暁の星 11
「妻が失礼をしました。こちらでも女性の権利というか、気持ちがもうちょっと理解される社会になればいいのですが、男社会の理屈は女性の感情とはうまく噛み合わないところがあるのかもしれませんね」
アヴィータさんが着替え終わると、俺はまず謝罪をした。
フラウ王国において女性がないがしろにされているというのは、前世の俺からすると事実で、そこは言い訳ができない。
リディアーヌの思想は聞いたことないぶっとんだものだったけどね。
「こちらとしてはレギウム連合国への繋ぎができる誰かを探しているだけで、別にそれはあなたでなくともいい。俺たちと一緒に行くのが嫌だというのなら、別の誰かを探すだけです。どうされますか?」
「それ自体は願ってもない話ですが、あなたが勇者様と同等の力を持つというのであれば、連合国へと案内することに一抹の不安を覚えてしまいます」
「どうすれば信用してもらえますか?」
「保護しているという同胞に会わせていただきたい。姿を見るだけで構いません」
それが難しいんだよなあ。
これはもう正直に話すか。
「保護したレギウム連合国人は私の魔法によって隔離された空間で眠っています。全員を起こすと収拾がつかなくなるかもしれません。安全を確保できないのです。数人ならこの場に呼べますが、それで納得していただけませんか?」
「分かりました。お願いします」
「では、まず着替えを。俺は外に出ていますので」
アヴィータさんはリディアーヌ用の服に着替えた。
まあ体格からいってそれしかないよね。他の二人が小っちゃいからね。
体格の話だよ!
変装用の平民が着ているような服を選んだということは、彼女は平民なのだろうか?
それともレギウム連合国ではもう貴族という階級自体が存在しない?
有り得る話しだ。
おそらくレギウム連合はフラウ王国より数百年は先の文明を築いている。
多くの場合、歴史はその時代で最先端を行く文明について記述されるが、移動手段に乏しい時代では地域によって文明には大きな格差があった。
この大陸は地理上の問題で東西が分断されている。
陸路においては北方においては山脈と森や凍土、中央部では蛮族が立ち塞がる。南方は砂漠と荒野だ。これを越えるのは容易なことではない。
一方、長距離を帆走できる船は存在するが、大陸は北側も南側も海路が切り開かれていない。
嵐と暗礁が船の往来を阻む。
結果的に大陸は東西で交流が発生していない。
フラウ王国は西部においてすら後進国と呼ばれ、文明発展度では遅れている。
ヒラシアメニク商業都市連合が西側に向けてフラウ王国の織物を購入するのは、遅れた異文化がエキゾチックだからだ。それが優れているからではない。
言ってしまえば大航海時代に、西洋が遥かに進歩した武器を使って後進国を一気に植民地化した、その『されてしまう側』がフラウ王国やアルブル帝国だ。
スペインに侵略されたインカ帝国みたいなもんだね。
幸いだったのは、あるいは不幸だったのは、アヴィータさんから話を聞くかぎり、レギウム連合は非常に先進的で、他国を侵略することをしないようだ。またその文化を保護するために過度の接触もしないという方針であるようだ。
そのためレギウム連合側から交流を目的とした接触が行われず、またアルブル帝国がレギウム連合の人々を魔族として排斥したため、文明の発展度の格差が埋まらなかった。
いつか飛行機が発明されたら状況は一変するだろうが、海路が封じられている以上、まだしばらくは今の状態が続いていたはずだった。
なぜ俺は自分たちの国家が世界の最先端にいるだなんて思い込んでいたのだろうか。
いや、情報が得られないということは、つまりこういうことなのだ。
「まるで手品を見ているようですが、これが魔法ですか」
アヴィータさんが空けたベッドに何人かの生存者を眠らせたまま出現させて、また収納するという作業を繰り返した。
「一斉に出すこともできますが、位置指定があやふやだと折り重なって事故が発生しかねません。また多くの混乱が生まれるでしょうから、しっかりと受け入れ体勢を整えてから彼らを解放したいのです」
「承知しました。協力を惜しむようなことはしません。それでも解放は町の外に施設を作って行いたいですね。不信を避けるには、まず疑われない状況を作っておくことが肝要ですから」
「そうですね」
人員を収納できる魔法があれば、以前にシルヴィにも指摘されたが、俺さえ町の中に入ることができたら、そこから完全武装の軍隊を展開できるということだ。
アヴィータさんがその魔法を町中で行使することを恐れるのは当然のことだ。
「ではこちらにも準備がありますので、アヴィータさんにはもう一度眠っていてもらいます。言いにくいのですが、こちらの人々はあなた方を恐ろしい存在だと思い込んでいるものですから……」
魔族だなんて呼称して、勝手に恐れていてごめんなさい。




