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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 77 [人間の戦い 1]

 バルサン伯爵のファーストネームはレイモンドという。


 バルサン前伯爵の嫡男で、幼い頃から武の才に恵まれていた。


 よく食べ、よく鍛え、そして帰らずの迷宮の浅層にて鍛錬を積み続けた彼は学院に通い始めると敵がいなかった。

 学力はともかく、武において、彼に敵う者は上級生にすらいなかった。

 剣術、槍術、馬術、いずれにおいても彼は高い実力を見せつけ、誰もがレイモンド・バルサンに一目を置いた。

 その頃にはもうその体格も完成されており、そういう意味でも注目を集めていたが。


 学院を首席で卒業し、領地への帰省の最中にバルサン伯爵、つまり父が帰らずの迷宮で消息を絶ったことを知った。

 それは領内の常備兵の半分を連れていった大遠征であった。


 領地へ戻ったレイモンドはすぐに残りの常備兵に加え、農民から志願兵を募った。

 バルサン伯爵は領民から慕われていたため、多くの志願兵が集まった。


 彼らを輜重兵として、レイモンドは帰らずの迷宮に挑戦した。


 慣れ親しんだ浅層を抜け、中層へ、深層へと至った。


 そして遭遇する。

 この世界の理不尽、ドラゴンという化け物。


 だがレイモンドには父を探すという目的があり、それには命を賭けなければならなかった。

 そして成し遂げる。


 犠牲を払いながらもドラゴン殺しを。


 快挙に沸く兵士たちの前に現れたのは、数匹のドラゴン。


 一匹ですら犠牲を必要とした。

 三匹が見えた時点でレイモンドは撤退を判断する。


 いや、それは撤退などという生易しいものではなかった。


 壊走。


 レイモンドは殿しんがりを務めたが、それでも守り切れなかった者は多かった。

 輜重兵として参加していた志願兵に犠牲を出さなかったのは、バルサン領常備兵の意地だった。だがその意地と引き換えに多くの命が失われた。


 この敗走と大損失にもかかわらず、父の遺していた遺言によって、レイモンドはバルサン伯爵を継いだ。

 責任を取って弟に領主を譲るべきだという声はあったが、その功罪は別としてレイモンドの客観的評価では、自らは弟に領主として勝っていた。


 悪評を受けつつも、領のために粉骨砕身働き、リディアーヌ王女の婚約者候補になった。

 この縁談が領にもたらす利益は計り知れない。


 リディアーヌ王女に嫌われているのは分かっていた。

 恐らくはこの体格のせいだろうと、当たりは付けていたが、レイモンドは不健康というわけではない。鍛錬の末に至った体なのだから、これを削ぎ落とすようなことはできなかった。


 結局レオン王子の、婚約を後押しするという甘言に負けて王族を死地に追いやった。

 婚約者競争相手のアンリという元平民に救われ、長い行方不明の間に喪っていた領主の立場も、そして父の尊厳も取り戻した。


 リディアーヌ王女の婚約者候補から外れたことで、以前から親交のあった令嬢と縁を結び、彼女は無事に懐妊した。


 貴族として平凡では無い道を歩んできたが、レイモンド・バルサンという男は至極一般的な幸せの渦中にいたと言っていい。


 その彼がなぜ命を賭して隣国が起こした大災害に一番槍として立ち向かわなければならないのか。


 彼が貴族だから。それもある。

 国王にはそう説明をした。

 貴族として、人として、為すべき事を為すために征くのだと。


 だがそれは嘘だ。


 レイモンド・バルサンには自覚があった。

 自分は決して人類の、この世の生きるもの全ての、その未来のために戦いに征くのではない。


 災厄の満ちる中に自分の子を生まれ落とさせたくない。


 そんな個人的な感情だ。

 あんな啖呵はお題目だ。


 彼はどこまでも利己的だった。

 おのれのためだ。


 おのれの子のために世界を救う、彼はただの人間の英雄だ。

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新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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