇ。
三人は俺の声が届いたのか動き出したと思ったら武器を構えた。
疑問に思い良く聞くと、聞き取り辛いが「逃げない」とか「助ける」と言っていた。
・・・助ける?誰を?言わなくても分かる。今、地面に倒れている情けない男だろ?
・・・自分との圧倒的な戦略差でつい先ほどまで死の恐怖に震えていたのにも関わらずに、逃げず、終いには剣を取った勇敢とも蛮勇とも言える者達を相手に、まるで強者にでもなったかの様に「逃げろ」と・・・。
・・・一体俺は何様だ?
魔法も使えなければ取り柄もない、優秀過ぎる姉と前の世界でやった武術とこの世界で手に入れた少し高めなだけのステータスしかないのに・・・。
あの日誓った想いはこんな簡単に潰えるほどのものだったのか?
違う!!
なんの為に努力した?
大切なものをこの手で守り通す為だ!!
このままでいいのか?
いい訳がない!!
ならどうする?
「ごふっ・・・はぁはぁ・・・やるしかねぇ!!」
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ダリウス達は乱れる息を整えながら横たわるレッサードラゴンを見つめていた。
レッサードラゴンと言え、ドラゴンと言うだけあり、討伐者ギルドのランクBと言った一流になったハンターのパーティーで倒せるレベルであり、レッサードラゴンを倒せれば一流と言われている。さらにダリウス達は三人でこれを倒している。フルパーティーは6人とされ、ギルドもパーティーは六人と考えた上で魔物の討伐推奨ランクと呼ばれるものを公表しているがあくまで目安であって絶対ではないが。
通常Bランクの六人パーティーで倒す魔物を半数の三人でしかも駆け出しと言っていいほどの自分達が、いつか倒したいと思っていた目標を倒せた事に歓喜していた。
もちろん自分達の腕だけじゃないことも良く理解して、その切っ掛けを与えれてくれたリンに感謝をしながら、ダリウスはレッサードラゴンをリュック型のマジックボックスに収納し、二人に話しかけた。
「まさか俺達がレッサードラゴンに勝てるなんてな、これもリンさんのおかげだよな」
「そうね、不相応なくらい強い武器も売ってもらえて、鍛えてもらえるなんて、足を向けて寝れないわ」
「そうだね、それに身寄りのない子達を引き取ってくれて、お腹いっぱい食べさせてくれて女神かと思ったよ」
「そうだよな、孤児院が閉鎖される時はどうしようと思ったけど、寧ろ今の方がいい生活してるよな・・・さてと、そろそろ休憩はいいだろ?早く戻ってこいつを売って美味いもんでも買って帰ろうぜ」
「うん」
「じゃあ帰りは僕が前を歩くからダリウスとミミーちゃんは後ろの警戒よろしく」
「分かった任せろ」
「りょーかい」
レッサードラゴンを回収し、少し休憩した三人はエルザード村に向かって歩き始めた。
五分もしないうちに金属音が聞こえてきた。
「ミミー、ルーベンス気をつけろ」
「うん」
「分かった」
帰るまでは気を抜くなと耳にタコが出来るほど聴かされている三人は大物を討伐しても決して油断せず、寧ろ討伐したものを持ち帰りたいと、来たとき以上に慎重になっていた。
三人は金属音のする方へ警戒しながら進んで行く。
こういった時、近付かないのも一つの手だとマニュアルとして教えられるが、同業者や商人と盗賊が戦っている場合もあるので、危機的状況じゃない場合は確認し、余裕があれば助太刀するのが暗黙の了解になっていた。
暗黙の了解と言っても、皆が皆行う訳ではないが、ダリウス達は、「誰かが困っていたら出来るだけ助けてあげて。でも危なくなったりしたらちゃんと逃げて」と武器や防具を受け取る際にリンから言われていて、今回レッサードラゴンも倒せて、今なら誰かの役にたてるかもと思い、次第に大きくなる音の方へ向かって行った。
道なき道を歩き、開けた場所が見渡せる場所まででた三人は直ぐに木の陰に隠れ音の原因を見つめた。
赤色のオーラを纏ったジンがダリウス達が戦ったレッサードラゴンより一回り以上大きなドラゴンと肉弾戦をしていたのにはダリウス達三人とも言葉にすることが出来なかった。
(・・・レッサードラゴン?・・・じゃないあれはドラゴンか!!良くドラゴン相手に肉弾戦をしかも相手の攻撃は避けて、自分の攻撃だけ当ててる・・・。今の俺達じゃ絶対に無理だ。リンさんが言ってた、自分より強いって本当だったのか・・・)
赤色のオーラで周りの木々を薙ぎ倒したジンは、今度は拳のみを赤く光らせた。その光は綺麗だが不安定で、今にも壊れてしまいそうだとダリウスは思った。
ジンはニヤっと笑った後、ドラゴンに向かって飛び掛かろうとした。
ダリウス達はそれで終わるんだろうなと思い終始見ていたが、次の瞬間、ジンは背中から貫かれて倒れてしまった。
予想外の出来事にダリウス達と戦っていたドラゴンでさえ、動きが止まった。
訳が分からなかった。
ジンの腹に腕で穴を開けたのは他ならぬジンだったからだ。
(・・・なんで?どうしてジンさんが二人?いや、あれはジンさんじゃない?)
ダリウスは答えが出なかったが、倒れたジンを見下ろし嗤った顔を見た瞬間にあれは偽者、敵だと理解した。
直ぐに腰に差した剣を抜こうとするが、嗤っていた奴がこちらを見ながら嗤っているのを見て、自分より強いと思ったジンが奇襲とは言え一撃で倒されたのを思い出してしまった。
あれはきっと路傍の石を蹴るくらい簡単に自分達を殺すだろうと理解した瞬間、柄を握った手は震え、恐怖に支配されてしまった。
恐怖で動けなくなった時、掠れて聞こえ辛かったが確かに声が聞こえた「逃げろ」と。
(ジンさん・・・離れている今ならミミーとルーベンスを連れて、ここから・・・いや、出来ない!今俺達が逃げたらきっとジンは・・・。どうする?こんな時英雄ゼンノはどうしてた?)
ジンの言葉で恐怖に支配され止まっていた思考は急速に動き始めた。憧れた英雄ゼンノと呼ばれる男の英雄譚を思い出したダリウスは先ほどまで震えてたのが嘘の様に力強く柄を握っている手を確認し、鞘から一気に引き抜いて構えた。
「こんな時、ゼンノは逃げなかった。仲間を見捨てて逃げるなんて俺には出来ない!!」
ダリウスの声を聞いた二人はまだ震えている手で各々武器を構えた。
「流石ダリウス良いこと言うじゃない」
「そうだね、こんな時ゼンノは何度も切り抜けていた!!」
「俺達でジンさんを助けるぞ!!」
「ええ!!」
「うん!!」
お読みいただきありがとうございます。
皆様のお陰で100話まで書けました。
拙い文にも関わらず、ここまで読んでいただきありがとうございます。これからも面白いと思っていただけるように努力していきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。




