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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 72

 サンタル・ルージュに向かう前にシクラメンでピエールを拾っていかなければならない。

 彼に連れていくと約束したから、それは守る。

 だけど彼にどこまで話せばいい?


 君の母親の仇は、か弱い少女を王国が叩きのめして生み出した魔王だと?


「話すべきだ」


 シクラメンに戻った際に俺が皆に相談するとバルサン伯爵は迷わずに言った。


「彼には知る権利がある。そして後から知らされるよりは先に知っていたほうがずっといい。どういう結末を迎えるにせよ、知らなければ選ぶことすらできない」


「私は教える必要は無いと思いますわ」


 リディアーヌはバルサン伯爵の言葉が終わるのを待って静かに言った。


「知れば迷います。思いは濁ります。選択できるということは選ばなければならないということでもあります。彼の気持ちを考えれば、真っ直ぐに進ませてあげるべきです」


「殿下は市民の教育に熱心であると聞いていたが?」


「ええ、そうしたい子へは手を差し伸べたいと思っております。ですが働きたい子から職を取り上げ、教育を強要することはいたしません」


「教育が無ければ他の道があることも分からぬまま、ただ働くだけの人生になる」


「それはいけないことですか? 働き、番い、産み、育てることこそ人の世の喜びです。得手不得手はあるでしょうから、再配置の余地はあるべきだと思いますが、当人に選択を強要することのどこに幸せが?」


 バチバチと睨み合う2人。

 この2人、婚約成立しなくて大正解だったのでは?


「2人とも、時間の無駄」


「じゃあネージュ様はどう思いますか?」


「聞かれたら答える。それだけ」


 それはとてもネージュらしい回答だった。


 わざわざ説明はしない。

 その一方で隠し立てもしない。


 突き放した優しさがそこにはある。


「ネージュの案で行こう。彼から聞かれたら答える。それ以上は必要ない」


「そうだな。今は議論している時間も惜しい」


「お互いの意見をぶつけ合うだけの場を議論とは言いませんよ」


 リディアーヌ、煽るなあ。

 なんかこの子、前からバルサン伯爵のこと気に入ってなかったけど、もしかして容姿じゃなくて性格が合わなかったのでは?


「忘れられていたのかと思って焦りました」


 合流したピエールの第一声がそれだった。

 俺は思わず目を逸らした。

 幸いその先にバルサン伯爵がいたので、手でバルサン伯爵を指す。


「バルサン閣下を迎えに行ってたんだ。ドラゴンキラーで迷宮踏破者。聞いたことはあるだろう?」


「おお、かの英雄譚のお方とお会いできるとは光栄です。あの世で母に自慢話ができます」


 こういうのって生存フラグって言うのかな?

 ピエールは目を輝かせて、バルサン伯爵に頭を何度も下げている。


 俺の時と反応違わない?

 もっと毅然とした態度だったじゃん。


「とりあえずこれで役者は揃った。作戦を確認しよう」


 とは言っても帝城内の情報は何も無い。

 探知魔法によって生存者がいることは分かっているが、それだけだ。


「俺が知っているのは帝城のこの範囲だけだ」


 俺は光魔法で中空に帝城の姿を描く。

 それはほぼ外観だけで、内部構造が分かるのは謁見の間と、そこに続く通路、そして待合室だけだ。


「外から帝城ごと吹き飛ばしてはいけないのか?」


 バルサン伯爵が身も蓋もないことを言う。

 この人もちょっと魔法を過剰に信奉してるところあるよな。

 できるかできないかで言えば、1発では無理かなあ。ってところだ。


「それをしない理由は2つあります。何があったかを語ることのできる証人を後のちのために確保したい。もう1つは元凶を殺して亡者が止まるか分からないからです。これが黒マントたちが黒い宝石によって起こした事件であると仮定した場合、過去の事例からすると元凶は事態を止める能力を持っていて、殺害すると制御不能になる恐れがあります」


 これはネージュの大氾濫を例にしている。

 ネージュの生み出した魔物は実現魔法の結果と同様に実存していた。

 またネージュを守るように動いていた一方で隔離されると暴走を始めた。


 これと同じことが亡者で起こると、それこそ世界の終わりだ。


 アレクサンドラを殺すと言ったが、それはそれ以外に方法が無かった場合だ。


 まずは説得を試み、黒い宝石の摘出を試み、それも駄目なら最後の手段だ。


「つまりこれほどの事態を引き起こしている相手に交渉を?」


 ピエールが憤懣やるかたないと言った様子で言う。


「殺せば止まると分かっていて、それが最も効果的ならそうする。だが逆に殺したらどうしようもなくなる恐れがある。だから情報が必要なんだ」


「そうだな。情報は重要だ」


 バルサン伯爵がちらりとリディアーヌに目線を向けるが、リディアーヌは肩を竦めるに留めた。


「だからまずは情報収集だ。生存者を探し、話を聞く。現地に行くのは俺とバルサン伯爵、シルヴィ、ネージュ、クララ、ピエール。この6名。俺は魔法全般が、クララは回復魔法が使える。他の4人は俺たちの護衛として立ち回って欲しい。黒マントと元凶以外は、回復魔法で対処可能なはずだ。基本的には全員が固まって行動。安全第一だ。人員の重要度は、俺、クララ、バルサン伯爵、シルヴィ、ネージュ、ピエールの順になる。何が起こるか分からない。下位の者はいざという時は切り捨てられる覚悟でいてほしい」


 爵位と実力を天秤にかけてこの序列になった。

 シルヴィは侯爵家令嬢だけど、跡継ぎでもなんでもないから、どうしても現役のバルサン伯爵のほうが優先度は高い。


「リディアーヌ、シクラメンを任せる。君を連れてきて良かった」


「お任せ下さい。妻は一歩引いて旦那様を守るものですから」


 さりげなくシルヴィとネージュに言ってるな、これは。

 いざという時は身を挺して俺と守れ、と。


 それは夫だから、というよりはこの危機に対処できる唯一の存在だからだ。

 クララさえ魔法使いとして育っていれば、バックアップになったのだろうが、現状では回復魔法しか使えない彼女は補助的な役割しか担えない。


 最初から黒い宝石を与えたままにしておくべきだったかもしれないな。


 だが今更言っても仕方がない。

 人は選択の結果を受け入れながら進むしかない。

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新作始めました。近未来超ハイスピードバトルアクションです!
全18話で書き終えておりますので、安心してご覧になってください。
バトルダンスアンリミテッド ~適性値10000超えの俺が世界最強になるまで~
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