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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 55

 シルヴィに到着したと伝えられて俺は外を見る。


 曇っているのか月も星もない夜だ。

 レギウムの大通りにはガス灯が設置されているのだが、この辺りに灯りはないらしい。ただ建物の窓からは光が漏れている。

 もう夜半だというのに、ここだけは夜に休むという習慣はないらしい。


「ここは?」


 俺が聞くとシルヴィが通訳のような役割をしてくれた。

 というか、今後もシルヴィに通訳してもらわないと、俺なんにもわからないな。


「大統領官邸、というところみたいね」


「なるほど。官邸か」


 少しレギウムの言葉で話をしていたシルヴィが呟く。


「国のトップがコロコロ入れ替わるから、こういう国家が所有するトップのための邸宅が必要になるわけね」


 ああ、大統領官邸がどういうところか聞いていたのか。


「そうだね。人が入れ替わるけど王宮の一部みたいなものだな」


 フラウ王国では王様の住むところと言うと王宮で、そこが政治の中枢だ。


 俺たちは馬車を降りて、案内に従って進む。

 官邸に入ると会議室のような場所に通された。


 扉が開いた瞬間に、何とも言えない臭いが漂ってくる。

 これタバコだな。

 前世で喫煙者だったからわかる。


 部屋の中には十数人の男性がテーブルに腰掛けて顔を突き合わせている。


 俺たちに気づくと、彼らはそれぞれの反応を見せた。

 その中で一番多かったのは困惑だろう。

 男性たちはなにやら話し合い、俺たちのために席を空けた。


「そこに座ってほしいって」


「わかった。とりあえず指示に従おう」


 俺たちは会議室の椅子に腰掛ける。


 ここからはシルヴィの通訳が適時入っているが、面倒だから描写は省くよ。


「ようこそ、おかげさまでこんな時間なのにこれだけ人が集まった」


 大統領を名乗る男性がそう皮肉を口にする。


「困惑されているのはわかるのですが、こちらもそれは同じです。なぜ我々が勇者に襲われなければならなかったのですか?」


「こちらもそれを知りたいと思っている。あなた方には心当たりがないのか?」


 いや、まあ、あるっちゃあるんだけどね。

 アレクサンドラはレギウムに死者の軍勢を送り込んだわけだし、勇者が討伐に乗り出してくるのはごく自然なことだ。


 こちらが手を止めたから、あれはなかったことにして、とはならない。

 それをするにはあまりにも人が死にすぎた。


「それは帝国の主が『黄泉返りの魔王』だからでしょう。勇者自身が言っていましたよ。魔王退治だ、と」


 そう言ったのはシルヴィだ。

 自分で言ったことを改めて俺に伝えないといけないの大変だ。ごめんな。


「だがあなた方には一万人を返還する用意があるという。我々は受け入れるつもりだった。だが勇者が動いたとなると、話がややこしくなる」


「こちらは別に生存者を返還しなくてもいいんですよ。最初からこれは厚意なんです。あなた方からなにかを得ようと思ってしていることではありません。もちろん賠償はちゃんとするつもりです。それはそれ、これはこれ、ですよね」


「そうもいかないのだ。ニニアエの犠牲者のうち一万人が助かったという話はもう広まっている。いまからそれがなかったことになれば、政権運営が危うい」


 シルヴィがこちらの言葉で

「民主主義って本当に面倒ね」

 と呟いた。


 そうだね。

 だけど、民衆がその権利を得るために大変な苦労があったんだ。


「そもそも勇者に襲われたというのは本当なのかね?」


「勇者自身から説明はありませんでしたか?」


「影も形も見せていない。一応、確認しておくが、勇者の風体はどんなものだった?」


「一見するとまるで浮浪者のようでしたね。しかしその剣技は常人の域ではありませんでした。いえ、人間の域ではない」


 シルヴィがそう言うと、テーブルについたレギウムの人々は大きく息を吐いた。


「勇者で間違いなさそうだ」


 やっぱりアレが勇者で間違いないんだ。

 まあ、強さは別次元というか、もう人間止めてるよね。


 その力を吸収しちゃったシルヴィや、対抗できる俺ももう人間を止めているのかもしれない。

 まあ、この世界の人間の成り立ちを考えると、ややこしい話になるけれども。


「レギウムは国家として勇者に対してどのような立場を取られるつもりですか? つまり、帝国との関係を取るのか、それとも勇者との関係を取るのか」


 室内はざわついた。


 リディアーヌが技術供与を断っているからな。

 アレクサンドラもレギウムのことはどうでもいいという態度だ。

 しかしレギウムとしては帝国の豊富な鉱石資源が欲しい。


 国家の実利を考えれば帝国との関係を取るべきだろう。

 だが勇者は民衆から人気があるという。

 政治家としての実利は勇者のほうが大事だ。

 勇者と意見が異なっていると民衆が知れば、次の選挙で負けるかもしれない。


 レギウムの政治がどうなっているのかはしらないが、政権与党が崩れる可能性のあるようなことはできないだろう。


 レギウムの政治家たちが激しくやりとりを行っているため、シルヴィも通訳しきれない。とにかく紛糾していることはわかる。


「五分のやりとりじゃないわ。大勢はもう決まっている。レギウムは勇者につくわね。あとは損失をどうするかの話よ」


「生存者はどうなりそう?」


「諦める派と、返還してもらわなければ困る派でバチバチにやりあってるわ」


「そこかあ。シルヴィ、通訳を頼む」


「はいはい」


 シルヴィの口を借りて俺はレギウムの政治家たちに伝える。

 これまでとは違って、強い口調を使う。


「いまこうしている間にも勇者が俺たちの命を狙ってくるかもしれない。こちらとしてはニニアエで一万人を一度に解放していいかどうか。是か非か。聞きたいのはそれだけだ」


「そんなすぐに返答はできない」


「してもらう。いいか。あなた方が勇者につくというのなら、これはもう戦時に行われる捕虜交換のようなものだ。俺たちはついさっき勇者に殺されかかっていたんだ。いますぐの決断を求める。できないというのなら、話は終わりだ。俺たちは帝国に戻り、もうレギウムとは関わらない。それだけだ」


「アンリ、時間を決めないと」


「確かにそうだ。ではそこのあなた、えんじ色のネクタイをしたあなたです。あなたがそのタバコを吸いきるまでに決めてください」


 驚いた男性はすうとタバコを口にしたまま、大きく息を吸い込んで、チリチリと紙を焼いた。

 時間はほとんど残されていない。

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