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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 34

「同じ絵柄の箱がたくさん並んでると圧倒されるわね」


 シルヴィが商品棚を見ながら言った。

 一行はそれぞれに興味のある商品を挙げたが、バラバラに行動するわけにもいかず、全員で揃ってひとつひとつ回っている最中だ。


「あ、同じ絵柄。レギウムには印刷技術があるのか」


「王国にも木版ならあったじゃない」


「多色刷りはできないだろ。どうしても職人がひとつひとつ筆で塗る部分があった。セリュールさん、これは金属版ですか?」


「すみません。あの、印刷については詳しくなくて……。後日調べて回答いたしますね」


「なんか、すみません……」


 セリュールさんは官僚だし、そういう技術系のことは専門外っぽいな。

 本職の通訳でもないし、わからないことがあって当然だ。


「多分、一色ずつ金属の版があって、枠に合わせてひとつずつプレスするんだと思うんだよな」


「ものすごく手間じゃない?」


「相当に機械化されているんだと思う。動力はどうしてるんだろう……」


「機械化?」


「王国にも製粉水車はあっただろ。あんな感じで仕組みを使って自動化するんだ」


「じゃあ水車なんじゃない?」


「この平地でそれだけの流れがあるかなあ?」


「結局どういうことなんですか?」


 アレクサンドラが聞いてくる。結局もなにも、たぶん途中もわかってないと思う。


「機械化はある仕事を終わらせるための人間の手間が格段に減る。人員も少なく、時間もかからない。大量生産の第一歩なんだ」


「そんなに作ってどうしますの?」


「商品ひとつあたりのコストを下げられる。つまり価格も下げられる。ライバル企業に対して優位性が得られるだろ。同じ品質ならみんな安いほうを買うし」


「そんなの考えたこともないですわね」


 そういえばアレクサンドラは帝国皇女だった。あれ、この場にいる人間で王国や帝国の一般市民の生活を知る者はいないのでは?


「アンリ、王国では選択できるほど商品があふれているわけではないわ。店で注文するときも、なにが欲しいかを店員に伝えるだけで、どこで作られたなどまで気にかけはしないし」


 さすシルヴィさん。

 魂喰らいの影響で王国平民の知っているようなことならなんでも知っている。


「その違いからわかるのはレギウムは物資に余裕があるということだ。客はいくつかある選択肢の中から、自分が欲しいものを選べる。すると競争原理が働く。作り手は努力してより良いものを、より安く提供しなければ見向きもされなくなる」


「旦那様が領地でやろうとしていたことの先の先ですわね」


「まあ、そうなるか」


 なんで知ってんのよ。フィラールが漏らしたんかな?


「とにかく競争は開発を加速させる。最適化、自動化が行われ、場合によってはブレイクスルーが起きる」


「しかしそれは全体の利益のために、一部を切り捨てることにはなりませんか?」


「どういうこと?」


「つまり競争についていけなくなった負け組は大人しく舞台から退場してくださいということですよね。王国のように競争がなければ細々と生きていけた生産者が、レギウムでは泣きを見ることになるのではないかと。まるで全体主義ですわね」


「全体主義はちょっと意味合いが違うんじゃない? それは政治体制の話になる」


「ええ、ですから『まるで』と言いました。政治体制としては個人主義なのに、経済が全体主義では、おかしなことになるような感覚があるのですよね。うまく説明ができませんが」


「競争原理はどちらかというと個人主義的な要素だと思うんだけどな」


「ですが、仕組みの目的としては技術開発の促進なのでしょう?」


「経済の活性化もある。商売が活性化すると税収が増えるから国にとってもメリットがある」


「聞いてて思ったのだけど、もしかしてアンリの言ってるのは職業選択の自由がある前提の話なんじゃない?」


 シルヴィが商品パッケージを手に聞いてくる。


「え? それはそうだけど」


「王国には職業選択の自由はなかったわよ。正確に言うと権利のない仕事はできなかった」


「権利のない仕事?」


 アドニスのような田舎からいきなりピサンリの領主邸、そして王都の学院へと進んできた俺は仕事というものをあまり知らずに生きてきた。


「旦那様はご存じありませんでしたのね。例えば農家の子が商人になりたいと家を飛び出しても、いきなり商人になることはできません。その子は商売をするための権利を持っていないからです」


「その権利というのはどうやったら得られるんだ?」


「仕事にもよりますが、数年からもっと長い期間、その仕事をする必要があります」


「卵が先か、鶏が先かじゃないか」


 服を買いに行く服がない、みたいなことになってる。


「ですから、一般的に家を出た子は実績を積むためにやりたい仕事の権利を持っているところに丁稚とか弟子として雇われるのです」


「ああ、なるほど。そうして下働きをして権利を得るのか」


「厳密にはそうでもないですが、そういうことにしておきましょうか」


 説明を諦められたな、これ。

 本当はなにかいろいろとややこしい条件があるのだろう。


「かと言って条件を満たしていれば無制限に権利が発行されるわけでもありません。商売人が乱立して市場を荒らされても厄介ですし、辞めた人が返上した権利を、次の誰かにという感じで回っていますわね」


「政策として競争を起こさないようにしているのか。じゃあ俺が領地でやったのは……」


「聞いた限りは農業の活性化ですから、特に問題のある範囲だとは思いません。特に地方の交易路整備はなかなか進んでいませんから」


 まあ、領地も領民も捨てて帝国に亡命したわけで、俺が責任を感じるというのも、逆に無責任かもしれない。今更、領民になにかができるわけではない。


「ですが私が心配しているのはその機械化というものが進行すれば失業者が大幅に増えるのではないかということなのです」


 リディアーヌは真剣な顔でそう言った。

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バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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