表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/186

黄泉返りの魔王 91

 全員の無事が確認できて俺はホッとする。

 誰一人失うことなく勝利できた。


 そう思ったのはどうやら俺だけだったようだ。


 穴から降りてきた四人はそれぞれに戦闘姿勢になる。

 その目線は俺から少し離れた、アレクサンドラに向けられている。


「みんな、待った。彼女とは話し合いをすることになった。最終的に戦うことになるとしても、今は交渉の途中だ」


「交渉?」


 そう聞き返してきたのはピエールだ。


「そいつが、その女が黄泉返りの魔王なのでしょう!? 世界を危機に陥れている元凶だ! なぜあなたは平然と隣に立っていられるのです!?」


「落ち着け、ピエール。交渉になるかもしれないことは事前に話していた通りだ」


「なぜ落ち着いていられるんですか!? あなたも見たはずだ。シクラメンの惨状を。今この謁見の間を見てください!」


 俺はピエールから目線を外し、アレクサンドラに向き直る。


「アレクサンドラ、各地に侵攻させている亡者たちの配置変更はできるか?」


「場所によりますね。配置変更の権能は支配地域でなければ効力が及びません。シクラメンは、支配地域とは言えませんね。交戦を止め、撤退させるようにすることはできますが、現地で亡者となった者も一緒に後退することになりますよ」


「それでいい。やってくれ」


「アンリ閣下! それは救える民を見捨てるということですか!?」


 ピエールの悲痛な叫び。

 彼自身が亡者から復活した生存者だから、この決定には思うところがあるんだろう。

 だけどシクラメンにあるのは、有限の物質化した回復魔法だけだ。

 それですら生者が命がけで亡者に振りかけてみなければ、相手が生存者かどうかの判別もできないのだ。


「ピエール。天秤に乗っているのはシクラメンだけではない。帝国の周辺諸国に留まらず、大陸、あるいは世界の明日がかかっているんだ」


「そこに閣下の家族が混じっているとしても同じことが言えますか!?」


「言うしかないんだ! いいか! シクラメンと引き換えにこの交渉が締結できるなら俺は頷くぞ」


 リディアーヌが犠牲になるとしても、だ。


「閣下はできるでしょう! あなたの魔法ならすべてを救うことだって!」


「魔法は万能ではない。むしろできないことのほうがずっと多いんだ」


「あの、例えば生存している亡者を復活させる、というのは黄泉返りの魔王にはできないのですか?」


 クララが聞く。


「亡者としての性質を奪い去ることはできますが、傷はそのまま残ります。苦しみ、死に至る者がほとんどでしょう。また生存者だけを狙って行えることでもありません。周辺の亡者はすべて消滅するでしょう」


「では、そうするべきなのでは? 無数の亡者より助かる可能性のある数人のほうが大切ではありませんか?」


 クララの問いにアレクサンドラは首を横に振った。


「亡者たちは私の配下たちです。それを必要以上に損耗することは、私の望みではありません」


「そう、ですか……」


 クララはすっと少し後ろに下がった。


「ピエールさん、私はあなた側に立ちます。私は黄泉返りの魔王を許すことはできない。ここで戦い討ち滅ぼすべき敵です」


「クララ?」


「分かっています。この選択がより多くの人を苦しめ、傷つけ、命を奪うことは。だとしても、それを行った者を放置し、のさばらせることは、私にはできません」


「クララ嬢、ピエール、時には自らの主張を飲み込まなければならないときもあるのだ。これには世界の命運がかかっている。黄泉返りの魔王がその矛を収めるというのであれば、ある程度の代償は必要だ」


「バルサン閣下まで!」


「私は当然アンリの味方に付く」


 ネージュが言う。


「私たちはシクラメンでの惨状を見たわ。それを止められるのだから、まずは交渉をするべきじゃない? 決裂する可能性だってあるのだから、殺し合いはその後でいいわ」


 シルヴィが結構物騒なことを言っている。


「では、まず場所を変えましょう。ここは、あまりにも交渉には相応しくない」


 アレクサンドラの言う通りだ。

 数百人の死体が転がっているここは確かに交渉の場に似つかわしくないだろう。


「彼らを埋葬はできないか? 亡者たちにそうさせるように命じることは?」


「そうですね。彼らは帝国の人々では無いと思いますが、それでも構いませんか?」


「今更分類もできない。そうして欲しい」


「分かりました」


 スケルトンたちが動き出し、死者を運び出し始める。

 それを確認して俺たちは移動する。


 クララとピエールはまだ納得できていない様子だったが、それでもこの場で戦いを始めるほど愚かではなかった。


 謁見の間から程近い別室、おそらくは会議室のような部屋に俺たちは入った。

 アレクサンドラが自然と上座に座る。

 俺たちは各々席に着いた。


「さて、ではまず確認しておきたいのだが、黄泉返りの魔王、アレクサンドラ女帝と呼んだほうがいいか?」


 バルサン伯爵が口火を切る。


「どちらでもお好きなように」


「分かった。交渉相手と見ている以上、敬意を払おう。アレクサンドラ女帝。あなたの目的はどこにあったのかを伺っても宜しいか?」


「いくつかの段階に分けることができるでしょう。まずは前帝国皇帝の首、これはもう達成されましたね。続いて王国国王と、共和国大統領には死んでいただかなければ溜飲が下がりません。その次に帝国の人民の皆殺し、それも達成されました。さらには王国と共和国の滅亡、連合国にも滅んで欲しいですわね。それが達成されたらそのまま版図を広げ、いずれ人類の抹殺を願っています」


 事もなげにアレクサンドラは言う。

 クララとピエールが明らかに敵意を見せるが、バルサン伯爵がそれとなく制した。


「交渉の席には着いたということは、どこかで妥協できる、ということで宜しいか?」


「現時点ではできません。まだ交渉は始まったばかりです。どうぞ私に妥協させてくださいませ。ああ、現時点でアンリ様は私の盟友として帝国に籍を移していただいています。それが交渉の席を設けるための条件でしたから」


「なにやってんの!?」


 シルヴィが声を上げる。

 まあ、そうなるよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ