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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 36

 商店、というか百貨店を出た俺たちはセリュールさんの案内で工場へと向かっていた。


 途中の路上で新聞売りを見かけ、俺は気付く。


「あれ、新聞があるなら活版印刷があるんじゃないのか?」


「活版印刷、ですか?」


 リディアーヌが首を傾げる。セリュールさんもわからないようだ。セリュールさんの場合は、適切なレギウムの言語に置き換えられなかっただけかもしれない。


「さっき金属版を使った印刷の話はしたよな。その金属版を小さな棒状に区分けして、一文字ずつ並べられるようにしたものだ。つまり金属を彫らなくても、並べ直すだけで文章を大量に印字できる」


 そういえば前世では輪転機という言葉があったっけ。


「その金属版を円筒状にして紙を挟むようにして回せば、紙を流すだけで大量印刷が可能になるよな?」


「疑問形なのにはなにも言いませんが、並べ直すのに手間暇がかかりませんか?」


「彫るよりは楽なんじゃないか? 書体も安定するだろうし」


「なるほど。そう言われれば、この新聞とやらの書体は一文字ずつ独立しておりますわね。私たちの書き文字とは大きく異なります」


 そうだね。フラウ王国で貴族が文字を書くというと筆記体しかない。一文字一文字独立した形はあるものの、文章にするときには必ず繋げて書く。そういうものだし、その美しさを貴族たちは競う。

 前世風に言うのであれば、美しい筆記体でなければダサいのだ。


「レギウムにも筆記体はありますよ。ただ若い人はあまり使わないようです」


 セリュールさんも若く見えるけどな。


「便利さが美しさを駆逐する例ですわね」


 リディアーヌはそう言って辺りを見回した。


「歩きながらで構わないので、時々立ち止まってもよろしいですか?」


「もちろんです」


 セリュールさんが請け負う。


「シルヴィ、念のため守ってください。ネージュさま、周囲の警戒をお願いします。旦那様は……なにもしないでくださいませ」


 扱い酷くない?


「リディアーヌさん、なにをされ……」


『こんにちは。あなたはいま幸せですか?』


 セリュールさんが問う前にリディアーヌは町行く人に突然声をかけた。レギウムの言葉なのでなにを言っているのか俺にはわからない。


『はい? えっと、宗教ですか?』


 白い肌の人から話しかけられたということもあってか、その通行人の女性は目を白黒させて、戸惑っている。


『いいえ、違います。あなたは今の生活で幸せを感じることがありますか?』


『そうですね。美味しいものを食べたときですか?』


『ありがとうございます。参考になります』


 リディアーヌは頭を下げて戻ってくる。


「リディアーヌさん、いきなりなにを?」


「ちょっと確認をしてみたくて、道すがら何度も声をかけると思いますが、どうぞおかまいなく」


 おかまいなく、というわけにはいかないんだよなあ。

 俺たちはレギウム連合国にとって隣国の要人である。そしてレギウム連合国は帝国から湧き出した亡者の軍勢によって軍と町をひとつ滅ぼされているのだ。

 つまり?

 セリュールさんの胃に穴が空いちゃう!


「リディアーヌ、目的を言ってくれないと、なんというか、困惑するんだ」


「そうですわね。世論調査のようなものです。幸福度調査といえばわかりやすいでしょうか……」


 うーん、前世でもあったな。幸福度調査。

 あれ、妙にうさんくさいと思ってた。


『あ、すいません、そこいくお方、あなたです。あなたは今の生活で幸せを感じることはありますか?』


『悪いね。急いでいるもので』


 なんかよくわからないけど、リディアーヌさん、避けられてる。

 まあ、世情的にも白人と仲良くおしゃべりとはいかないんじゃないかな。


 その後もリディアーヌは道行く人に唐突に話しかけ続け、それは工場に到着するまで続いた。


「それで結果はどうだったんだ?」


「サンプルが少ないのでなんとも言えませんが、高いとは言えませんわね。フラウ王国の王都で聞いたときのほうが反応が良かった気がします」


「それは人種が同じからというのもあると思うよ」


 誰もがリディアーヌのように人々を平坦に見られるわけじゃない。


「いえ、その差を考慮した上で、やはりまだ低いな、と」


「サンプル数不足ではありませんか?」


 と、セリュールさんが問う。


「可能であれば他の統計データも拝見したいところですが……」


「公開されているものについては、取り寄せておきます」


 セリュールさんの仕事がまた増えちゃった。


「それでレギウムの幸福度がどうして知りたいと?」


「レギウムは王国や帝国に比べて遙かに先進的な国です。進んだ技術があり、より人権意識が高く、社会制度も優れている。そうですわよね?」


「はい。事実そうですね」


 リディアーヌの言葉をセリュールさんは真っ直ぐに受け止めた。


「私は文明の発展は人々を幸福にすると思っていました。だからレギウムの技術や、社会制度、社会規範などに興味がありました」


 過去形? つまり今はそう思っていないということか?


「ですが、レギウムの国民たちはフラウ王国より幸福ではない、誤差があるとして同程度にしか幸せではないのです。これはつまり技術の進歩や、社会制度、社会規範は人々の幸福に寄与しないということです」


 そうかなあ?

 少なくとも技術的に劣っていて、社会制度が弾圧的で、社会規範がろくにないよりは、王国やレギウムのほうが良いと思うけど。


「旦那様、今夜の会合から同席をお願いしてもよろしいですか?」


「構わないが、口は挟むなとかそういう感じ?」


「はい。そうです」


 やっぱりそうなんだ。

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新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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