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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 85 [魔法使いの戦い 1]

「アレクサンドラ女帝陛下」


 謁見の間にて、玉座に腰掛けたアレクサンドラに俺は話しかける。


「隣国の一貴族として陛下にご相談があります」


「言葉を発することを許しましょう」


 玉座のアレクサンドラが答える。

 今の彼女は装飾の入った衣装を幾重にも重ね着しており、それはアルブル帝国の伝統的な皇帝の着るような衣装に見える。

 自身を裏切った帝国への反逆を掲げた皇女の行き着く果てとしては、あまりにも皮肉だ。


「ここらで終わりにしませんか? もう充分です。帝国は滅んだじゃないですか。それ以上、何を求めるのですか?」


「まだ終わりではありません」


 超然とアレクサンドラは揺るがない。

 かつての自信の無い少女の面影は最早無い。

 そこにいるのは絶対者だった。


 全ての死者を統べる者。

 黄泉返りの魔王だ。


「王国と共和国への意趣返しが終わっておりませんから」


「それで陛下は何を得るというのです!」


「……」


 アレクサンドラは無言でしばらく俺を見つめた。

 そして目を伏せた。

 俺からの強襲など怖くもなんともない、というかのように。


 そして目を僅かに開き、俺からは目線を逸らして言った。


「あなたが言うべきだったのは『意趣返しとはどういうことですか?』でした。残念です」


「え?」


 逸らされていたアレクサンドラの瞳が真っ直ぐに俺を見る。

 視線で射すくめられる。

 その強さに俺は動けなくなった。


「私が王国と共和国に意趣返しをしたい動機をあなたはご存じだと自ら証明されたのです。あなたがなにも知らず、ただ私の暴走を止めに来た善意の人であれば、話を聞いても良かった。ですが、あなたは王国と共和国の謀略を知りながら、私を説得しにきた。それでは筋が通らない。私は三国の政略に巻き込まれた被害者です。それを知りつつ、私に矛を収めろと言うのであれば、国王と大統領の首を先に持ってくるべきでした。それが交渉に入る最低条件でした。ですから……、残念です」


「両者の首を持ってくれば、全てが収まるというのなら、やる覚悟はあります」


 王国と共和国を以後敵に回すことになったとしても、それで世界が救われるというのなら、俺は、やるぞ。


「いいえ、もう遅い。あなたの言葉には誠意を感じない。もしも本気で私に謝罪をしたいということであれば、まず首を持ってくるべきでした。あなたがしているのは交渉で、謝罪ではない」


「心からの謝罪が必要と言うことであれば――」


「必要だからする謝罪に被害者は価値を感じないのですよ」


「あ――」


 俺は思い出す。

 両親を轢き殺した運転手からの謝罪の手紙を。

 心証を良くするためだけに綴られた空々しい文字列を見て、被害者遺族が何を思うのかを。


 俺がしているのは、それだ。

 被害者の心に本当に寄り添うのであれば、厳罰をこそ望むべきなのに。


 罪を償うってそういうことだろ。

 ありのまますべてを開示して、被害者のために厳しい処分を求めるべきだ。


 分かっていたのに、なんで俺は!


「とは言ってもあなたが首謀者ではないことくらいは分かります。あなたは善良で愚かな人だから、こんなこと思いつきもしませんわよね。きっと後から知って苦しんだのでしょう。――でも、他人事だった」


「……俺が知ったのは、本当に今日で……」


「ええ、ええ、信じますとも。アンリ様。短い期間ではありましたが、寝食を共にしたのです。あなたのことを信じています。でも、あなたのお願いでも、これは聞けない。私は王国を、共和国を滅ぼし、死を振りまいて、拡大します。私が力尽き、朽ち果てる日まで、私は私の帝国による覇権を目指しますとも。それが私のやるべきことなのです」


「そんなことのために君を共和国に行かせたわけじゃない!」


 俺の叫びをアレクサンドラは静かに受け入れた。


「祈ってくれたのではないですか? 上手く行きますように、と」


「こんなことになるとは思わなかった!」


「そうです。まさにそのとおりです。こんなことになるとは思わなかった。私だってそうですとも。頭の足りない私たちは、いつも搾取される側で、被害者なのです。だから手に入れた力を振るって何が悪いというのですか。理論武装できない被害者は、加害者に殴りかかることすら許されないのですか? 違う、許す許されるじゃない。取り戻せないなら奪うしかない。同じものを。同じ苦しみを与えなければ気がすまない。そうしないと私が私を許せない!」


 どうして俺は加害者になってしまったんだ。

 なぜ気がつけなかった。

 気を付けていれば回避できた事態だった。


 俺は項垂れる。

 心を折られた。だって俺は彼女の気持ちが痛いほど分かるから。


「俺の命で収まるなら、足りないなら先に国王と大統領の首を並べてから、俺自身も君に差し出していい。ただそれで止まると約束してくれ。誓ってくれ。そうしたら、君の望むようにするから……」


 俺の謝罪の言葉をアレクサンドラは真っ直ぐに俺を見つめたまま聞いていた。

 そして頷いた。

 同意した。


「分かりました。あなたの誠意を受け入れ、交渉の席に着きましょう。でも国家元首二人はともかく、あなたの首はいらない。私があなたから欲しいのはあなたの妻からひとり。この場に来ている二人のうちひとりを選んで、私にください。意味はお分かりになりますわよね。黄泉返りの魔王に、妻をひとり選んで差し出してくださいませ」

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新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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