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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 84 [人外の戦い 4]

 クララが笑い声を上げたかと思うと、たがが外れたように魔法を使い始めた。

 それらは回復魔法ではなく、アンリの使う幻想魔法でも、実現魔法でもないように見えた。

 現実に穴を開けて自分の望みを押し込んでくるような、そんな乱暴な魔法。


 敵はそれを歓迎し、傷を負いながら笑っている。


 間断なく攻撃を仕掛け、敵に手傷を負わせているシルヴィも笑っている。


 一見すると仲の良い者たちによるじゃれ合いにすら見える。


 なんだこれは?


 ネージュにはまるで理解ができない。

 いま自分たちは命のやりとりをしているはずだ。


 自分は勝利条件を満たしたから別にいい。

 けれどシルヴィもクララもそうではないはずだ。


 失敗すれば終わり。

 一瞬で敗北へと転落する綱渡り。


 なぜ笑える?


 ネージュは自分で思っているほど変わり者ではない。

 彼女は人とコミュニケーションを取るには苦手だ。そしてそんな自分が嫌いだ。

 本当はもっとうまく人と関わりたい。


 エルフ種で、無口で、アンリ以外にはなにも興味が無くて、でも普通の人間だ。


 勝利条件を満たしたはずの自分だけが、必死に戦っている。

 苦しみながら死力を尽くしている。


 他の三人はなぜかこの状況を楽しんでいる。


 クララの参戦によって混沌を増した地獄のような状況を心から楽しんでいる。


 理解できない。


 これは世界の命運を賭けた戦いのはずなのに!


「つまり、アンタはただ戦いだけなのね!」


 敵の頭部への痛烈に見える一撃を加えたシルヴィがそう確認する。

 戦いながら彼女は敵から的確に情報を引き出している。


「そうだ。他の連中は知らんが、オレはただ強者と戦えればそれでいい。主とも戦ってみたかった。ああ、そうだ。オレは魔法使いと死力を尽くして戦いたい!」


 敵は平然と返事をする。

 この敵は攻撃が通る瞬間があるが、それ以外のほとんどの時間は攻撃が通じない。

 手数で勝負するタイプのネージュとは相性がいい。

 にもかかわらず、ネージュはさして戦力になっているとは言えない。


「遠からずのマステ、だったかしら? そっか、アンタの使っているのは卑魔法なのね」


 クララの放った炎を回避しながらシルヴィが二、いや、三撃。もしかしたらもっと。

 マステにダメージが通った様子は無い。


「卑魔法か。言い得て妙だな。そうだ。オレは至れなかったモノだ。だが劣っているとは限るまい。例えば殺し合いなら、どんな状況からでも殺せば勝ちということなら、オレが主に勝る場合もあるだろう」


「なるほど」


 なるほどじゃない。

 魔法使いに勝りうる存在?


 ――いや、手段を選ばなくていいのであればできる。


 魔法使い殺しの最大の要点は、いかに魔法を使わせないか、だ。

 魔法によって強化されていない魔法使いはむしろ非力だ。


 おそらくは魔法を使う能力が、才能という有限の大半を消費している。


 アンリもクララも肉体的に強いとは言えない。

 アンリが接近戦もするのは魔法によって身体能力を底上げしているからだ。

 そしてそれでも大して強くはない。


 シルヴィはおろか、ネージュにだって敵わない。


 例えば時間が限られていて、お互いに視認できないほど遠くから戦闘が始まれば、魔法使いが一方的に勝つだろう。


 だけど時間の制限を撤廃するだけでそうはいかなくなる。

 魔法使いに接近できるタイミングまでは逃げ続ければいい。

 逃げ切れたら、いつか魔法使いは追うことを止め、どこかで油断する。

 それまで待っているだけでいい。


 それを戦いと言っていいのかは甚だ疑問ではあるものの、最終的に殺せばいいというだけなら達成できるということだ。


「もっともオレが欲しいのはそういう勝利ではない。正面から武の駆け引きで勝利すること。それこそがオレの望みだ」


 つまり難敵に挑んでこそ、という性質であるらしい。


 ネージュにはまるで理解できない。

 それで何かを得られるとしてもリスクが大きすぎる。


 ネージュだってリスクに踏み込む場合はある。今回のように

 だけどそれは負けて失われるものが大きすぎたからで、戦いを楽しむような精神は持っていない。


 それにマステが放つ、どこから飛んでくるか分からない槍という攻撃がネージュの精神を削り続ける。


 ちゃんと考えられない。

 考える余裕がない。


 それでも体は自分にできるだけのことをしようと動き続ける。


 もう何度目か分からない背後からの飛翔する槍。

 それをネージュは慣れてきたこともあって、ギリギリで回避する。


「――散」


 マステがそう言った瞬間、飛来してきた槍が弾けた。破片というよりはタワシのような形状になって、そのまま無数の針として広がった。


 迎撃――不可。

 回避――不可。


 致命傷だけは避けようと、両手で心臓と頭部を守る。そのお陰もあってハリネズミのようになりながらもネージュは生き延びた。


 生き延びた?


 シルヴィなら止められたのでは?


 出血と痛みで朦朧とする中で見えたのは、クララを守って全身をハリネズミにしたシルヴィだ。


 次の瞬間には回復魔法が広がって、異物は押し出され、回復が始まる。

 その間に再度飛翔してくる槍、いや最初からタワシ状だ。

 回復は終わりきっていない。

 これを続けられると、押し切られて死ぬ。


 破裂する前に叩き落とすか?


 駄目だ。その時点で破裂する可能性がある。


 よって全力回避一択。


 槍に対して体の横を向けるように、その進路状から避ける。


 全身に突き刺さる針。


「っつぅ」


 痛みに思わず声が出た。泣き言が漏れた。


「このまま押し切ってもいいが、それではつまらんな」


 敵からの攻撃が止む。


「そら、回復魔法を使うがいい」


 秘蔵の魔道具のことを言われているのかと思った。

 アンリの回復魔法が入った魔道具をネージュとシルヴィは与えられている。

 即死さえしていなければ回復できるとアンリは言っていた。

 おそらく彼のことだから、過剰なくらいに強力な魔法が入っているんだろう。


 クララの回復魔法が再度広がって傷を癒やし始める。


「ああ、そっちのエルフはもういい。所詮はエルフ種か。見た目が良いからと寿命だけを引き延ばされた愛玩用では、頂には手を伸ばすこともできぬか」


 一度に四本の黒い槍がそれぞれ別の方から飛来する。すべてタワシのような表面をしているが、本体も十分に太い。

 つまり針を撒き散らしながら、本体も威力を持ったまま襲ってくる。


 判断の必要など無かった。


「シルヴィ! 来ないで!」


 おそらくこちら側の空間は針が飛び交い避ける隙間などなくなる。

 シルヴィでも全てを打ち落とすことはできない。

 その中で致命傷を与えられるだけの四本が襲ってくる。


 絶死。


 だからここだ!


 ネージュは身体強化を魔道具を発動した。

 そして床を蹴る。

 マステに向けて、全力で。


 床材にヒビが入る耳障りな音を残して、ネージュの体は黒い槍に貫かれに行った。飛んでくるそれを腹部で受けて、そのまま前へ。タワシ状になった表面が傷口をガリガリと削って、腹の中で槍は止まった。


 マステがネージュの突進を避けようとするが、ネージュのほうが早い。

 手にしていた短剣を捨て、両手首に付けていた鋼糸巻取機をぶつけ合わせ、作動させ、同時に手首から外す。

 そして身体強化の全力で巻取機をぶん投げた。

 すでに巻かれていた鋼糸が巻き上げられ、それはマステの全身に巻き付いた。


「お前は絶対に針が自分の方向に向けて飛ばないようにしていた」


 ネージュは口にする。

 死刑判決を。執行方法を。


「つまりお前の攻撃は、お前の防御を貫ける」


 至近距離でアンリお手製の回復魔法を魔道具を通じて発動させる。

 アンリがあまりにも嫁たちを愛しているため、その回復魔法は果てしないほど強力だ。

 ネージュの全身に突き立っていた異物、彼女の体を傷つけていた針が回復魔法によって肉体から摘出される。

 あまりにも勢いよく飛びだしたのでそれはマステの体に次々と突き立った。


「言ったはず、お前は殺す。いまお前自身の武器が、攻撃が通らないという概念を破壊した。そうでなければあれほど執拗に避けなかったはずだ。最後の言葉を」


「すばらしい! もっとも弱き者が知恵と工夫を凝らして強者を討ち果たす! ずっとそう在り続けろ。劣等種!」


「……」


 マステの言葉があまりにも普通だったので、ネージュは返事の必要性を感じなかった。

 ただ引いた。その首に巻き付いた鋼糸を。

 ヤスリのように加工された鋼糸は削り取るようにマステの首を、削ぎ落とした。

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新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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