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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 76

 黒マントは探知魔法に引っかからない。

 理屈はなんとなく理解している。

 観測所で魔法無効化を研究した成果だ。


 確実では無いものの、黒マントと俺たちが呼んでいる[ボーエンシィ機関]とやらのエージェントたちは、魔法という現象を分解拡散している。

 俺の感覚では不可逆である魔力の魔法への変換は、同一の状態に戻すことが不可能なだけで、幻想魔法であれば特定の方向性を持たせ、意味のある魔力へと変換することができる。

 さらにそこから拡散し、発生した意味を霧散させることもできる。


 つまり二つの段階を踏めば、幻想魔法の魔力への変換は可能、ということだ。


 魔法への理解を才能として与えられている俺は、これはできる。これはできない。と直感的に分かる。

 分かるために、直感に頼りすぎていて、段階を踏まないとできないことは、できないと判定しがちだ。


 AからBはできる。AからCはできない。だがBからCはできる。

 こういう場合が往々にしてあるのだ。


 よってこの拡散をできないように場の魔力を固定化することによって、魔法無効化を無効にすることができるが、そのための魔道具は大きく、数が必要で、なおかつ範囲は狭い。

 相手を罠に誘い込まなければ成立しない。


「おおおおおおおおおおッ!」


 現れた黒マントに向けてバルサン伯爵が大金槌を横薙ぎに振るった。

 人間という生き物のほぼ限界値で振り抜かれたその攻撃は、黒マントを捉える。

 俺の目では知覚できないほどの速度で、剣であれば両断したかと思っただろう。


 実際には次の瞬間、破砕音が響いて、部屋の壁が吹っ飛んだ。

 バルサン伯爵の一撃を黒マントは手にしたランスで防いだものの、勢いまでは殺しきれずに壁をぶち抜いていったのだ。


「あれ、は、私の得物だ。ピエール、征くぞ」


「は、はいっ!」


 流石にあれに付いていくのはピエールでは無理じゃないか?


「駄目だ、バルサン卿! 敵の狙いはこちらの分断だ!」


 バルサン伯爵はこちらを一瞥して、しかしそのまま行ってしまう。

 聞こえたはずなのに、どうして。


「予定通り黒マントの一人をバルサン閣下とピエールで対処しつつ、クララをこちらに残したんだわ」


 シルヴィが言う。


「馬鹿な! 一番回復魔法が必要な二人だぞ!」


 シルヴィとネージュには回復魔法の魔道具を渡してある。

 最悪でも一度は回復ができる。


「アンリ! 状況は動いた。いま、この瞬間、この状況から最善手を打ち続けるしかないの!」


「くそっ! ヤツは下から来た。奴らはアレクサンドラの護衛に付いていたに違いない。アレクサンドラは下だ!」


「なら?」


「真っ直ぐに――」


 収束光魔法。瞬。

 完全に収束された光の束は、外に光が漏れない。

 照射されたその点での反射でしか知覚できない。

 言うまでもなく、完全に制御された収束光の威力は、熱量によって照射点で発生するプラズマすら打ち抜いて、そう、ただ穴が空いたという結果だけが残る。


「征くのみだッ!」


「私が先頭。クララ、アンリと続いて。殿はネージュ。あなたよ」


「俺とクララを入れ替えるべきだ」


「こうすれば前方からの奇襲で死ぬのは私、一手遅れたとしてクララまでで済む。最悪、後ろから撃たれても文句は言わない。後ろはネージュに任せれば大丈夫。どうせ前進するのだし」


「馬鹿ばっかりだ!」


「アンタの決めた命の優先順位通りよ。旦那様」


「分かっている!」


 と、そう言った時にはシルヴィはもう穴に向けてその小さな身を投じている。

 それをクララが追って、俺、ネージュと続いた。


 帝城の床を斜めに打ち抜いた関係で、真っ直ぐに底に至るわけではないが、毎階層ごとにそこそこの距離を落ちることになる。

 シルヴィはクララを受け止めて、すぐに次の穴へと向かう。


 いわゆるファーストペンギンだ。

 敵地への命がけのダイブ。


 なんで君は平気な顔でそれができるんだ!


 変われるならその役割を変わりたい。

 愛する人を死地に追いやってできた安全地帯を進むなんて、こんなの頭がおかしくなる。


「あ――」


 ネージュの声が途切れ、背後で風が吹いた。


 振り返る。

 そこにいるはずのネージュの姿がどこにもない。


 その代わりに目の前で止まる、黒いスピア。

 絡みついた赤い雫を垂らす糸が、それを留めている。


 ギリギリと音が鳴って、スピアが天井に向けて巻き上げられる。


「油断、はしてないけど、やられた」


「完全に不意を突いたつもりだが、よく守った!」


 そう言うのは黒マント。

 俺には理解不能な攻防。


「シルヴィ!」


 前じゃなく、後ろからの強襲!

 シルヴィとクララはすでに階下だ。

 シルヴィの身体能力なら上がってこられるが、それをするとクララが単独になる。


 ピエールを除くと、最弱がクララだ。

 そして優先度が高い。

 ネージュよりも守る必要がある。


「30秒保たせなさい!」


 シルヴィの声が階下から響く。


「ふふっ」


 ネージュが声を出して笑う。

 滅多に聞くことのない彼女の笑い声。


 こんな場面でなければ、こんなに嬉しいことはないのに!


「なんとか10秒にならない?」


「アンリ! 行って!」


 黒マントへは実現魔法でなければ効果が無いはずだ。


 俺と黒マントの距離は10メートルも無い。

 実現魔法を組み上げている間に、俺は殺される。


 転移――は、駄目だ。至近への転移にほとんど意味は無く、ある程度の距離となると戻るか、あるいは謁見の間など行ったことのある場所になる。


 つまり転移魔法の使用はこの場からの完全離脱だ。


 ネージュを見捨てる?

 シルヴィは戻るのに30秒かかる、と。

 ネージュは10秒なら保つ、と。


 その間の20秒は?


 何が起きる?


 天井へと巻き取られたように見えたスピアは黒い影になって、黒マントの手元に戻る。

 黒マントたちの影の武器化は共通能力だ。


 それだけか! 俺が得たのは!


 ネージュが床を蹴って、俺と黒マントの間に身を割り込ませる。

 その身を貫く。黒い槍が。

 肉に遮られて止まる。俺に、届かずに、止まる。


「――アンリ、この武器に無効化は生じていない」


 真空切断魔法! 幻想魔法なら一瞬すら要らないんだ!


 ネージュを貫いた黒い槍を風の刃で寸断する。通った。ネージュの言う通り、奴らの武器には魔法無効化の機能が無い。


「身をもって検証するな!」


 回復魔法によってネージュの傷は再生する。

 だけど痛みはあっただろ! 恐怖があっただろ!

 もし奴らの武器にも魔法無効化機能があれば、助けられなかった。

 回復魔法すら無効化されただろうから。


「糸で止めたときにほぼ確信してたから平気。これならあと20秒行ける。行って」


 振り返ると、俺が開けた床の穴からクララがひょいと顔を覗かせて、消えかけ、そしてシルヴィに抱き留められて、今度こそ床の上まで上がってきた。


「15秒で戻ってきたわよ。ネージュ、ここで止める」


「武器を経由して無効化は来ない。防具は未検証」


「了解。要は防御は禁止よね」


「ちょっと違う」


「行ってください。アンリ様。お二人が負傷しても必ず回復します」


 ああ――、ここまで来たら行かないことこそが怯懦。

 信じろ。彼女たちを。


 行くのだ。

 黄泉返りの魔王を止めるために。

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