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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 61

「レギウムへは賠償金を支払ってそれで終わり、ってことでいいのか?」


 フラウ王国国王の暗殺にはまだ時間が早いということで、俺たちはマルーが届けてくれた夕食を口にしながら、報告を行い合う。


 夕食は肉と野菜の入ったスープだ。

 肉はおそらく狩猟で得たものだろう。

 秋のこの時期は山の幸が多く、野生動物もよく肥えていて、脂がのっている。

 本来であれば燻製にして冬場に使う保存食にするべきなのだろうが、こうして夕食に出てくるということは肉に余裕があるか、女帝であるアレクサンドラへの配慮かのどちらかだ。

 ここは前者であることを祈っておこう。


「それで構いません。国交は断絶、というか、帝国は鎖国します」


「鎖国!? 人口がたったこれだけの国で?」


 デラシネの住人は百人と少しだ。


「アンリ様の収納魔法にはまだまだ生存者が残っていますわよね。特にシクラメンで回収した市民たちが」


「そうだけど、あの人たちは王国人だぞ」


「シクラメンは最近、というほどでもないですが、帝国領でした。あの町の住人はほとんどが元々帝国の市民です。いまからまた帝国国民と言われても、それほど強い拒絶はないでしょう。もちろんシクラメンのような都市での暮らしに慣れた人に、このデラシネでの生活はかなり堪えるでしょうが」


「しかしほとんどが老人や子どもだ」


「全部が全部ではありませんし、適切な数の子どもがいることは社会の継続性に必要です。お年寄りの方は住居や食料に余裕ができたら順次、ということになるでしょう」


 俺が考えるようなことは考え済みってことね。

 流石リディアーヌさんだ。


「となると、問題はデラシネの住人より収納魔法の中にいる人のほうが数が多いことくらいか」


「それについてはデラシネのいまの住人たちは居場所を移します」


「場所を移す? せっかくここまで隠れ里を作ったのに?」


「だからこそです。デラシネの住人たちは隠れ里を建築するノウハウを得ました。それを活用しない手はありません。アンリ様のお父様については引き続き、この地で新しい住人たちに森での生活を手ほどきしていただければと思います」


「じゃあ、つまりデラシネを拠点にしつつ、衛星都市的な隠れ里を増やしていく感じか」


「そうですね。いましばらくは。ある程度に規模が膨らんでくれば、壊滅した町を復興していくのがいいですね」


「先の長い話だ」


 俺の収納魔法にはシクラメンで収納した数千人が入っているが、町の復興となると万人規模になるだろうから、たぶん俺たちが年寄りになってもまだ始まるかどうか怪しい。


「国とはそれくらいの長期的な視野に立って運営されるべきですから」


 リディアーヌの言葉が引っかかった。


「ならどうしてレギウムと交易や、技術の交換をしなかったんだ?」


 レギウムは王国や帝国より遥かに文明が進んでいる。

 長期的視野に立つ、というのであれば、文明の進歩を加速させるべきなのではないだろうか?


「それは破滅の道だ、とお話したと思いますが?」


「文明の進歩が民の幸せには直結しない、というヤツか」


「そうです。あれからずっと考えていました。そして私の結論といたしましては、他国が競い合って文明を進歩させるのであれば、帝国は保護区を目指すべきなのです」


「保護区?」


「レギウムには歴史を重んじる傾向があるようでした。過去の文化的建造物の保存事業などを行っていると聞きましたから」


 ああ、文明が進歩するとそうなるよね。

 過去の遺産を観光資源化、というのはちょっと言い方が悪いか。

 歴史を保存しようとするのだ。


「それを帝国にも適用する、と? どういうことだ?」


「つまり古い文化を残している、ということを帝国という国家の価値にするのです。私が思うに文明の進歩における最大の弊害は情報伝達速度が早くなることです」


「いいことのように思うけどな」


「そうですか? 例えば情報伝達速度が行き着くところまで早くなり、世界中のすべてが同時に繋がる時代が来たとします」


 インターネットだね。うん。


「情報は簡単に共有されるようになる。誰もが世界中のことを知り得るようになる。前にもお話ししたと思いますが、人はお互いに格付けをして人より自分が上であるということを確認したがる習性があります」


「あるかもな」


「比較対象が全世界になったとき、人々が貴族のような恵まれた生活を知り、比較対象に加えたとき、市民のほとんどは劣等感を抱き、敗北感を刻み込まれます。もちろんより良い生活を知ることでそこを目指す気骨のある方もいるでしょう。しかしほとんどの市民はそうではありません。ただ漫然と日々を過ごし、ただただ劣った自分の生活を嘆く人生を過ごすことになります」


「流石に極論が過ぎると思うけど」


「そうですね。これでは根拠が少ないと思います。しかしこれに民主化、つまり民主主義国家における政治の責任や、レギウムで見られた男女の雇用格差が減少することによって経済力を得、自立した女性が婚姻しなくなるという良くない循環など、文明の進歩による弊害は重なり合って、大きなズレと欺瞞を生み出します」


「俺が言うのもなんだけど、悲観的過ぎる気がする。少なくとも文明が進歩すれば、食料の問題はほぼ解決されて、飢えに苦しむ人は減る」


「そうですか? アンリ様、あなたの前世の世界に飢える人はひとりもいなかったのでしょうか?」


「そりゃいなかったわけじゃない。国民が経済的に困窮するような状況になれば、たちまち国は飢えた人でいっぱいになる」


「それに食料の供給が増えるということは、人口が増えるということだと私は思います。結局、人は飢えるギリギリまで人口を増やし、中央部が肥え太り、外縁部では飢えに苦しむ。なにも変わらない」


「変わらないならさ。せめて子どもたちには教育の機会を与えてやってもいいんじゃないか?」


 かつてのリディアーヌは教育を市民に広げる事に熱心だった。

 学びたい者は学べる国を目指していたはずだ。


「それは過りでした。教育というのは専門家を生み出すのが目的です。文明を進歩させるための青田買いに過ぎません。ただ生きるだけなら、必要な知識は生きる過程で得られるのです」


「つまり君は教育は必要ない、と」


「正確には平民には必要ありません。為政者側である貴族は積極的に学ぶべきでしょう。しかしそれも領地経営に必要な範囲です。研究者や発明家を生み出すためではありません」


「例えば医療の進歩は多くに人命を救うのに?」


「では逆にお聞きしますが、医療の進歩の結果、幸福になった人と不幸になった人、どちらのほうが多いですか?」


「それは当然幸福になった人なんじゃないのか?」


「それは医療の結果、健康になった場合の感想ですよね。死病の進行を止めることができた結果、苦しみがただただ長引く場合もあるのでは? 医薬品の乱用による依存症の問題はどう思いますか? 医療技術の進歩は光の側面ばかりではありません。薬の開発の過程において、毒物だって生み出すでしょう。言ってしまえば、大抵の病気は医療がなくとも治るんです。人間は。それに過度な医療の進歩は、人口の増加を生み出します。アンリ様、人がいまよりずっと死ににくくなれば、それだけ人口が増え、より食料が必要になります。飢える人が増えることになるかもしれませんよ」


 もうやめて。全然理解が追いつかないの。


「つまり結局どういうことなんだ?」


「世界は広く、足場を高めれば遠くまで見えますが、それで幸せにはならないということです。地上に降りて地に足を付け、種を撒き、水を撒いて、番い、子を成し、成長を助ける。それこそが人の幸せです」


「民の幸せをそれだと決めつけるのはどうなんだ? 幸せは人それぞれだろうし」


「国民全員を幸せにするつもりは毛頭ありません。生物として当然の生き方に満足できない方はどうぞ文句を言っていてください。ただ私が作りたいと思う国は、生きるということに幸せを感じられるような国だ、ということです。私の国――ではありませんが、アレクサンドラ陛下が私に任せてくださる以上は、そんな国を目指します」


「海を知らなければ、夢見ることもない。ということか」


「まさしく。私の庇護する民は、深い井戸の底で外を知らずに幸せに生きるのです」


 リディアーヌのそれは元日本人としては到底受け入れられない思想だ。


 より良い生活をするためにはより良い学校に行って、より良い会社に勤め、よりお金を稼ぎ、余暇のある生活をしなさい。と、この世界より遥かに文明の進んだ日本では言われていた。


 落伍した俺は不幸で当然だと思っていた。


 しかしそれは自分が社会の標準から落ちたと思ったからだ。


 日本という国全体で平均より下になったから不幸だと感じていた。


 だけどもしそのこと自体を知らなければどうだっただろう?


 中卒ばかりの会社でそれなりにやれて、同じくらいの人たちに囲まれ、外のことを知らずに生きていたら?


 その範囲の外からはバカにされるに違いない。

 けれどそれすら気づかなければ、俺の幸せにはなんの影響もない。


「わからない。俺にはわからないよ。リディアーヌ。ただ君の考えはすごく傲慢だとは思う」


「はい。それで構いません。私は国民が幸せだと感じながら生きられるのであれば、どんな汚名も被ります。それが為政者としての責任ですから」


 そうきっぱりと、国民の幸せは自分が決めるとリディアーヌは言ったのだった。

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