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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 26

 初日の交渉が終わったリディアーヌたちと合流する。

 帝国側の意見をまとめる、ということでレギウム士官たちには退席してもらった。


 リディアーヌは珍しく姿勢が崩れ、椅子の背もたれに体を預けている。

 指先で目と目の間を揉んでいる。

 いずれも普段のリディアーヌには見られない姿だ。

 政治案件は得意なはずだけど、それは王国王女としてだ。今回の交渉は大変だったんだろう。


「お疲れ様。さすがに大変だったか」


「旦那様。そうですね。主に女帝陛下がワガママだったので」


 あ、そっち。言語とか政治の難しさではないんだ。


「リディアーヌ様、私には帝国皇帝として退けない線というものがあるのです」


 アレクサンドラが毅然と言うが、リディアーヌは眉間の皺を深くした。


「現実を見てください。帝国は事実上崩壊。あなたの擁する帝国民とはつまり百人程ではないですか」


「98人です。我が臣民です。数を正確にお願いします」


 これについてはいつもアレクサンドラを揶揄っているリディアーヌも姿勢を正した。

 リディアーヌは普段こういうミスをしないから本当に疲れているのだろう。


「失礼しました。陛下。98人の生存を最優先に考えるなら、これ以上敵対国家を増やさないでください。特に連合国は我々より遥かに優れた技術を持っているのですから」


「戦いになっても負けませんが?」


「そういう内心が滲み出ているから、交渉がうまくまとまらないのです。武力外交は相手に圧がかかっていなければなりません。しかし彼らは我々に対する評価を定めきれていません。武力で威圧するには足りないのです」


「それならば――」


「アレクサンドラ」


 俺はアレクサンドラの言葉を遮る。

 口にした言葉はその人を変えていく。

 なんでも思ったことを口にしていいというわけではないと俺は思う。


「レギウムを攻撃すれば、そのさらに向こう側の国も敵に回る。武力を振りかざしすぎると、世界を滅ぼすか、滅ぼされるか、どちらかになるんだ」


「私は……、いえ、アンリ様がそう望むのなら」


 アレクサンドラ自身はまだ世界を滅ぼしてもいいという思いが強いのだろう。

 彼女の望みをまだ叶えていないのだから、それも仕方がない。


「旦那様」


 そう俺を呼んでリディアーヌがぐいと頭をこちらに突き出した。

 俺はその頭を手で撫でる。優しく、慈しむように。


「お尻にするみたいに叩いてほしかったんですけど」


「うわ、引くわー。私にはそういうのしないでよ」


「してないよ!」


 シルヴィが壮絶に勘違いしたので、俺は慌てて否定する。

 夜のリディアーヌは意外にというか、至ってノーマルだよ。

 優秀すぎるがゆえに、王位継承権順位が低いにもかかわらず期待を寄せられていたリディアーヌは、こういうキャラで道化を演じて、王の器ではないと思わせる癖ができているんだろうと思う。


「それじゃまだまだかかりそうか?」


「いいえ、大枠は決まりました。すでに具体的な時期などについて詳細を詰めている段階です」


 さすがのリディアーヌさんだった。

 二国間のファーストコンタクト的な交渉を一日で、そりゃ疲れるわ。


「まずは生存者の解放ですが、ニニアエを利用します。ニニアエの住人が一番多そうですし、彼らが再び亡者になる可能性がありますから」


 うん。俺の考えと同じだね。


「第一軍はニニアエまで進軍し、駐屯します。生存者の中には第三軍の構成員も多そうですから、順次第一軍は後退し、ニニアエの防衛は第三軍の生存者が担うことになります」


 地理的にニニアエを攻撃できるのは帝国軍くらいだ。

 山賊への対処なら、第三軍の生き残りだけでもなんとかなるだろう。

 そもそも亡者の軍勢が通った後に山賊が生き残ってるのかって話ではあるが。


「生存者が亡者に変わらないことを一年をかけて検証し、その後、デラシネに向けて交易路を敷設します」


「交易路を?」


「亡者に鉱石を掘り出させ、レギウムに輸出します。賠償金ですね」


 新聞に書いてあったと聞いた、帝国は財産で賠償するというやつか。

 なるほど、確かに鉱山も帝国の財産だと言えるだろう。


「デラシネに常駐させるレギウム人はできるだけ少なくします。基本的には亡者がニニアエまで鉱石を運ぶことになるでしょう。レギウムはかなり抵抗しましたが、なんとか認めさせました。交換条件として交易路の敷設は帝国側でやることになります」


「まあ、亡者を労働力と考えればそれほど難しくないか」


「旦那様も手伝ってくださいますわよね」


「やれと言われたらやるけど」


 土を操作して道を作るのは、そりゃ魔法のほうが早いだろうしな。


「それでもレギウムから人を招く必要はあります。我々は鉱石の目利きができませんから。レギウムは思うがままに帝国の鉱山を蹂躙できますね」


 なるほど。金銀ならともかく、例えばボーキサイトのような帝国側の技術力ではまだ使い道のない鉱石を、レギウムが欲している可能性もある。

 こちらが価値が分からないのをいいことに買いたたかれるだろう。


「俺たちが抱えていても使い道がないものだ。ここは景気よく放出しよう。鉱山の権利ごと持って行かれたなら面倒だけど、あくまで産出物での支払いなんだろ?」


「そうですね。実際に鉱石をどれほどの量か、あるいは期間、レギウムに融通するかを話し合っているところです。当然ですが、交易量がまだわからないので、確定させることが難しくて、なかなか進みませんわね」


「そこは曖昧にしておいてもいいんじゃないか? 十年から二十年の期間で、とか、後に決められるようにしておくとか」


「それって将来の戦争原因になりませんか?」


 俺は唸る。

 うーん、なりそう。


「ここは駆け引きのしどころです。どちらも何がどれほど掘れるのかわかっていないのですから」


「その状態で期間の定めを作っちゃうの? 調査期間を設けたほうが良くない?」


「私はそのつもりだったのですが、レギウム側が成果を急いでいるようで」


「あー」


 民主主義の弊害だなあ。

 議員の任期に定めがあるから、その間に成果を出さなければならない。

 圧倒的な人気でもないかぎりは、どうしても視野が短期間的になりやすい。


「与党の人気がないんだっけか。とは言っても使節団は与党の人が多いだろうし、成果を急ぐのも当然だなあ」


 俺がそう呟くと、リディアーヌが半目で俺を見上げた。


「旦那様、レギウムの政治に詳しすぎません? 何か隠しておられませんか?」


「セルヴィスくん、俺の担当士官から話を聞いただけだよ」


「そうですか……」


 その目はまだ疑ってますね。

 まあ、前世のこととかリディアーヌには隠してるからしゃーないけど!

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