暁の星 13
さてデラシネのことはフィラール、父さん、アレアスくん、そして以前からの村長に任せて、俺たちは帝国最東端の町だった場所に転移した。
レギウム連合国と向かい合う最前線の町だが、城砦化されていない。
連合国は帝国への侵攻を仕掛けたことはないというアヴィータさんの言葉を裏付ける証拠だと言える。
そして帝国側がそれを認識していたということでもある。
アヴィータさんを収納魔法から出して目覚めさせた。
部屋が変わっていることに驚いている様子だったけど、町の位置が全然違うんだよな。
「ここは帝国最東端の町です。ここから徒歩でレギウム連合を目指します」
飛翔魔法も転移魔法もアヴィータさんに開示はできない。
レギウム連合でもまだ航空機は開発されていないようなので、これらの魔法は軍事的に価値がありすぎる。
また道も整備されていないため、手つかずの森林地帯、山岳地帯を抜けていくことになるだろう。
かなり厳しい旅になると見ていい。
「道案内はできませんが、ある程度東まで亡者を潜ませています。行くべき先を見失うことはありません」
とアレクサンドラ。
黄泉返りの魔王は配下の亡者がどこにいるのか知覚できる。
「ただ支配地域とはなっていないので再配置ができません。亡者が倒されたら標を失います」
「支配地域はどの辺までなんだ?」
「帝国が主張していた国境線です。ただ前皇帝の主張する国境なのでレギウム連合とは意見が異なるでしょう。現在は亡者の軍勢が国境を守っていますので、実効支配していると言えます」
「それで潜伏させている亡者はどの辺りに?」
アレクサンドラはアヴィータさんをちらっと見たが、正直に言うことにしたようだ。
「一番近いレギウム連合の町を見下ろせる高台に。ただその町は全滅していますから、私たちの用向きには合わないでしょう。しかしそこまで辿り着けばそこから先は道が整備されています」
「馬車が使えるということか」
「そうですね。それにアヴィータ女史の知見が役に立つでしょう」
「町が全滅、ですか……」
アヴィータさんは呆然と言う。
彼女は帝国の軍事力を甘く見ていたから、亡者の軍勢とは言ってもレギウム連合軍が敗北して、町が攻められるということまでは実感していなかったのかもしれない。
レギウム連合が全力で守りに徹していれば、町を守り切れた可能性はある。
銃と砲は平地での拠点防御に向いている。町を守るように展開して、うまく火力を使えば亡者を寄せ付けることなく撃退できたかもしれない。
だがレギウム連合は帝国の民間人を救出するために帝国に向けて進軍してしまった。
つまり火力が分散され、しかも銃の扱いにくい森の中に入った。
亡者が恐ろしい点はいくつもあるが、もっとも恐ろしいのは戦闘を経て増える、ということだ。しかも戦友の死体が敵として襲ってくる。
これを撃つのは『先進的』なレギウム連合の国民には難しいのかもしれない。
「町のどこからも煙が上がってこないですので、生き残りがいない可能性もあります」
とアレクサンドラ。
それを受けてアヴィータさんが頷いた。
「煙、つまり料理をしている者がいない、ということですね」
「ご慧眼です」
「アレクサンドラ、亡者の知覚を共有できるというのは聞いていたが、スケルトンの目は空洞だろ? どうやって景色を知覚しているんだ?」
俺はふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「そう言われると、どうやってでしょう? 私としては普通に視覚が共有されてくるのですが……」
「別にそれはどうでもいいでしょ。とにかくその町を目指す。どれくらいかかるか分かる?」
呆れたようにシルヴィが言った。
確かにどうでもいい話だったね。ごめんね。
「亡者の進軍ルートを私たちが真似ることはできません。よって私たちの進むべきルートも、移動にかかる期間も分かりません」
亡者は損耗を気にせずに進軍できる。
崖だって這い上がるし、危険でも躊躇したりしない。
俺たちが同じルートを真似できるのかというと、必ずしもそうではない。
「まあ、ある程度は魔法で支援できるから、基本的には直進しよう。崖や谷を迂回ということはあるかもしれないが、それ以外ではアレクサンドラの指示に従って進む」
シルヴィはむむむと唸る。
「それしかないか。レギウム連合軍は道なき道を進軍してきたということなのかしら?」
シルヴィの疑問にアヴィータさんが答える。
「森を突っ切る先行部隊と、森を切り開きながら進む本隊に分かれていました。私の支援大隊は本隊に属しており、物資の運搬などを担当していた隊です」
「後方部隊というわけね。それが亡者に襲われたということは、軍は壊滅か。それらがそのまま町に攻め込んだのね。守れないわけだわ」
後方部隊が襲われるというのは、軍事作戦として行われることもあるが、亡者の場合は事情が違う。
それはつまり本隊が全滅したということに他ならない。
「そうですね。私たちは根拠もなく負けないと思い込んでいました。大きな過ちでした」
「だが君は生きているし、一万人が助かった。なんとか無事に帰したい。協力に期待する」
「できる限りを」
そして俺たちは出発した。
俺たちの知らない世界への第一歩目を。




