努力と才能
先ほどとは違い癒しがなくなったのは少し・・・いや、かなり寂しいがしょうがない。
村の門を出てジョギングくらいの速さで走り始める。
徐々に速度を上げていく。全力になる前に魔の森に着いた。2分もかからず、車くらいの速度が出ていたと思う。しかも全力でも無いし、一切疲れていない。本格的に人間辞めた感が半端ない。
ステータスで強化されまくったこの体の限界を把握し、更に鍛え上げねばなるまい。
ステータスやスキルに振り回される様では、"異世界最強の弟"には成れない。多分リン姉は魔法の練習をして更に強くなっているだろう。
それこそ本当に"異世界最強"になっていくと思う。
元々頭の出来が違い、この世界で魔法という武器を手に入れ、油断もなく、驕ることもなく、ただひた向きに努力することを苦にしない本物の天才に、学もなく、魔法もなく、ただ少し人より体が丈夫な凡人が勝とうと思ったら?
いや、そもそも勝つなんて言ってること自体、烏滸がましい。なら努力する天才の横に並び立とうと思ったら?
今有るものを磨き、無いものを身に付け、死に物狂いで自分をより高める努力をするしかない。
・・・全く、あの姉に近づくのは、異世界でも楽じゃねぇなぁ。
・・・じゃあまあ、バカがバカなりに頭使ったんだ、後はがむしゃらしかないよな?
「・・・ふぅ」
俺は気持ちを切り替え、まだまだレベルの低い索敵スキルを使いながら、魔の森へ入っていく。
早速少し離れたところに角の長い牛、多分ホーンバッファローだろう。それとワイルドボアが草を食べている。
音を立てずに近寄り、ホーンバッファローの胴に膝蹴りを入れる。骨が砕け、潰れる様な音と感触で致命傷と判断し、まだこちらに気付いていないワイルドボアに駆け寄る。途中ホーンバッファローが掠れ声で鳴いたが、構わずワイルドボアの胴に膝蹴りを入れた。
『レベルが上昇しました』
二頭に止めをさすと、レベルが上がったが今は確認出来ないので、ホーンバッファローとワイルドボアを回収する。全長4メートルくらいあるホーンバッファローやワイルドボアを楽々収納出来るアイテムボックスはやっぱりチートだと思う。
更に奥を探し、ホーンバッファローを拳撃のみ、蹴撃のみでそれぞれ一頭ずつ狩り、またレベルが上がった。
やっぱりこの辺りの魔物はホーンラビットとかに比べると強いのだろう。
・・・素手で簡単に倒せるから、レベル上げにはいいかも知れないが、技を磨くのには向かないな。まあ美味い肉が手軽に手に入るからいいか。売らないのは、美味しくいただこう。
更に奥に行くと今度はのデカい蟹を見つけた。
高さ3メートル、横幅4メートルほどあり、1メートルを超す鋏。鉛色で、如何にも硬そうですって感じの胴体に所々刺々しくなっている。あの鋏なんか人の胴とかバッサリと切断しそう。
・・・いいね。これはどう見ても強いでしょう。
こちらに気付いていなさそうなので、全力で駆け寄り、先ずは左ジャブを手前の脚の一本に放つ。
少し硬いものを殴ったあの感じ・・・巻き板を殴ってる感じかな?
ますますいいね。更に右、左と繰り出す。
さすがに蟹も抵抗してきて、デカい鋏で腕ごと切り離そうとしてくるが、鋏の外側と腕を滑らせる様にして流す。
蟹の動き自体は早くないが、鋏の動きはかなり早く、油断していると、腕を切断されそうだ。
鋏も所々トゲトゲしてて、こんな速度であれが当たったらヤバいな。
・・・ああ、このギリギリの緊張感堪らないな。
・・・こいつを糧に俺は、また一つ強く成れる。
1分ほど、胴、鋏、脚に左手右手で交互にジャブを打ちながら、鋏のトゲトゲが無い部分を上手く受け流していると、脚の一本にヒビが入った。
次に胴にもヒビが入り、最後に鋏に入った。
脚にヒビが入った辺りから蟹の動きは悪くなり、胴に入ってからは鋏の動きが明らかに遅くなった。
こうなると、朝練とかと変わらなくなるな。
全く抵抗のないのをなぶる趣味はない・・・。
動きが早く挟まれたら終わってしまう、あの緊張感。殺るか殺られるかの命をかけたやり取りが堪んないんだよな。
・・・あれ?俺って戦闘狂なのか?
拳に力を込め蟹の胴に渾身の右ストレートを打ち込み止めをさした。
早くリン姉に能力下げる魔法作ってもらわないと。拳に力を込めたら巻き板を殴ってる感じが、障子紙に穴を開けてる感じになり、本気で殴ると、硬いはずの蟹の甲殻を簡単に貫通してしまった。
砕けた甲殻と蟹を全部回収する。
自分の中では熱い戦いが終わって、気持ちが緩んだら急に腹が減ってきた。そういやまだ昼飯も食べてなかった。
行儀は悪いが立ったまま、露店で買った串を取り出し食べる。
うん。塩だけで味付けしてるけど、中々いけるな。
二本目を食べ様としたら、少し離れたところからこっちを見ている黒い犬?・・・いや、狼と目が合った。
俺の索敵スキルもまだまだのようだ。
見つめ合う二人(正確には一人と一頭)。
・・・とか言ってみたり。狼は実際には俺じゃなく、俺の持っている串を見ていた。串をゆっくり動かすと、狼の顔と目はゆっくりと串の方に動く。反対に動かすと、やっぱり反対に動く。
・・・ちょっと面白い。
あんまり遊ぶのもあれだから、皿を取り出し、串から外した肉を置いてやり、地面に置き、少し離れた。
狼はゆっくりと近付き何度も俺の方を見た後、肉の匂いを嗅ぎ、二口で平らげた。
皿を舐めた後、またこちらをつぶらな瞳で見てくる。
追加で二本あげましたけど何か?
いやだって、あんまなつぶらな瞳で見られたら、無理だから。
三本目を上げてる最中に最後の一本を食べる。
三本目でも食べる速度は変わらず、綺麗に食べ終わって、座ってこちらを見ている。
最後の一口もあげましたよ。
くっ、犬好きな自分が憎い。
犬・・・狼に大半をあげてしまい、串一本くらいでは、まだ満たされないな。
しょうがない追加で焼くか。
竃を出して、木を追加で入れて火力を上げ、レナさんのところで切っておいた肉を焼く。塩と胡椒を軽く振る。
焼けた肉を頬張と噛むぼどに肉の味が口の中に広がる。ああ、さっきの串より美味い。やっぱりワイルドボアは美味いな。
こっちを見ていた狼にも焼いてやった、塩と胡椒は少なめにして皿にのせてやる。
「熱いから気を付けな」
串の時より勢い良く食べてる気がする。
あれですか、違いの分かるやつなのか?
いい食べっぷりだな。よし、牛肉と鳥肉も食わせてやろう。
まな板代わりの台を取り出し、ホーンバッファローとフォースコッコを解体、ついでにホーンラビットも解体し、素材と内臓、使わない分の肉はアイテムボックスに収納し、収納していたリン姉作の土鍋に貯めていた水で手と台を洗い収納する。
一口大に切り分けたホーンバッファローとフォースコッコとホーンラビットを、焼いては皿にのせていく作業が始まった。
黒い狼は皿にのせられると一度こちらを見るので、食べる様に促すと、勢い良く食べる。
一応生の肉もそのまま出してみたが、食べることは食べるが食い付きは良くない。
ハハハ、焼いた肉の美味しさを知ってしまったな、このワンコ。
中型犬くらいの大きさで毛の色は黒く、毛並みはふわふわしてそうだ。次肉を焼いたら触ろう。
焼けた肉を皿にのせて、軽くなでる。
・・・もっふもふで、ふわっふわでした。
所々汚れているが、とても良い。連れて帰ったらぬるま湯用意して綺麗に洗ってやろう。
え?連れて帰るつもりですけどなにか?
もう調理した肉の味、覚えさせたしな。
一応本人?に聞いておこう。"一応"な連れて帰るのはもう確定しているが。
「なあ、俺のとこ来るか?来たら腹一杯食わせてやるぞ」
「わうっ」
「よし、じゃあほらもっと食べて大きくなれよ」
「わうっ」
肉で簡単に釣れました。肉で狼を釣るってことわざ出来ないかね?
こうしてモフモフもとい黒い狼をゲットした。
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