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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第6章 暁の星

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暁の星 4

 急ぎの案件がもうひとつあった。


 バルサン伯爵とクララの報告によって俺たちの裏切りは国王の知るところとなる。

 真実を公表すれば影響が大きく、国王がどう判断するか次第だが、俺たちはシクラメンで戦死したことになるかもしれない。

 そこはまあ、どうでもいい。


 問題は俺の家臣たちの扱いだ。

 特にフィラールは俺の右腕として領地を事実上運営している。

 アレアスくんも、その右腕として手腕を振るってもらっている。

 ダニエルくんはまあ、バルサン伯爵に預けてるから、大丈夫だろうけれど、先の2人は俺の裏切りを知っていたのではないかと疑われるだろう。

 疑われるだけならまだいい。

 彼らが適当な罪状をつけて処刑される恐れがある。


 王国はシクラメンを完全に失陥したわけではないとは言え、ほとんどの民や兵が失われ、その責任を押しつける生け贄の羊(スケープゴート)を求めるだろう。

 白羽の矢はフィラールとアレアスくんに突き立つ。


 そりゃまあ、俺のしたことで多少の犠牲が出るのは承知の上だ。

 だけど親しい人まで見殺しにはできないよな。


 望みの目はクララは俺の領地を訪れたことはないだろうから、王都から軍が彼らを拘束しに向かうのに、時間の猶予があるだろうことだ。


 というわけで、俺は翌朝すぐに領地へと転移した。

 すでに仕事をしていたフィラールとアレアスくん、それからこっちに転勤させていた獣人メイドのマルーに事情を説明する。


「本当に申し訳ない。できるだけ望むようにしたいと思う。なにか希望はあるだろうか?」


「ふむ、ではアンリ様、雇い入れの継続を」


「フィラール?」


「あなたに賭けたのですから最後まで付き合いますよ。そのデラシネには文官がいないのでしょう? 私が必要なのでは?」


「そりゃまあ。来てくれたら助かるけど、それは本当に王国を裏切る行為になるぞ」


「どうしたところでその烙印を押されるのであれば、いっそ実際にやったほうが心が傷つかずに済みます」


 おまえ、傷つくような人の心があったんか。

 いや、違うな。これはアレアスくんに向けた言葉だ。


「亡命したら家族が代わりに、となりませんか?」


 流石のアレアスくんもこの事態には顔を青ざめさせている。


「可能性はある」


 フィラールは誤魔化すようなことは言わない。


「だが残って自分が処刑されたからといって、家族が連座されることから逃れられるとは限らない」


 俺はフィラールに続けて、提案する。


「例えば君とその家族を一旦魔法で収納して、ヒラシアメニク商業都市連合に亡命させる、ということもできる。なんならもっと遠い国でもいい。時間を作って諸外国を巡ろうとは思っているんだ。そのついでになってしまうが」


 しかしアレアスくんは少し考えて、首を横に振った。


「……いえ、なんとか家族に累が及ばないようにします」


「そんな方法が?」


「父に離縁状を書いてもらいます。日付を以前にしてアンリ様にある程度距離を稼いでいただければ、不自然ではないタイミングで王都に書状が届くはずです。それで連座は避けられるかと」


「一応言い訳にはなるか」


 俺が裏切る前に離縁が済んでいたとなれば、筋が通るとまではいかなくても、共犯ではなかったということにはなる。


「そもそもリディアーヌ様が加担している時点で、簡単に家族を連座にはできないでしょう。私が言ったのはあくまで可能性はある、という話です」


 フィラールが補足した。

 そうなると後はもうアレアスくんとその家族の判断、ということになる。


「私はアンリ様の行くところについていきます」


 マルーがぴこぴこと耳を揺らしながら言った。


「そうしてもらえると助かる」


 なんせアレクサンドラにリディアーヌ、そしてネージュと生活能力に難のある人間ばっかりだ。メイド経験者がいるかどうかで生活は大きく変わる。


「では急ごうか。ここで最後にやっておくべきことはあるか?」


「今すぐできることはなにも。領民のことを考えると、書類も残した方がいいでしょう」


「事業の途中で名残惜しくはあるが、おそらく直轄領に戻るだろうな」


「問題は国王陛下のことが片付いた後に王家が荒れ、直轄領がどういう扱いになるか読めないところですね。かと言って民を連れて行くわけにはいきません。それをすると王国は攻めなければならなくなりますから」


 この国の民に住む場所を選ぶ権利はない。

 所属する国を変えるとなると尚更だ。


 他国の国民を拐かし、自国に巻き取るようなことをすれば、宣戦布告されて当然である。


「分かっている。ではシュテュアン子爵領へと向かおう。道中のことを考えると、2人には一度眠ってもらうのが都合がいいのだが、構わないか?」


「ベッドで横になりますか?」


「椅子に座ったままでいい。眠気が来ると思うが、抵抗せずに身を委ねてくれ」


「分かりました」


 2人が了承したので、俺は睡眠魔法で眠らせて収納魔法に入れてしまう。


 ……収納魔法に入れてあるシクラメンの市民をどうするかも問題なんだよな。


 まさにいま話した理由からデラシネでの受け入れは不可能だ。

 かと言って、今のシクラメンにはこの数の子どもや老人を受け入れる余裕などない。

 また住む場所を選べない問題から、適当な町に放り出しても流民扱いになってしまって、まともな生活など望めないだろう。


 真っ当なのはシクラメンに戻すことなんだが、うーん。

 シクラメンがいま誰の支配下にあるか、というのも絶妙に微妙でなあ。


 ガラットーニ辺境伯は今回の事変で生存が確認されておらず、臨時で統治していたリディアーヌも亡命した。

 現地に貴族がいないわけではない。

 帝国との戦争を睨み、王国西方北方から貴族たちが兵を連れてシクラメンに詰めており、結果的に生き延びた、あるいは復活した貴族は十数人いる。


 逆に多すぎるんだよ。

 これが1人だけなら、その人が臨時で統治すれば済むことだ。

 だが中途半端に数が多かったため、シクラメンの中央にある屋敷は、シクラメンの統治実績を得ようとして、それぞれが暗躍する伏魔殿と化している。

 とリディアーヌが言っていた。


 さらに亡者の撤退に乗じて、これを追撃しようとする貴族がいくらか現れて、同調する民を連れて出撃しているというのだから、状況は混迷を極めている。


 無力故に一時的に避難させる名目で俺の収納魔法に入れたような人々を、そんな場所に放り出すことはできない。

 ほとんどが子どもか老人か病人なのだ。


「社会が安定していて、福祉もあるような国があればいいんだがな」


 思わず独り言つ。

 これまで訪れた場所では共和国が一番それに近かったが、今のところ亡者が攻め滅ぼす予定だ。


 ヒラシアメニク商業都市連合か?


 それより遠い国となると言葉が通じない。

 かと言って、かの国には伝手がないんだよな。


 まずは順番に物事を片づけるか。

 シュテュアン子爵領へ、……転移ではいけないんだよな。

 面倒くさい。

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新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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