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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 12

 乗合馬車の車庫とは言うが、馬車を留めるための建物があるわけではなく、単なる空き地のように見える。

 轍がいたるところにあるから、その日の仕事を終えた馬車はここに並ぶのだろう。


 入り口の脇には小屋があって入口側に向けて窓が開いている。

 ピエールはそこに向けて声を掛けた。


「こんにちは。王国軍です。やんごとなきお方たちがこちらに用があるので時間をいただきます」


 ピエールの口調は丁寧だが、有無を言わせる気は無いようだ。

 まあ、こっちは王女に貴族に侯爵令嬢にエルフだからな。


 ……エルフが同列に並ぶってことは俺もだいぶ王国に毒されてきたな。


「やんごとなきお方ぁ?」


 髭面のおっさんがだるそうに窓から顔を覗かせた。


「なんのご用で」


 おっさんはかなり投げやりな様子で聞いてくる。

 乗合馬車の車庫を任されているのだから、信用はされている人物なのだろうが、あまりやる気は無さそうだ。


 まあ、昼間の仕事はほぼ見張りだろうから、やる気のある人物がいるということもないんだろうけど。


「馬車を一台、借りるなり、買うなりしたい。借りるなら2ヶ月を予定している」


「悪ぃんですがね、自分は誰かが勝手に馬車を持って行かないか見張りをしとるだけで、そういうのは分からないんですわ」


 一応こちらが貴族だという認識はありそうだ。

 職務に忠実というよりは責任を負いたくないということだろうか。


「責任は私が取るからその心配はしなくともいい」


 俺が言うとおっさんはちらりとピエールを見る。


「こちらはアンリ・ストラーニ男爵閣下だ。王女殿下もいらっしゃっている」


 俺らは子ども4人だからね。

 顔を知らなければ軍服姿のピエールのほうが信用できるのは分かる。


 とはいえ王国人は基本的に服装の質で相手をある程度値踏みするものだが、このおっさんはそうでもないな。

 帝国人気質がそうなのかもしれない。


「あんたはそれを保証してくれるのか?」


「構わない。一筆書いてもいい」


「分かった分かった。ここにある馬車なら好きにしてくれ」


「馬と御者も手配したいのだが」


 俺はピエールとおっさん両方に向けて言う。


「馬なら裏に2頭いる。だが馬車はともかく馬は早めに補填が欲しい。交代で馬車を牽かせてるんでな。予備がいないと他の馬に負担がかかる」


 俺はピエールに目線を向けるが首を横に振られる。

 警務中隊には馬がいないのかな。

 門を守ってる部署みたいだから、仕方がないか。


「急ぎなので馬の融通は難しいな」


「いや、あんたが魔法で馬を出しゃいいんじゃないの?」


 シルヴィにツッコまれて俺はハッとする。

 こういうところが抜けてるんだよな、俺は。


「確かに。そうすると御者もいら……、形だけでもいるか」


「御者無しで馬車が走ってたら止められるわよ。そりゃ」


「でもまあ、俺がやればいいか。馬を実際的に動かすのは俺なんだし」


 馬も御者もいないというのは、最悪の場合、馬車だけ収納して逃げられるということでもある。

 正直、メリットしか無い。


「貴族が御者をするなんて、って感じではあるけど、男爵なら、まあアリじゃない?」


「俺の所領、村3つだしな。御者を雇ってなくてもおかしくないか」


「で、どうなったんだ?」


 おっさんが聞いてくる。


「馬車だけ買い取ろう。いくらだ?」


「閣下、対価の話は物を見てからでよろしいかと愚考いたします」


「そうだな。そうしよう」


 正直、見ても相場が分からんから、ぼったくりでも言い値で払うけど、確かに物は見ておいたほうがいいだろう。


「そっちに駐めてある馬車ならどれでもいいから好きに見ていってくれ。どうせそんな違わないしな」


 おっさんに言われるがままに車庫の一角、馬車が並べられているところに向かう。


「幌馬車か……」


 まあ、乗合馬車に箱馬車を求めるのは酷というものだろう。

 屋根があるだけマシと思わなければならない。


 時間があまり無いので軽く点検していく。

 多少劣化はしているものの、どれも手入れはされており、壊れたりはしていないようだ。

 予備として置かれているというのは事実らしい。


 規格化されているわけではないようなので、それぞれ大きさに違いはあるが、それほど大きな違いではないし、見た目もほぼ一緒だ。

 なにか装飾があるわけでも、染色されているわけでもない。

 そのままの木材に、そのままの麻布。

 ところどころ鉄で補強されているが、錆びて赤茶けている。


「こだわりがある人はいる?」


 ふるふると首を横に振る一行。

 であればどれでもいいけど、一応老朽化の少なそうな一台を選ぶ。


「こいつにしよう。ピエール、値段交渉してきてくれ。程度を越えて吹っかけてこない限り、言い値で構わない」


「いいんですか? 一部があの男の懐に消えますよ」


「それくらい見逃してやれ。あの男にしても余計な手間を取った分くらいに思っているだろう。で、実際のところ相場はどんなものなんだ?」


「流石に一般的な馬車の値段は存じておりませんが、荷馬車に枠を付けて麻布をかぶせただけのものです。荷馬車は農民でも持てますから、金貨が必要にはならないでしょう」


「では銀貨を預けるから、この範囲で交渉してくれ」


 俺は収納魔法から銀貨をひとつかみ取り出す。

 ピエールは目を白黒させた後、俺に手を出すように促すと、そこに渡した銀貨の半分以上を戻してきた。


「これだけあれば十分です」


 世間知らずを露呈してしまった。

 俺は誤魔化すように言う。


「そうか。任せる。交渉がまとまったら合図をくれ。あと、この馬車が一瞬で消えるから、あの男に驚かないように伝えておいてくれ」


「承知いたしました」


 ピエールが小屋のほうに走って行って、おっさんと何やら話し始める。

 さっとまとまらなかったところを見るに、おっさんはかなり法外な値段を吹っかけようとしたのだろう。

 少し長いな、と思い始めた辺りでピエールが右手を天に向けてぐるぐると回す。

 良しの合図だ。


 俺は馬車に触れて収納魔法を発動した。

 みんなで小屋のところに向かい、ピエールと合流する。


「では失礼する。もし何か言われたら王国軍か、辺境伯のところに訴え出るといい」


 まだ驚いているおっさんを残して俺たちはその場を離れる。


「次はどうされますか?」


「ガラットーニ辺境伯のところに行くのはちょっと早いかな」


「私がいますから、辺境伯もそれなりにもてなしの準備が必要でしょう。こちらがそれを受け取るかどうかは別として、急に訪れた王女を迎えるための準備を間に合わせたという事実は差し上げるべきです」


 リディアーヌが言う。

 なるほどなー。そういう視点は俺には無いわ。

 確かに王女が来ているのにちゃんとした準備ができていなかった、となったら、ガラットーニ辺境伯のメンツが立たない。


「じゃあ、馬車を飾るための布でも見に行って時間を潰しましょうか」


「それは良い考えですね。見栄えには気を遣うべきです」


「じゃあピエール、そういうことで飾り布を扱っているような店に案内してくれないか。高級な店がいいな」


「承知いたしました」

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