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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 53

 俺とシルヴィは転移魔法でレギウムの俺たちに割り当てられた部屋に戻ってきた。


 意外なことに室内は無人で、特に荒らされた様子もない。


 てっきり勇者からの報告を受けて家捜し的なことをされていると思っていたのだが。


「勇者は私たちが転移できることを知っているはずなのに、静かすぎるわ」


「そうだな。まるでなにも起こっていないかのようだ」


 シルヴィは部屋の扉を確かめる。


「鍵も、かかったままね」


「どうしてだと思う?」


「勇者が戻ってきてないか、レギウムになにも言っていないか」


 そんなことがありえるのだろうか?


「そういえばレギウムの人たちは勇者が来ていることは知らない様子だったな」


 来ているというか、背景変更で入り込んだのだろう。

 あんな風に移動ができるのなら動向を掴むことなんて不可能だ。


「よくわからないけれど、情報戦は先手を取ったほうが有利よ。行きましょう」


「悪いけど交渉は任せる」


「そりゃそうでしょ。アンリはレギウムの言葉すら話せないんだから」


 はい。そうですね。


 俺たちは部屋から廊下へと出る。

 警備がドアの外に立っているということはない。

 フラウ王国でならありえないな。


 外賓が来たら絶対に部屋の前に侍女を待機させる。

 侍女というか、ガルデニアをね。

 そうすれば中で話していることは全部筒抜けというわけだ。


 だがレギウムではそういう習慣がないらしい。


「助かった、というべきなんだろうが」


「一応探知魔法使っておいてよ」


「そうだった」


 探知魔法を行使すると、迎賓館にいる人々の位置が伝わってくる。


「夜ということもあってか、ずいぶんと少ないな。他に客もいないみたいだし、とりあえず人のいるほうに向かってみるか」


「そうね。こまめに探知魔法を使っておいてもらえる? 勇者が転移してきたらわかるように」


「わかった」


 俺は五秒おきくらいに探知魔法を使いながら廊下を進む。


『こんばんは、お客様。いかがされましたでしょうか?』


 迎賓館の入口付近にあるカウンターの中で待機していたコンシェルジュなのかな? そんな感じの人から声をかけられる。

 なにを言ってるのかはわからないけど。


『ちょっとした問題があって、腰を落ち着けて話をしたいのだけど、案内してもらえるかしら? あなたは責任者?』


『では談話室にご案内いたします。私もある程度の裁量を任されておりますが、問題の概要についてお聞きしても?』


『勇者に襲撃されたわ。その対応について話をしたいのだけど、あなたで大丈夫?』


『勇者様が? わかりました。対応できる者をすぐに呼んでまいります。ひとまず談話室に案内いたしますので、そちらでお待ちください』


『ええ、お願いね』


 コンシェルジュっぽい人に案内されて、俺たちは談話室に腰を落ち着けた。

 シルヴィから会話の内容を確認して、俺たちは対応できる者というのを待つ。


 思ったよりは長い時間待たされたから、もしかしたら迎賓館の外にまで人を呼びに行っていたのかも知れない。


 やがて一人の中年男性が駆けつけてきた。

 とは言っても息は切れていないから、走ったのはせいぜい最後の十メートルとか、その辺りだろう。


『遅くなって申し訳ありません。私はレギウム国防省の事務補佐官です。勇者様に襲われたとのことですが、状況についてお聞きしても?』


『勇者は突然部屋に現れて、謎の手段で私たちを別の場所に連れ去ったわ。今のところ戻ってこられたのは私と彼だけ。本人は勇者と名乗っていたけれど、勇者の風体などについて聞いてもいいかしら? 確認を取っておきたいの』


『そうですね。今代の勇者様はあまり身なりに気をつかわないと聞き及んでいます。浮浪者か物乞いのようであると言う者もいます。ご年齢は不詳なのですが、見た目はある程度老いていらっしゃると』


『間違いなさそうね。ねえ、これってどういう状況なのかしら?』


『非常に難しい問題です。レギウムとしてはアルブル帝国皇帝陛下ご一行を歓迎したいと考えています。しかし勇者様というのは国に所属しておられるわけではないのです』


『レギウムの勇者、というわけではない? レギウム人に見えたけれど』


『確かにいまの勇者様はレギウムの出身であり、レギウムに居を構えていらっしゃいます。ですが勇者というものは世界の危機に対応する存在であって、国家のためにその力が振るわれることはありません』


『では勇者の行動はレギウム国としてはそれを認めないということでよろしいですか?』


『非常に難しいのはそこなのです。お二人は勇者様の逸話をご存じないとは思いますが、レギウムでは勇者様への支持は、大統領に対するものより大きい。つまり勇者様のご意向に背けば、政権が転覆することもありうる』


『……?』


 シルヴィが一度会話を打ち切って俺に内容を伝えてくる。


「レギウムは民主主義ってことだっただろ。それはつまり民意、多くの国民が嫌だと言えば国のトップだって引きずり下ろせるんだ」


「それでどうやって政治をするのよ?」


「それなりにうまくいくんだよ。直接指名制ではなくとも国民に選ばれた者がトップに立つわけで、その人は国民の信頼を失うまで強権を振るえる」


「とてもあなたたちが言う未来の優れた政治形態とは思えないけど、わかったわ」


『つまりレギウム政府としては国民の信頼を損なうようなことができない。勇者を拘束することはおろか、罪に問うことや、邪魔するようなことさえできないということね』


『誤解を恐れずに言えばその通りだ、ということになります』


『一万人が帰ってくることがなくなりますよ?』


『それは、なんとかなりませんかね?』


『放り出すだけです。一万人をニニアエに放り出す。食料も家屋もすべてそちらでなんとかしていただく。これを条件に、50年の不可侵条約を結んでください』


『先ほども言いましたが』


『勇者は例外。わかっています。ですがあなたたちレギウムの人々に随伴されるともっと面倒なことになりますので』


『それと公式な条約ということにはできません。その上で一旦持ち帰らせていただきたい』


『構わないけれど、その間に勇者が来て全部がめちゃくちゃになるかもしれないわよ』


『承知しています。ですが、これはあまりにも話が大きすぎる』


『聞いた感じだと一定期間でコロコロ変わる政治家たちがいま入れ替わるくらいの話じゃないの。国の一大事より政権の存続が大事だというのなら、そんな為政者はさっさと退きなさい』


 会話の内容はわからないけど、リディアーヌさんの記憶を使ってそう。

 いや、雰囲気で。


『仰る通りだとしても、我が国の制度上、私にそこまでの決定権はないのです』


『その決定権のある人間が真っ先に来なかった時点でレギウムが我々をどう考えているかわかりました。いいですか? 私たちは勇者に襲われ、その力を思い知った上で、一万人の返還のため戻ってきたのです。私たちは命を賭して他国の国民を帰そうとしている。でもきっと後日あなたがたはこう発表することになるのでしょう。勇者様が悪逆非道の魔王を撃退、と』


『あなたがたになんらかの見返りがあるように配慮するように伝えさせていただきます』


『まあ、すばらしい。なにひとつ約束しないお手本のような受け答えですわね。民主主義というものになると政治家たちというものは責任を回避することを覚えなければならないようですわね』


『いくらでも拝聴いたしますが、時間が有限であることをお忘れなく』


『ああ、別にあなたに話しかけていたわけではありません。急ぐならどうぞ』


 男は慌ただしく荷物をまとめて談話室を後にする。

 シルヴィから一通り話を聞いた俺は、両手を組んで唸った。


「うん。俺には政治がわからん」

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