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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 18

 馬車は帝都を駆け抜ける。

 どこまで走っても、まともな建築物はほとんど見当たらない。

 まるで貧困街がどこまでも広がっているようだ。


 俺たちは6度の襲撃を潜り抜け、内壁の手前で止まる。

 内壁の門の前では帝国の旗を掲げた兵士たちが検問を敷いていた。


「皇帝陛下より拝謁の許可を得た王国の男爵、アンリ・ストラーニだ。通行の許可をいただきたい」


 俺は御者台で声を張り上げる。


「では証を立てよ!」


「――!!」


 こちらの返答も待たずに射かけられたのは矢の雨。


 以前より対処の手段が増えたことで一瞬迷う。


 一番簡単なのは魔法障壁で身を守ることだ。

 反撃を同時に行うなら矢に対して射手の元に戻れと命じることもできる。

 派手にやるなら風を巻き起こして矢を吹き飛ばしてもいい。


 だが王国からの皇帝に謁見しに来た使者としてならば――。


 俺は変換した魔力を命令に変えて矢の雨に向けて放つ。

 命令を受けた矢は物理法則を無視してその軌道を曲げ、二筋にまとまり、俺たちと兵士たちの間に道か橋でも描くように左右に突き立っていった。


 背後でシルヴィが動く気配がした。


「待った。シルヴィ。ここで被害を出さないように凌ぐ」


「違うわ。ネージュがいない!」


「んなっ!」


 しまった。

 ガルデニア流で気配を消していたのだ。


 彼女は俺に攻撃が向くと、ほぼ自動的に反撃する。

 帰らずの迷宮でそういう生活を長いことしてきたものだから、もう完全に身に染みついている。


 次の瞬間には城壁のほうから轟音が聞こえ、もうもうと煙のようなものが上がる。


「ネージュ、ダメだ。殺すなっ!」


「大丈夫。あの子は殺してない。ちゃんと加減してるわ」


 よかった。

 蛮族じゃないエルフもいた。


「あの子、壁を駆け上がったわよ……」


「ええー」


「跳び上がるのは私でもできるけど、駆け上がるのはちょっと無理ね」


 射手から死角になるように移動したのだろうが、ガルデニアの技術がやばい。

 流石に身体強化の魔道具も併用しているだろうけど。


 轟音から数秒の間があった。


「どうなった?」


「城壁の右側から左側に向けて高く跳んだわ。もう着地して音も無く剣の腹で弓兵を殴り倒してる」


「ほとんど見えないな」


「そう立ち回ってるからでしょ」


 そして再びの轟音。

 誰もがそちらに目を奪われる。


「ネージュはもう跳んだわ。滞空中。あー、指揮官のところに落ちるわよ。あれ」


「あとでちょっと叱るとして、ここはもう好きにやってもらおう」


 止めようにぶっちゃけ目で追えない。

 空からネージュが降ってきて、門の前に陣取っていた指揮官の肩に蹴りを食らわせた。

 鎧の上からだったが、そのエネルギーを人間が受け止められるはずもなく、指揮官と思しき男は地面に潰されるように倒れた。


 絶叫。


 あー、折れたか、肩が外れたかだなあ。

 この世界の人間は頑丈だ。前世の世界の人間なら潰れてる。


 ネージュが足を振り上げ、その兜を蹴り上げる。

 鈍い音がして、指揮官の顔が顕わになる。

 その顔にネージュは剣先を突きつけた。


「血で証を書けと言うのなら、お前の血を使おう」


 ぐり、とネージュが指揮官の肩を圧迫した。

 苦悶の声が上がる。


「それが返事か? 了承と取るぞ」


「アンリ様、止めてください! 帝国軍の正規兵に今の段階で死者を出すわけにはいきません」


 なんか文言が気にかかるけど、言ってることはおおむね同意だ。

 俺はネージュの剣に人を傷つけることの無いように命令する。


 うっわ、抵抗強!


 ネージュが剣を握っている状態だから、ネージュの一部として魔法抵抗が行われるのだ。

 とは言え、魔力量を使って力尽くで魔法を押し通す。


 ネージュが剣を振り下ろすが、指揮官の首には届かない。


 すぐに俺の魔法によるものだと気付いたのだろう。

 ネージュは俺に一瞬視線を向けると、剣を指揮官に突きつけた状態にする。


「次は脅しじゃない」


「分かった。俺らの負けだ。通っていい」


 絞り出すように指揮官は言った。


「なんだって? 皇帝陛下からの書状もあるが、確認しなくていいのか?」


「……元より最初の矢さえ凌げば誰でも通っていいことになっている」


 それを聞いて気まずそうにネージュは剣を納める。

 指揮官から足を下ろすと、他の兵が集まってくる。


「衛生兵!」


 そんな叫びが聞こえて、俺は馬車を前に進めた。

 指揮官を取り囲む一団の手前で止めると、馬車から降りる。


「通してくれ。治療をする」


 衛生兵と思しき兵士が救急バッグのようなものを開こうとしていたが、余計なことをされる前に回復魔法で指揮官の怪我を癒やす。

 すでに鎧を脱がされていた指揮官の肩はあっという間に回復する。

 感触からすると複雑骨折していたようだから、魔法で無ければ完治は難しかっただろう。


「痛みが消えた……だと」


 指揮官は驚いて起き上がり、肩の動きを確かめている。

 仕事を奪われた衛生兵はぽかんとその様子を見上げている。


「やり過ぎた詫びだ。鎧のほうは直せないが、これで勘弁してもらいたい。ネージュ、酷い怪我を負わせたりはしてないよな?」


「意識だけ刈った……」


 ガルデニア流ですね。便利便利。


「これが花の魔法使いとその乙女たちか……」


 なんか前に聞いたのより要素が追加されてない?


「呼び名はともかく、これで通行して良いんだな?」


「構わない。通行許可証を持たぬ者でも審査を突破した者は通すことになっている」


「あー、ということはわざと通行許可証を用意してなかったのか」


「偉大なる皇帝陛下のお考えは分からないが、通行許可を持たない王国からの客人にはより丁寧な対応を命じられている」


 くっそ、本当に火遊びが好きな皇帝だな。

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全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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