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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第2章 魂喰らい

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魂喰らい 13

 文化祭の残りの出し物などすべて放っておいて、俺は自室で自らに睡眠魔法を掛けて眠った。

 王命によるサボりである。

 誰にも文句は言わせない。


 日暮れ前に起き出して、夕食をかっ食らう。


「アンリ」


「ネージュ、ごめん。放ったらかしにして。でもしばらくは授業には出ない」


「うん。分かった。無理はしないでね」


「分かってる。ネージュをひとりにはしないさ」


「分かってない。怪我とかもしないでねって言ってるの」


「分かったよ。怪我もしないように気をつける」


「よろしい」


 夕食を詰め込んだ俺は早速学園から飛翔する。

 夕闇が包む空はどんよりと曇っていて、あまり高度は取れない。

 まあ100メートルも浮かび上がれば十分なんだけどさ。


 探知魔法は役に立たない。

 特定の誰かを探知できるような魔法ではないからだ。

 マーカーを付けられるような魔法があれば前回の接触の時に付けておいたのだが、そんな便利魔法もない。


 上空から望遠魔法で夜半に怪しい動きをしている人影を探していくしかないが、黒マントは松明すら持っていなかった。

 夜の闇に紛れられると発見できるかどうか心もとない。


 結局は探知魔法と望遠魔法を併用して、探知魔法には引っかかるが灯りを持っていない人物を探すことにした。


 慣れない作業で精神的に消耗する。

 第一、灯りを持たずに歩いている人がいない。

 そもそも黒マントは探知魔法に引っかかるのか?


 そのことに気付いて愕然とする。

 魔法を無効化する奴のことだ。

 探知魔法に引っかからない方が自然だ。


 これまでの作業はまったくの無駄足か。

 いや、待てよ。

 逆に探知魔法に引っかからないのに存在している人間を探せばいいのか。


 やることはほとんど変わらない。

 探知魔法の感覚を視覚に同調して、一目見ただけで探知魔法に引っかかっているか分かるようにする。

 後は虱潰しに探していくだけだ。




 そんな作業をもう一週間以上も続けている。

 リディアーヌは目覚めない。

 しかし一方で新たな昏睡者も出ていない。


 朝食を食べて睡眠魔法で無理やり眠り、夕食を食べて出動の毎日だ。

 食事時に顔を合わせるネージュの存在だけが俺を支えている。


「アンリ様、お疲れのようですわね」


 が、今朝はシルヴィが話しかけてきた。


「授業には顔を出してくださいませんの? 私、寂しいですわ」


「すみません。シルヴィさん。今はその余裕が無いのです」


「まあ、どうしてかしら?」


 別に秘密にしているわけではない。


「リディアーヌ様を昏睡させた犯人を追っているのです」


「……そのようなことをアンリ様がされる必要などないのでは?」


「王命ですし、何より私自身がそうしたいからしているのです」


「無駄ですわよ。昏睡者は誰一人目覚めていないというではないですか。リディアーヌ様も、もう……」


「そんなことない!」


 強い否定の言葉はネージュから放たれた。


「アンリには人を救う力があるもの。だから必ず助けられる!」


「それでなにができるというのです? 他の昏睡者は救えなくてリディアーヌ様は救える、と?」


 ネージュは首を横に振る。


「アンリは絶対に皆を助ける。黒マントなんかの好きにはさせない」


「ネージュ、買いかぶりすぎだよ。俺はそこまで万能じゃない。でも、シルヴィさん、俺は簡単には諦めませんよ。リディアーヌ様の心を取り戻す。そのためにはなんだってするつもりです」


「そうですか。体調を崩されない程度に頑張ってくださいませ」


 そう言ってシルヴィは離れていった。


 俺にはシルヴィがなにを言いたかったのか分からない。

 食事の残りを腹に収め、夜に備えて寝ることにした。




 その日の夜、俺が夕食を食べて夜空に飛び立った後のこと。

 皆が寝静まった後の女子寮で、ネージュの部屋の扉を叩く手があった。


「誰?」


「私です。ネージュ様。シルヴィですわ。少しお話があるのですけれど、よろしいでしょうか?」


「……どうぞ」


 少し時間を置いてからネージュはシルヴィを部屋に迎え入れた。


「こんな夜中に何の用?」


「アンリ様のことですわ」


 そう言いながらシルヴィはネージュの手に触れようとする。

 しかしその手が触れる前にネージュは後ろに飛び退いた。


「ネージュ様?」


「アンリが、なに?」


「それ以上、話に付き合う必要はないぞ。ネージュ」


 俺はクローゼットから飛び出して、ネージュに収納魔法から出した剣を投げて渡す。

 俺自身も剣を手にした。


「信じたくはなかったけど、おまえが黒マントの関係者だったとはな」


 武器を持った二人に囲まれて、しかしシルヴィは動揺を見せない。


「なんのことでしょう。アンリ様。どうしてこんな時間にネージュ様のお部屋にいらっしゃるので?」


「同じセリフをそっくりそのままお返しするよ。なんのためにこんな時間にネージュを訪ねてきた? 返答は必要ないぞ。もう分かっているからな」


「なにか勘違いをされているのでは? 私はただアンリ様への想いをどうしてよいか分からずに、ネージュ様に相談しようと」


「下らない言い逃れはもう止めるんだ。今朝の時点でシルヴィに違いないということは分かっていたんだ。探知魔法に引っかからなかったからな」


「なにかの間違いでしょう。私は、アンリ様、本当に黒マントとは関係ありませんのよ」


「じゃあこれはどう説明する?」


 俺は小さな炎を生み出してシルヴィに向かって放つ。

 シルヴィは避けようとするが、炎はシルヴィの動きに追従してその腕に当たり、まるで初めから存在していなかったかのように消えた。


「アンリ様、なにを!?」


「魔法無効化能力。俺の知る限りそんな力を持っていたのは黒マントただひとりだ」


「私は本当にっ!」


「ネージュ、直接触れられるな。身体強化魔法が解除されるぞ」


「聞いてください、アンリ様!」


「大人しく捕縛に応じるなら、その後に話を聞いてやる」


「私は本当に黒マントなど知らないと言っておりますのにっ!」


 叫びながらシルヴィが俺に迫る。

 無手だが、黒マントと同じならその体は刃を通さないほどに硬いはずだ。


 それでも見知った顔に刃を振り下ろすことができずに、剣の腹で迎え撃つ。


 シルヴィの手が刃を掴み、止める。

 だが同時にネージュの剣がシルヴィの脇腹を捉える。

 刃は振り抜かれ、シルヴィの体は吹き飛ばされ、部屋の中に転がり、壁に当たって止まる。


「騒がしいですわよ。ネージュ様……」


 そんな声が扉の辺りから聞こえ、寝間着姿の見知らぬ女生徒が部屋の中の様子を見て悲鳴を上げた。

 がばっと起き上がったシルヴィがその女生徒に駆け寄り、縋り付いた。


「助けて下さいまし。アンリ様とネージュ様がっ」


「離れるんだ! 黒マントだ」


 状況を理解できない女生徒は目を白黒させて、シルヴィと俺たちを交互に見ている。


「いや、そのままでいい。シルヴィを捕まえててくれ!」


 俺は収納魔法からロープを取り出す。

 室内では飛翔して逃げることもできまい。好都合だ。


 しかしシルヴィに縋りつかれていた女生徒の体ががくりと力を失う。

 昏睡させられたのだ。

 ネージュに触れようとしていたことからも分かるように、精神を奪うのに相手の意識の有る無しは関係ないらしい。

 つまり触れられたら魔法が解除されるだけでなく、一気に昏睡にまで持っていかれる可能性がある。


 だが決定的な証拠を見せたな。シルヴィ。

 もう言い逃れはできないぞ。


 シルヴィは意識を失った女生徒の体を打ち捨てて、廊下を駆け出す。

 逃げるつもりだ。

 廊下には騒ぎに気付いて出てきた女生徒が少なからず居たが、シルヴィはその間をすり抜けていく。


「ネージュ、後を追って! 俺は外から見張る!」


「分かった!」


 寝間着姿の女生徒たちの間を抜けて追いかける勇気はない。


「絶対に直接触れられないように!」


「うんっ」


 俺は女子寮の上空に転移する。

 シルヴィは探知魔法に引っかからないので目視で出て来るところを捉えなければならない。


 しばらく待つと、裏口からシルヴィが飛び出してきた。

 俺は輪を作ったロープを持ってシルヴィの傍に転移し、その体に引っ掛ける。

 輪を引き絞り、拘束する。


 シルヴィは力尽くで拘束を抜けようとするが、極太のロープはそう簡単には引きちぎれない。


 だが次の瞬間、シルヴィの手がロープを掴み、俺を引き寄せた。

 身体強化を使っているにも関わらず、軽い俺の体は簡単に引き寄せられ、シルヴィの体に衝突する。


 しまった!


 シルヴィの手が俺に触れた。

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バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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