暁の星 15
うう、お婿さんにされてしまった。
そもそもリディアーヌの外見は俺の好みにドストライクなんだからさ、誘惑されたら勝てるわけがないんだよ。
夜はデラシネに戻って色々やつつもりだったのに、初日から計画が総崩れだよ!
感想は、聞くな。
リディアーヌは王女としてそういう教育も受けていたわけで、童貞をこじらせている俺がどうなるのかというと、とことんまで絞り尽くされただけなんだ。
最後の最後まで逆転もわからせもなかったよ。
良いか悪いかなら、良いに決まってんだろうが。最高の夜だったわ!
ただ童貞だけじゃなくて、色々失っちゃったよね。ピュアとか。あ、それ童貞か。
げっそりとして朝食の場に現れた俺を見て、誰も何も声をかけてこなかった。
そりゃ気まずいよね。昨晩ハッスルしたのが目に見えてるもん。
リディアーヌさんも結構お疲れだ。というか眠そう。朝まで頑張ったもんね。俺も眠い。
俺が遅れてきたため、朝食はアレクサンドラが亡者の配置転換で運ばせたようだ。
俺の収納魔法のように出来合いの料理をどこかに保存しているわけではないから、保存できる食料品を材料に何かを作らなければならない。
今朝は麦粥のようだった。
どんなものかと現代日本風にいえば水多めで茹でたオートミールだ。
味の決め手は一緒に入れる野菜や肉、そして調味料である。
茹でるため多少痛んだ野菜でも見た目で分かりづらく、この地方の平民の主食であると言っていい。
小麦は収穫量から割合を税で持って行かれるけど、大麦は課税する収穫量として算定されたないんだよな。
裏技というほどのものでもなく、貴族が平民を生かさず殺さずに搾取するための最低ラインとして用意された救済策なんだろう。
でもアドニス村の場合は畑を作るようなスペースが無くて主食というと山菜と塩漬け肉のスープだった。
帝国も事情は似たようなものだろう。
略奪の歴史が農地の維持をさせなかった。
農業とは何年もその土地に根ざしてようやく実りを得るものだ。
すぐに奪われるような環境下で農業は発展しない。
それでもアレクサンドラが麦のスープを作ったということは、彼女が日常的にそういうものを食べていたということかもしれない。
味は、あれだよ。いくら麦粥を知っていたとしても、作り方まで知っているわけではないだろうし、ましてや味付けのことなど知るはずもない。
「苦い朝ね……」
シルヴィ、それは味の話かな? それとも気分の話かな?
とにもかくにも腹を満たした俺たちはレギウムへの旅を再開する。
いや、正直、自然の地形というものを舐めてたわ。
これを切り開いて道を作ってきた人間ってすげーなとしか言えない。
山歩きに関してはアヴィータさんの知見に助けられることが多かった。
聞けば行軍訓練として未整備の山間部を進む経験が何度かあったのだという。
死者も出る過酷な訓練だが、乗り越えることで実力と自信が身につくという。
「そういう意味ではアレクサンドラ陛下とアンリさんが同行していると訓練にはなりませんね」
これでそうなのぉ?
「進むべき方向を見失うことなく、困難を軽々と乗り越えられる。こんなのはピクニックですよ」
まあ、確かに迷う恐れも、危険を感じることもない。
何気にネージュやシルヴィが魔物を排除しているんだけど、さては気付いてないな。
「この辺りの魔物は手強いわね」
「王国とは違う?」
「王国自体、ほとんど魔物のいない地域だしね。大森林でも冒険者を配置した程度でアドニス村を守れていたそうじゃないの。ここの魔物は普通の冒険者には荷が重いわよ」
ということはそれも帝国と連合国を隔てていた要害のひとつ、ということになるんだろうか。
「帝国軍は精強で知られているけど、その評判も騎兵が中心だし、連合国には本当にちょっかいをかけるくらいしかできてなかったんじゃないかしら?」
「そうですね。侵攻と呼べるようなものは記録にありません」
なるほどなあ。だからこそ前皇帝は俺を欲しがったわけだ。
「アンリ、そろそろ野営の準備をしたほうがいい」
ネージュがそう言ってくる。
確かにこの辺りは足場もいいし、プレハブを出すにはいい場所だ。
だけどまだ時間が早くない?
まだ日も傾いていないよ。
「順番で負けた分、時間で取り戻す」
いや、なに言ってんのこの子。
「ネージュ、リディアーヌ様が懐妊するまで私たちはお預けよ」
シルヴィがネージュの勘違いを正す。
というか、俺も勘違いしてました。
てっきり今晩はネージュの番かなあって。
そうか、リディアーヌが一番先に子を産まなければならないということは、そういうことになるのか。
え? これから毎晩?
「旦那様、ネージュ様もこう言っていらっしゃいますし、早速と参りましょうか。ちゃんと当ててくださいね」
ただひとりに対して愛情と恐怖と興奮と後悔が同時に押し寄せてくるなんてことがあるんだね。
俺はまた少しだけ賢くなった。




