黄泉返りの魔王 80 [人間の戦い 4]
「さて、質問ばかりで悪いが、魔物と動物の違いについて貴様どう考える?」
バルサンは即席のショートスピアを軽く振ってその特性を感じた。
軽すぎる、と感じるのはさっきまで大金槌を振るっていたからだろう。
総金属の即席ショートスピアは必要十分の強度を持っている。
「魔法使いが生み出したのが魔物、それ以外が動物だ。それ以外にあるかァ?」
「私はこう考える。本来の動物になんらかの特性が付与されている、あるいはできるものが魔物だ。アンリの言う魔力を取り込んで多少なりとも肉体を強化できる人類も魔物だと言える」
「はッはァ! なるほど。魔物ね。自分たちを魔物の一種、と。正しい。正しいぜェ。お前らは魔物だ」
ルキオは武器を双剣から馬上槍へと戻す。
バルサンの武器が取り回しの良いショートスピアに変わり、そして大金槌へ戻る可能性が無くなったため、大威力のある武器が良いと思ったのだろう。
「そんな特性の中には防御力強化とでも言うべき種類がある。物理的な強度ではなく、攻撃に対して物質の持つ以上の耐久力を発揮するものだ。小さいのに強い魔物なんかは大体この特性を持っているせいで中々倒せない」
「――!」
視界外から襲い来る馬上槍の突進攻撃を、バルサンはショートスピアで受け流す。
体幹がしっかりしているから、軽い武器でも重い馬上槍を受け流せる。
それどころか、受け流し、すれ違うその瞬間にルキオの目を狙ってそのねじ曲がった穂先を突き入れた。
が、目に入ったはずのショートスピアも弾かれる。
「貴様も魔物だ。その鋼の肉体。ただしく解釈するなら、防御力強化。故に目を狙おうが、口の中を突き刺そうが、攻撃は弾かれる」
「へェ、贅肉脳筋かと思えばよォ、ちったあオツムも回るようだな。だがそれを理解したとして、何ができる? 言っておくが、お前ら下等生物が限界まで強くなったところで、俺たちの防御は貫けねェよ」
「まあ、試してみよう。論より証拠だ。机上でいくら計算したところで、現実がそう動くとは限らん」
それまでピエールとの距離に注意を向けていたバルサンが、自ら動く。
ルキオに向けて最初の一歩を踏み出し、そして振り返りもせずに後ろに向けてショートスピアを突き入れた。
何も無いかと思われた空間にショートスピアの穂先は弾かれ、その軌道を変える。
パッと赤い物が舞った。
「なるほど。防御力というは完全に固定というわけでもないようだ」
「ぐっ、なぜ、なぜ分かった。知覚はできねェはずだ。そのはずだ」
バルサンから遠く離れた壁際で、右上腕に傷を負ったルキオが、武器化を解除した影を腕に巻き付けて止血を行う。
「当てずっぽうだ。勘だ。つまり経験に裏打ちされた最も可能性の高い位置を狙った」
「それでもッ!」
「試すか? もう一度近寄ることから始めなくてはな?」
「おまえ、どこまで分かって!」
バルサンは無造作にルキオに歩み寄っていく。ルキオは黒い翼を出現させて、ふわりと浮く。
「おや? この狭い空間で飛行は悪手だと思っていたから封じていたのでは?」
「馬鹿にしやがってェッ!」
馬上槍を出現させて真正面からの飛翔突撃。
「アンリと飛翔魔法で浮いたから分かるのだが、飛翔しているとな」
バルサンはショートスピアを上に投げ、両手で馬上槍を迎え撃った。
つまり、その穂先を両手で挟み込むように受け止めた。
掴み、止める。そして叩きつける。床に。
「軽いんだ。肉体の重さが軽減される」
そして落ちてきたショートスピアを掴み突き入れる。
その胸の中央。心臓の真上。
もちろん貫けない。
バルサンの力では貫けない。
できるのはその肉体を床に押しつける。ただそれだけ。
「ところで貴様らは魔法使いを生み出すと言っておきながら、魔法使い殺しとして設計されていやしないか? 私が言いたいのはつまり、本来の製作目的は別なのではないか? ということだ」
「答えるかよ! 下等生物がッ!」
「では、さようならだ。勝ち筋は見えないと言ったな。あれは、嘘だ」
「――は?」
振り下ろされる槍戦斧、それはピエールの装備品だ。
これまでずっと脇役として舞台の袖に控えていた彼に与えられていた本当の役割。
きらりとその胸元で青い宝石が光を放つ。
そこから沸き立つ魔力が、ただの兵士であるピエールの身体能力を何十倍、いや、何百倍かに変える。
一瞬のみの超身体強化。
ピエールという凡人が、この戦いに割って入ることのできるたったひとつの可能性。
アンリが死蔵していた尖りすぎた性能の魔道具が、ここに絶死の断頭台を生み出した。
「さて、耐えられるか? 貴様の硬いという概念防御と、アンリの思う全てを貫く攻撃力という概念。どちらか強いか、実証の時間だ」
ルキオの首を落とすべく、いまギロチンの刃が落ちた。
隣人のルキオの能力については設定はありますが、ご想像にお任せします。(にっこり)




