暁の星 14
原生林の中を俺たちは進む。
まったく人の手が入っていない森は、驚くほどに歩きにくい。
全員が長袖の長ズボンに着替え、深いブーツに手袋をした。迫り出した枝が顔に迫ることが何度もあったので、つばのある帽子を全員が被った。
今の俺たちを見ても、まさか帝国女帝や、元王国王女が混じった集団だとは思わないだろう。
一番懸念されていたのはリディアーヌの体力だったが、身体強化魔法と回復魔法のごり押しでなんとかした。つまり俺と同じです。
もはや人外域に達しているシルヴィやネージュ、そして魔王としての性能を持つアレクサンドラと比べると、いくら軍人として鍛えられているからと言っても、アヴィータさんの肉体性能は劣る。
彼女にも身体強化魔法が必要だった。
ま、この程度で魔力が問題になることはないよね。
そう言えばネージュやシルヴィと同じように俺も黒い宝石が絡んだ存在であるはずなのに肉体が強化されていないのは何故だろうか?
クララもそんな感じだったから、魔法を得ると肉体的な強化は得られないのかもしれない。
「これが魔法、ですか。話に聞く勇者様の力とはまるで対極ですね」
「対極とは?」
「あくまでおとぎ話のようなものですが、勇者様の力は個の武を突き詰めたものです。個人の力の行き着く果ての果て。勇者様は支援を必要としません。個人でどのような危機にも対応できるのが勇者様なのです。一方、アンリさんは仲間への支援を行えますよね。個の武もあるのでしょうが、収納魔法といい、運用の幅が広い。狭く深いのが勇者様、広い範囲をカバーできるのがアンリさん、ということです」
うーん、そうかなあ。俺は支援もできるけど、本気火力が通じないのは根本的に魔法無効のボーエンシィ機関くらいやで。
「勇者という存在については知らないけれど、アンリは個の武という感じではないのは確かね」
シルヴィの意見ではそうらしい。
「私であればアンリの魔法は対処できると思う。むしろクララのほうが怖いわよ」
そこがよく分からないんだよな。
クララが魔法を使うところを俺が見てないというのもあるんだろうけど。
「光魔法とか避けられるの?」
「むしろ避けやすいほうじゃない? あれって狙って撃ってるでしょ。狙うという意思が挟まる以上、それを読んだら避けられるわよ。正確に当たるのも避けやすいわね」
銃弾を避けるんじゃなくて、銃弾が飛んでくるという予測自体を避けるって話?
なんかで聞いたことあるな。
「じゃあ空間ごと制圧するような広域魔法なら?」
「その手の魔法って即効性と威力が薄いでしょ。たぶん、斬れる」
「斬れる?」
「まるごとは無理だけど、自分の身を守る分くらいならね」
うーん、シルヴィさんが何を言ってるのか全然分からないぞ?
「だから勇者というのとアンリは組み合わせるなら相性抜群だけど、敵対すると相性が悪い。そんな気がする」
「世界の危機に対抗する存在なら味方のはずなんだけどな」
さしあたって世界にとって最大の危機はボーエンシィ機関なのだから、そういう意味では共闘ができるはずだ。
と、文章に書き起こしてみると雑談しながら楽々進んでいるように思えるだろうが、実際は倒木を乗り越えたり、崖を迂回したり、湿地を凍らせてその上を進んだり、魔物と戦ったり、もう色々起きすぎていちいち話せないレベルなんだよなあ。
なんなら一面すべて凍らせて凍土にしながら進んだほうが楽じゃない?説が出たほどだ。
流石に自然破壊が行き過ぎるので俺が反対したけれど、この世界の人たちにはまだ自然保護という概念が、いや、アヴィータさんにはありそうだけども。
「そろそろ野営の準備をしないと日が暮れてしまいます」
アヴィータさんからの進言もあり、俺たちは今日の行程を終了する。
「野営道具は収納魔法に?」
「野営というか……」
俺は周囲の地面を操作して一定の広さの土台を作る。
「収納できる建造済み住居を用意してみた」
土台の上に小屋を出現させる。
収納魔法は床に固定されているものを収納できない。のであれば、床に固定されていない小屋を作ればいいのだ。
デラシネの住居問題を一時的に解決する手段として用意していたけど、父さんの建築が予想より早かったから出番がなかったよね。
「一応二つ出して、と」
「じゃ、そっちがアヴィータとアレクサンドラ。こっちはアンリとその妻たちで」
ネージュが断言するけど、それ明日からなんか気まずくならない? 大丈夫?
アヴィータさんからはなんか蔑むような視線を受けた気がするけど、特に反対意見は出なかった。
まあ、夫婦だし当然そうなるか。
今回用意してあったプレハブは四人家族を想定しており、間取りとしては2DKと言えばいいのだろうか。
ベッドは四つ用意してあるから、まあ、問題はないでしょ。
「で、誰がアンリ様と同じ部屋で寝るのですか?」
「私」
「ネージュはそういうと思ったけれど、ここはリディアーヌ様じゃないの? 一応、まだ第一夫人ではあるでしょ」
「しかし私はもう身分を失いました。お二人の、特にネージュ様との関係性に割り込めるとも思っていません」
俺のいる前でそういう話を始めるの良くないよ。君たち。
「しかしリディアーヌ様、あなたは王位はともかく王国の民を見捨ててはいないのでしょう?」
「あら、まあ、そんなに分かりやすかったですか?」
「さりげなく帝国領土の割譲をアレクサンドラに認めさせていましたし、そうではないかな、と」
あれってそういうことなんだ。
全然分かってなかったよ。
「どのような形にせよ、リディアーヌ様の身分が復権したときにアンリの第一子がリディアーヌ様以外から生まれているのは禍根を生じかねません。というわけで、今夜はリディアーヌ様がアンリと一緒の部屋で寝てください」
「シルヴィ、横暴」
「私は最後でいいから、ね。我慢して。ネージュ」
「シルヴィが言うなら……」
そうは言うけど、この雰囲気でなんかそういうことするの?
無理だよ! プレハブの壁は薄いんだよ!
止めて、押し込まないで。筋力で俺が敵うわけないだろ!




